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七色の稲妻 混血神の目覚め

2025年7月17日改稿しました。


 ここは異世界エクスド王国にある俺の実家。

 大きめの一軒家の農家の二階の部屋で朝を迎えた。


 自分の部屋があるのは貴族程ではないがこの国、時代においてかなり恵まれている方なんだ。

 このエクスド王国は現世人間界に次ぐ俺の「第二の」故郷になる。


 十七年前、この世界に来る前の俺、神成翔・当時中学二年生は現世人間界の日本で雷に撃たれ死にました。

 

 飼育委員をしていて学校で飼育していたウサギを庇って。

「あぶないっ!」

 

 と雷を察知しウサギ目掛け体がすごい速さで勝手に動いた。

 走ってだと間に合わない程一瞬なのでジャンプして庇った。

 

 体に超電流を受け死を自覚した時、何故か雲の上の世界に一人体が浮いていた。

 誰もいない雲間を泳ぐ様に飛ぶ。

 

 感覚が霊体的だった。

 気がつくとあれ、俺の背中には羽根が生えている。

 

 頭に天使の輪っかもあった。

 天使か神になったって事?


 全身から光が出た。

「その光は君が神になった証明だ。これからは異世界で神として生きなさい」


 謎の声が空間に響く。

 そう、俺は、人間から神に転生した。

 

 そして異世界に送られ赤子となり一七年が経った。

 今の俺は「神の子」スカーズ。

 

 異世界の地上で育った神。

 それもただの神ではなく、二種の神の混血なんだ。


 父は大地の神、 名前はドッゴ。

 母は大空の神、名前はスルーナ。

 スカーズの名は「スカイ」と「アース」を合わせた物なんだ。


 天界に住む異なる、かつ対立する神族である両親は、あるきっかけで恋に落ち結ばれた。


 しかし別神族との結婚は当然駄目なので、二人は地上に落ちたふりをして行き、そこで人間のふりをして暮らした。

 そして俺は二人に育てられた。

 

 俺は部屋で集中し左の指先から綿菓子の様な小さな雲をぼわっと出した。

 部屋の天井方向まで浮いて行く小雲。


「実験は順調だ」 

 また右手の指から僅かな地熱を出してランプに火をつけた。

 

 さらに手をあおいで風を起こした。

「ちょっと扇ぐと現世の扇風機みたいな風が起きるな」


 そして、いざと言う時こめかみと右手の甲に神の羽根を出せる。

 額に二種の紋章も出る。

 混血神だからこんな事が出来る。


 俺は窓を開け木に狙いを定め、右手を前に出し構えた。

「空気よ集まれ、弾になれ」


 目をつぶり詠唱する。

 集中し、イメージを固め、掌に力を集める。

 ブオッと言う音と共に掌に周りの空気がらせん状に回転しながら集まる。


 そして脳内イメージ通りに空気は野球のボール大の大きさの弾になった。

 「エアショット!」 

  俺は右手を前に出し叫んだ。 

 

 空気の弾は窓の外の木目掛けて掌から勢いよく飛んだ。

 ぐおうと風を切る音がする。


 恐らく時速八十キロ位の速度はある。

 この術は熱や切断性はもっておらず純粋に打撃属性だ。

 

 この術達は天界から持って来た神術書を読んで独自マスターした物だ。

 親に教わったんじゃない。 

 

 例えば例えば生活の為に狩りをしたり等今後の人生のため自主的にやった。

 ゴンと木にぶつかった音が響いた。 


 しかし、外にいた母さんが怒った。

「スカーズ! あまり戦闘用の技を使うのは止めなさい!」


 父さんも近くで言った。

「あいつ、俺との剣術修行があるのに自分でも独自に何かやってるんだ」

 

「戦いが好きにならないよう言っておいたのに。貴方もスカーズが危険な事をしてないか見ていて下さい」

 

 自分の能力発見と開発は趣味、日課の一つなんだ。

 これを学校でやってばれそうになった。

 だから辞めた。


 この時代の農家としては貴族の家程でなくともかなり大きく恵まれている。

 町から少し離れている。

 

 諸事情で領主にもらった。

 服と食べ物は農民の物だけど。

 

 でも本棚には天界から持って来た魔法書が一杯あって勉強に事欠かない。

 あと同じく持って来たインテリアとかもある。

 母が高貴な生まれなので布団も高級。


 で、俺は元人間の転生者だから内面は人間と神を合わせた物になるわけで、肉体だけでなく心も二種族を合わせた物なんだ。


 転生前、俺は勉強はあまり出来なかった。

 バスケットはしてたけど下手で気持ちだけ空回りする不器用な少年だった。


 走るのは遅くて逃げ足だけ速い。

 飼育委員をやっていた。


 動物の世話が好きなのと、将来は皆が楽しめるテーマパークを作る仕事に就きたい夢があった。


 お金がない人でも楽しめる物、収支関係はアイデアないんだけど紙とかでジオラマ作って練習した。

 今は農家の作業の手伝いが日課。


 異世界でもいつかテーマパークを作る仕事に就きたくてジオラマを作り続けていた。

 

 身分を隠しているため仕事がなかったり家にお金はあまりないけど幸せだった。

 愛し合った二人に色々な事を学んだ。


 親父には剣術と勇気を。

 母には逃げ足を。


 えっ? 「逃げ足」って何だって?

 その名の通り逃げ足の速ささ。


 えっ? 逃げ足が速いなんて自慢にならないって?

 はは、そうだね。

 男の子だったら「男らしく立ち向かえ」って人に言われるだろう。

 

 でも母はウサギやリスを見て言った。

「草食動物は争いを避け生きる為に逃げるのです。それは弱虫ではありません。そしてその逃げ足で弱い者を逃がしてあげなさい。憎い相手に対してもむやみに復讐したり感情をぶつけてはならないわ。戦いは避けなさい可能な限界まで。相手を理解し優しさを持ちなさい。思いやりを決して忘れず一番大事に」

 

 その言葉で俺は「逃げるのは弱いんじゃない」と確信でき、そして弱い者を逃がす努力をした。

 先日も俺は熊に追いかけられたウサギを抱えて猛烈なスピードで走った。

 

 母譲りの風に乗る力と、父譲りの強靭な足腰。

 無事ウサギを逃がす事に成功した。


「スカーズには草食動物っぽく育ってほしいわ」

 母は女神だけど女神だけあって神の様に凄く美しい。

 

 顔立ちだけでなく、緩やか且つ太陽の光の様なものが体から出ている錯覚さえする。

 全てを照らすような。


 俺は前世でも「怒った事あるの?」と言われる程おとなしい印象を持たれてたけど、異世界の母さんの教えで性格がさらに平和について確固とした考えになった。

 

 俺が前にエアショットを木に当てた時

「駄目よ、鳥の巣が落ちてしまうわ」


 と言われ、

「俺とは見てる場所が全然違うんだ」

 と思った。


 俺は子供の頃から母に聞いた。

「男は逃げられない事があったり悪人とも会うよね。そう言う時はどうした方がいい?」


「試練や自分のやるべき事から逃げるのはよくないわ。でも悪人や憎い人からは話し合い、それでもだめなら逃げる方がいいわ。自分も相手も傷つき争いが生まれるわ」

 

 それと復讐とか攻撃は駄目だと、怒りや憎しみを抑える様心がけた。

 ちなみに母さんは三十六歳なんだけど二十五から二十七位に見える。


 町を歩いているとすごい美人だって言われる。

 スッカ族の元王女で、地位を捨てて親父と結婚した。


 今は二十代に見えるけど俺が九歳位の頃は母さんはもっと若い外見だった。

 四歳の時駆けっこをした。

「お母様は風に乗れるから速い~」


「スカーズもその内乗れるわ」

 笑顔が絶えなかった。

 

 七歳の頃を回想した。

 親父が言った。


「スカーズは出来れば騎士学校に行かせたい」

 母さんは戸惑う。


「うーん、確かに立派ではあるけど、私はスカーズをあまり戦闘的な職業に就かせたくないの」

「おいおい、夫の俺がそもそも戦闘的職業だからな」


「否定はしないけど」

 俺が聞いた。

「母さんは僕にもっと強く男らしくなってほしいと思う?」


「悪くはないけど、でも『強さ、男らしさ』って戦いが強い事だけじゃないわ。アリさんの様にすごく小さくても力を合わせ頑張っているでしょう。思いやりを忘れない子であってほしい」


 母さんは九歳の俺に十代の少女の様な外見と笑顔で言った。

「スカーズの事は私が何があっても守って見せるわ」

 その言葉は凄く強い愛と頼もしさを感じた。


 神なのですごく若く見える為普通の親子関係じゃないみたいで母と言うより姉みたいに見えて一般的な母親とは違うんだなと言う感覚があった。


 そして、場面は変わり、農作業の傍らの日課である親父との剣術鍛練。

 かちんかちんと木刀をぶつけ合う音が響く。


 実は親父は軍ですごく偉い人や強い人ではない。

 すごい剣の奥義とかは持っていない。

 

 結婚前、親父はギルモクの兵士だった。

 対立するスッカ族の偵察に行った時、王女である母さんに一目ぼれし、国に内密で会い、親しくなった。


 でも身分の差があっても別種神族の王女である母さんに求愛し、禁止をはねのけ国を捨て駆け落ちして結婚したのが好きになったポイントらしい。

 目立たない様で驚くべき行動力がある。


 ちなみに俺は弱いです。

 やってるのは基礎鍛練だけ。


 現世の剣道初段までは行ってない。

 だから騎士や兵士、野党や怪物にもとてもかなわない。


「最強になりたくはないか」

「うーんそこまでは考えられない。俺は神で欲望がないから。食欲と物欲と性欲が低いから」


「そうだな、お前は欲がないからあれがほしいこれがほしい言わなかったなよその子に比べて」


「でも学校では変わってる言われたよ欲がないから。『ミスター控え目』とかいわれた」

 

 親父は言った。

「混血神のお前には伝説の『超大技使用スキル』が使えるかもしれない」

「それ何?」


「稲妻や嵐を呼んだり、パワーやスピードが著しくあがったり、低いレベルでも一定条件下でだけはるか上のすごい術が使える伝説の能力だ」

「へーすごい」


 俺はその他に独自練習をしている。

 体に魔法とも気功とも力が集まってくる。

 これが『神術』


 天界の住人しか使えない。

「エアショット」

 先程同様、詠唱すると右の掌にしゅううと空気が収束してくる。


 空気が手の中でボールの形になってくる。

 弾は生成できた。

 

 触った感じはゴムボールと野球の軟球の間位の硬さだ。

 それを木目掛け投げつけた。


 軟球が当たったくらいの傷とへこみがついた。

 本当はもっと速く硬くしたいんだけどね。


 これは神族しか使えず人間が学んでも出来ない。

 なぜなら体内に『神力』がないと使えないから。

 

 この神力を消費して出す。

 人間が使う風の魔法とは異なるんだ。


 空気の弾の後側に押し出すための引き金的な圧縮空気の塊を掌表面と弾の間に作りさらに弾性も持たせる。

 圧縮空気圧で同じく空気製の弾を押し出すんだ


「エアカッター」

 これは空気でナタ型の魔法のナイフを作成する技。


 長さ約二十センチ程で金属ほど硬くはない。

 威力的には、まだ戦いとかで役立つかわからないから実験中。


 これは両手で二発出す技で左右の手のひらに空気が収束してくる。

 さっきと違うのはこの空気をナイフ型に変える事。

 空気が変形し長さ十五センチ幅十センチの薄い刃物が出来た。

 

 この空気の刃を木に向けて飛ばすと表面に深さ三センチ程の傷を付けた。

 スピードはエアショットより少し遅い。


 この位じゃまだ実験段階で人間や魔物と戦う時の実戦に役立つレベルかまだわからないから、さらに修行したい。


 ちなみにこの術は天界の神術書を読んで独自マスターした物で両親に教わったわけじゃない。

 

 母は戦闘力低いし父は魔法が使えない。

 だから興味を持って自分で始めたんだ。 


 後、さらに開発中の技。

「空圧地熱弾」

 これは空気や風と地熱の力を結合した自分で編み出した技。


 でもまだ弾の形にならない。 

「これ難しいんだ」  

 なかなか上手くいかなかった。


「えいえいえい、試行錯誤試行錯誤」

 何とか集中するとまず中心の核となる地熱の弾が形になってきた。

「集まれ、地熱!」


 ついに半径三十センチの高熱の弾が出来た。

 これに気流をまとわせて空圧と地熱で敵を攻撃する原理。


 熱くて硬い地熱の弾の周囲を気流が覆って威力を上げるんだ。


「ウインド・コーティング!」

 これは想定ではエアショットやカッターよりかなり威力は上だ。


 風をまとった弾は半径七十センチ程。

 空気に切断力とドリルの様な貫通性、および爆発力を持たせてある。


「行け! 空圧地熱弾!」

 ついに飛ばす事に成功した。

 スピードも百キロ近い。


 これが木に当たるとエアショットより深くめり込んだ。

 しかも回転する周囲の気流がドリルやカッターの様な役割を果たし跡がついていた。


 エアショットとエアカッターは割りと初歩の技なんだけど、対して空圧地熱弾は俺が独自発想した物なんだ。

 

 だけど超大技発動スキルは全く未知、使い方も分からないしどうしたらいいのかもわからない。

 

 思うに夢の中で使っていた奴がそうなのかも。

 でも俺は会得してみたい、いつか。


 俺は思った。

「父さんは俺になるべく強くなってほしいけど、母さんの考えとはすこしずれもある。それも自分で考えて行こう。俺の考えはどちらかと言うと母さん寄りなんだ」


 俺は学校も行っていなかった。

 将来が分からなかった。

 人間と一緒に仕事出きるのかとか。


 実は一時期人間のふりをして学校に行ったけどどうも上手くなじめなかった。

 

 価値観ではなく特技とかが。

 俺は空の神だから「天気を当てる」特技があった。


 未熟だから完全じゃないけど。

 だけど、予報確率がすごく高いため、不気味がられて「預言者なんじゃ」と疑いがかかった。

 

 先生が言った。

「スカーズ君は天気を操る人になるでしょう」


 さらに神術を使った所を見られた。

 で本当にばれる前に学校を辞める事になった。

 でも俺は人間嫌いじゃない。


 だから教養と社会性は今一かも。

 本当は人間と普通に仲良くしたい。

 引きこもり同然だし、将来は不安だし世間知らずな感じだし。

 

 後、神だから欲や情熱があまりないんだ。

 もっとこうしたい、みたいな。


 俺の家は農家としてはそこそこ大きい。

 領主に家をもらったんだけど、それは母さんが神である事を黙っている代わりに、干ばつの時に「雨を降らす祈り」をやって町を救ったからなんだ。

 

 領主のアーシェラさんしかこの秘密は知らない。

 家族はもう一人いる。


 母さんの十七歳の侍女・ロミイだ。

「洗濯物干しておきました」


 とても従順で優しい。

 紫の髪がさらさらな感じ。


 ややおっとりした仕草も優しさを表している。

 やんわりと笑う所も。


 彼女がとても母さんを慕っていて結構家事を助けてくれている。

 掃除も料理の腕も抜群。

 

 ところがある日、それは破られた。

「人間のフリをして地上に住む神族、出てこい!」

  

「開けろ!」

 怒号が響き、扉が破られんばかりに強く外側から叩かれる。


 それは王や王子をけしかけて悪徳政治を行い、「地上にまぎれた神族」を殺そうとする宰相の部下の兵士達だった。

 

 ワーグ宰相、そしてエクスド教のウィッセルム教皇がバックにして事実上国のトップだ。


 父さんは言った。

「三人共、逃げる準備を固めなさい!」


「でも!」

 と母さんは言う。


「仕方ない、話し合いに持ち込む為開けよう」

 父さんはやむなく扉を開けた。


 け破るようにリーダーの騎士と兵士が入ろうとする。

「あ、あの一体……」


 リーダーの騎士は三十代前半のふてぶてしい挑発的な男だった。

 来てやった、と言わんげな雰囲気と俺達を見下し殺戮を楽しみにしていそうだ。


「貴様らだな。身分を隠し地上で生活する神の夫婦は。私は王国騎士ロベイアン!」

「何故それを」


 ロベイアンは説明する。

「わが国では既に調査済みだ。アーシェラから聞いたよ」

「アーシェラさんが⁉️ あの人が裏切ったんですか⁉️」


 俺も衝撃を受けた。

 人間と仲良くしたいと言う気持ちが瓦解しそうになった。


 しかしロベイアンは両親の動揺を尻目に続けた。

「さてと、ここに来た理由は分かっているな」

「あ、あの話を聞いてください」


「駄目だ、ワーグ宰相は即座に殺せとご命令だ」

「なっ!」


「と言う訳で殺させてもらう」

「待っ、待って下さい! 私たちは人間を攻撃してません! 殺されるゆえんは!」

 いきり立つロベイアンに対し父さんは話し合いに持ち込もうとする。


 しかしロベイアンは態度も答えも変えない。

「宰相のお考えだ。貴様らは人間を騙し身分を偽っただけでなく、母なる地上を汚した」

「え?」


 ロベイアンは力説する。

「この地上は我々人間の物だ。神は大人しく天界にいればいいものを」


「そんな……神が人間を汚すなんて。母なる大地は皆の生物の物じゃないか」


 母さんとロミイも続けて抗議した。

「そうです!」

「何故そんな傲慢な考えを持てるんですか」


 しかしロベイアンは全く聞く耳を持たない。

「宰相のお考えは神を排除し人間を地上の王とし他の生物は奴隷と食料となる」


「そんなこと間違ってる!」

「そうですわたしたちは人間とも仲良くしたいと思ってるんです」


「そろそろおしゃべりは終わりだ」

 父さんは答えた。

「妻と子は殺させない!」

 

 そして危機を察し後ろを振り向き叫んだ。

「逃げるんだ!」

 

 その瞬間、父さんの背中に矢が刺さった。

 え……?


「あ、あ、あ、貴方!」

 母さんは絶叫した。


「ああ、え、ちょっと待って、何が」

 俺は現実を受け止めるのに十秒かかった。

 頭に霧や雲が押し寄せた。

 

 そしてその後濁流の様な悲しみが容赦なく俺の心を襲った。

 心臓、嫌脳を撃ち抜かれた、いや踏みにじられた気持ちになった。


 俺達が駆け寄ると父さんはもう動かない。

 冷たくなった体にあったのは刺さった矢と流れる血だけだった。

 

 既に命はなかった。

 母さんは最後の気力を振り絞り俺とロミイに言った。


「スカーズ! 逃げなさい! そして私達と同様地上で身分を隠している神族を助けながらロミイに渡してある地図にあるマスター・ボックリンが作った理想郷に行きなさい!」


 しかし今度は母さんが剣で切られた。

「……!」

 俺の目の前で血が飛び散る。


「え? 何が……」

 また現実を受け止められなくなったが、海上から深海まで叩き落とされる様な悲しみが押し寄せた。

 

 血が大量に噴き出した姿は俺に恐怖と衝撃のみでなく母さんが死んだ現実を残酷すぎる程に脳と心に刻みつけた。

 

 俺の視界と世界が真っ暗になった。

 母さんはペンダントを最後の力を振り絞りくれた。


 母さんは最後の言葉を言った。

「例え仇であっても激しく憎んだり恨んだり、命を奪ったりしないで」

「……!」


 ロベイアンは楽しみすら込めて言った。

「次は小僧と娘だ」

「く、くうっ! よくも!」


 俺は生まれて初めて自制が効かなくなった。

 もう、もう、限界だ。

 

 全てが。

 あ、あう……

 ……う、う、ずあああ。


 俺のこめかみと右手の甲に羽根が、額に大地の紋章が出た。

 風が起きて窓をばんばん鳴らし地面が揺れた。


 俺はやつらに向け踏み込んだ。

 その時、俺を止める様にロミイはばっと前に出た。

 そして兵達に向けて呪文を唱えた。


「睡眠魔法!」

「うっ!」


 ロベイアンと前衛兵士は瞬く間に眠りに落ちた。

 さらにロミイは続けた。

「幻覚魔法!」


 これにより後ろに控えた兵士達は幻覚に包まれた。

 そして終わるや否やロミイは必死に、かつ素早く俺の手を引いた。


「逃げましょう!」

「しかし!」

 俺は眼前で親を殺され、すぐ逃げると言う事が一瞬で受け入れられなかった。


 しかしロミイは泣きながら叫び懇願した。

「お願いです! 今は逃げるんです!」


 頭が混乱しながら一瞬で少し冷静になり、それしかないと言う現実を認識した。

 俺はロミイの手を取り持ち前の逃げ足で無我夢中で逃げだした。

 これ程までに全力で走った事はない。


 後ろも振り向かず。

 振り向きたかったけど。


 ロミイが巻き込まれるのを防ぐためとは言え、俺は数十秒で両親を殺され、怒り戦うどころか全力で逃げるしか出来なかった。

 

 そのどうしょうもない現実に涙が走りながらとめどなくあふれた。

 俺はただ逃げ足が速いだけの男だ。

 自分がとてつもなく情けなかった。

  

 そして……一か月後だった。


 何とか逃げ延びた俺達は今両親がいざという時の為に作っていてくれた実家から十二キロ離れた隠れ家にいる。


 町の近くで神術によって外からは透明になっている。

 カモフラージュされてる。


 合言葉によって出てくる。

 町に通じる道が近い。

 

 庭に両親の名前を書いた石をおいて墓代わりにしている。

 毎日お祈りしている。


 決して貯えが多いわけではない。

 耕す農地もない。

 

 収入もない。

 いずれ食べ物はなくなる。 


 だから出発する。

 いや食べ物がないからじゃなく。


 死に際に母さんが言った「同種神族を助け理想郷を目指す旅」に。

 俺に課せられた使命。


 それを考えていると食事中ロミイは俺に言った。

「地図見ながらだとあまりお行儀良くないですよ」

「あっごめん、この先の道筋を考えないと何か不安で」 


 見るとロミイは食事があまりおいしくなさそうだった。

 時々箸が止まる。

「どうしたの」


「寂しく……ないんですか」

「えっ?」


「……」

「そりゃ、寂しいよ」


 何故か俺は少しだけ微笑んだ。

 ロミイを何とか安堵させないとと思った。


「そうですよね。あんな、あんなひどい事になって!」

「うん、俺だって許せないよ」


 でも普通なら怒り狂って人間性すらも失われかねない状況に俺は耐えていた。

 それって自制心が強いと言う自慢にはならんだろうけど。

 ロミイはあの時俺に切れてほしかったのかも知れない。


 ロミイは辛いながらも俺を褒めた。

「でもスカーズさんはどこか冷静でいられる。あんな事があってそれでも自分を何とか抑えられるって凄いです」


「そう、だよね……普通の人間なら自分を見失う程怒ってるよね。でも俺はぎりぎり抑えられてる」


「すごいです。さすが神様」

「弱虫だからかも、ロミイだって神族だけど」


「私は違います……」

「え?」

 小声で聞き取れなかった。


 ロミイは話題を前に戻した。

「そんな事、弱虫じゃないですよ」

「憎しみのまま復讐したかった。でもロミイも巻き込まれるし」


「自分の方が辛いのに人に与える影響を考えるなんて優しいんですね」

 ロミイは微笑みを俺に向けた。


 何か二人だと妙に緊張するな。

「おっと、弱気になってる場合じゃない。近い内旅に出なきゃね。俺が自覚を持って苦しんでいる神族達を救うんだ」


「私も全力で」

「じゃあ、食べ物の買い出しに行こうか」


 俺達は近くのトラジスの町へ行った。

 ここで食べ物を買っている。

 

 勿論軍のやつらにかぎつけられたらまずいから帽子を深くかぶる顔が見えにくい恰好をしている。

 ここもいずれ制圧されるだろうと言う雰囲気だ。


 俺達は小声で話した。

「今日は軍の奴らいないみたいだな」


 俺達はなるべく安いもの、少し栄養もあるもので野菜を中心に買った。

 そして目立たないよう急いで帰った。


 すると家の近くに三十四歳位の少し気の弱そうな目が穏やかなショートヘアの女性が追ってきた。

 

「あれ? あの人?」

 腰が低い印象を与える。

 怖がりではっきり断れなさそうな感じだ。


 俺達は少し疑った。

「あの」


「あ、きゃっ! あの、ここ建物透明から突然現れたから! ご、ごめんなさい」

 何か本当に悪気のなさそうな人だった。


「あ、あの」とまごまごと疑われて怯えどう説明していいか戸惑った感じ。

 それはスパイが正体を隠すのと少し違う気がした。

 この人には血の匂いがしない。

 

 しかしロミイは耳打ちした。

「この人軍の人じゃ、変装して偵察してるんじゃ」


「え? あんまりそういう風に見えないけど」

「信じては駄目です! あんな事があった後なんですから」

 

 ロミイは彼女に言った。

「あなた、怪しいわ、もしかして軍の人で嗅ぎまわってるんじゃ」


「ええーっ! そんな! 私は買い物帰りの主婦です!」

「嘘よ!」


 俺はロミイを制した。

「断定はやめよう」


「あ、あの本当に何でもないの、これ建物かしら、と思って」

「良ければ家に入りませんか」


「まあ、神術で作られた家」

「あの、ロミイがちょっと失礼な事言ったんでお詫びと自分で確かめたくて」


「ぐ、軍の人とかじゃないわ!」

 雰囲気で決めるのは良くないけど、この悪気のない慌て方どうも善人だ。


 しかしロミイは言う。

「私はまだ信用しません」


「私はメイラ、近くに住む主婦よ。それだけなの」

「……」


「お二人で住んでるの? 親は」

「それが……」


 俺は訳を話した。

「まあ」

 

 メイラさんは悲しんだ。親身になって。

 この人本当に悪気が感じられない。


 初めて会った俺達に本当に同情している。

 演技じゃないって感じがする。


「お肉とお野菜を少しあげるわ」

「毒が入ってるんじゃ」


「ロミイ」

「じ、じゃあもう帰るわ。がんばってねスカーズさん」


 本当に悪気のない柔らかい言い方だった。

 良い人なんだと確信できた。

 

 その時呼び鈴が鳴った。

 俺はあまり疑わなかった。


「誰だろう」

 俺はあまり警戒せず出て行こうとしたがロミイはびくびくしている。


「嫌な予感が……! 悪意がします」

「……」


 俺は恐る恐るノブに手をかけた。

 すると強い力で外から引っ張られた。


 それはあいつだった。

 ロベイアンと軍の奴ら。


「何でここが分かったんだ」

「そりゃ調べたからに決まってんだろ。しかし若い女と同棲とはいい身分だな小僧」


 それを聞いたロミイは激高しバケツに入った水をロベイアンにざんぶとかけた。

「ぐ……! このアマ!」


「よせ!」

 俺はロミイに手出しさせないよう道を塞いだがロベイアンに強く押し飛ばされた。


 ロミイは必死で叫んだ。

「睡眠魔法!」


 しかし、すかさず後方の魔法使いが呪文を唱えた。

「魔法封じ!」


「あ、あう!」

 魔法で口が塞がれロミイは呪文を唱えられなくなってしまった。


 こ、こうなったら逃げるしか!

 と俺は思った。


 ロミイの手を取りダッシュで外へ出ようとした。

 しかし外は用意周到にも兵が囲んでいた。

 俺の習性を学習してたみたいだ。


 逃げる隙が無い!

 ロベイアンはロミイに迫った。


「くっくっく。女、まずお前からだ」

「きゃあっ!」


「よせっ!」

 しかし俺はロベイアンに殴られダウンした。


 ロベイアンはロミイの顎を掴み言った。

「お前をたっぷりいたぶってからだ」

 怒ったロミイはロベイアンをひっぱたいた。


「くそが!」

 お返しの様にロベイアンがロミイを叩くと彼女は床に叩きつけられた。


「……っ!」

 さらに奴らの凶行は続いた。

「お前もだ」

 

 ロベイアンはメイラさんにまで手を出してきた。

「こっちの女も楽しめそうだ。娘に比べたら少し年増だがな。お前ら、こっちの女はやるぞ」

 ロベイアンは抵抗するメイラさんを殴った。


 その瞬間俺の何かがはじけ飛んだ。

 ドクッ……

 それと同時に空や室内に轟音が轟き出した。

 

「何だ?」

 空にゴロゴロと音が鳴り響く。

 するとロベイアン達の眼前に、何と稲妻が天井を突き破り落ちた。


 床に穴が空き、焦げてそこから煙も出ている。

「え⁉️」


 さらに稲妻は二、三発続けて落ち、一本目と同様に床を貫き、焦がした。

 そして一転、今度は地面、床が家具や机がひっくり返りそうな程激しく揺れた。 


「え、え、え⁉️」

「何が起きてんの?」

 皆目を丸くし事態が飲み込めていない。


「何が起きたって言うんだ!」

 しかし兵の中で飲み込めた者はがたがた震えだした。

  

 兵達は騒いだ。

「建物を突き破って家の中に落雷が!」


「さらに地震まで!」

「このガキが起こしたと言うのか!」


 外の兵が報告に来た。

「ロベイアン様! 雲一つない青空だったのに暗雲が!」

「地面にも割れ目が!」 


「まさかこいつがそれ程の力を」

 ロミイも含め騒然となった。


 そして俺の額の左右にそれぞれ空の紋章、大地の紋章が感情の高まりと連動し浮かび上がった。

 

 普段は一つずつ浮かび上がる空と大地の紋章がそれぞれ中央に向かい移動し遂に一つの紋章に結合した。


 そしてこめかみと右手甲に十五センチ程の長さの羽根が出た。

「何だあれは⁉」


「これはドッゴお父様が言っていた混血神だけが使用できる『上級神術限定使用スキル』?」

 

「うおおおっ!」

 俺は高熱を帯びた右腕の拳でロベイアンを思い切り、ありったけの怨念をこめて殴った。


「ぐあああっ」 

 体が浮き上がり顔が変形し吹き飛ばされるロベイアン。

 

 彼は直後壁に激突した。

 俺がさらに倒れたロベイアンをつかみアッパーで顎を殴り上げる。


 彼の体が宙に浮いた。

 そして、俺はロベイアンが逆に落ちてきた所を振り下ろしパンチで叩き落とした。


 筆舌に尽くしがたい両親の無念。

 他の神も攻撃し、ロミイにも手を出し、あまつさえ何の関係もないメイラさんにまで。

 ここまで本気で人を殴った事は人生でない。


「ロベイアン様!」

 戸惑いながらも迫ってきた兵二人にそれぞれ同じくらいの強さのパンチを食らわせる。

 すると一人は吹っ飛び一人は浮き上がった。


 さらに地震が激しくなり、遂に他の兵達は立っていられなくなった。 

「あああ!」

 

 家も瓦解寸前。

 家具は倒れ壊れる。


 さらに開発中の切り札、空圧地熱弾。

 地熱を持った核球体に気流をまとわせた弾丸を手から発射する。

 

 まず直径三十センチと小さいが熱い球が形成された。

 そして形が出来た後周囲に気流が集まる。


「はっ!」

 この弾が手から高速で発せられた。

 ロベイアンだけでなく兵数人を巻き込むように当たった。


「ぐああ!」

 小爆発が兵達の中心で起きる。

 まだ凄い威力ではないのだが、ロベイアンと兵達をかなり弱らせた。


 さらに俺の手に爆破力を持った空気弾、空気製爆弾とも言える神術技が発生する。

 シャボン玉の様な直径五十センチの空気の弾が発生した。

 自分の意思より自動発生だ。


 これは普段は使えない。

 爆発性の空気の塊が自動的に近い感覚で三発手から発射され、兵の集団に向かい三方向に分かれそれぞれ爆発を起こした。

 

 規模はともかく威力。

 兵の体ごとこっぱみじんにしてしまいそうな程だった。

  

 エア・ボムとでも言うべきか。

 でも命はなくなってない。


 最初の爆発は直径七十センチ程だったが、さらに二、三、四発と自動連鎖発生した。


 煙が宙に浮く。

 残った兵達は震え道を開けた

 外の道を兵達は塞いでいた。

 

 俺はそいつら何人かに高熱を帯びたパンチを食らわせる。

 そして離れた距離にいる相手には指を前に出す構えを見せる。


 俺の指先から約十五センチのエアカッターが巨大化して長さ約一メートル五十センチの空気の刃となり何発も発せられる。


「ぎゃあ!」

 兵士達は服や体を巨大な刃で切られ血が飛ぶ。

 

 こんな大きな刃は普段は俺の力では出せない、スキルのおかげで巨大化したんだ。

 夢の中にも出てきた神術。


「これがスカーズさんの限定使用スキル……」

 そしてこの前と同じ様にまたロミイを背中に乗せ全力で逃げた。

 荷物等は置いてきた。

 

 すなわちこれが旅立ちだった。 

 上級神術スキルの事はまだわからなかった。  

 必ず神族達を理想郷に連れて行く。

  


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