やはり逃げられず 第二の神と人間のハーフ戦士
2025年4月13日改稿しました。
「待てっ!」
森の中で遂に神族の少年を見つけた俺はワグナー宰相の部下らしき連中を止めた。
少年二人が連れ去られようとしている。
手下兵は十人、ボスらしき男が真ん中にいる。
父親は安堵と悲鳴が混じった叫びをあげた。
「トーボ!」
「パパ!」
子供も親に会えた安堵と殺されそうな恐怖が混じった声を出す。
俺は言った。
「その子を放せ」
ボスらしき男は言った。
「ほう? 誰かと思えば、私の誘拐を阻止したガキか」
「何?」
「ふっふふ、私は怪しい中年のふりをした騎士隊長エグイゼルだ。何故姿を変えられるか分かるか? 俺もゼッツリオンと同じ神と人間のハーフなんだよ」
「何だって⁉」
「殺し損ねた神族のガキが自分からやって来たか。ゼッツリオンに殺されたと思っていたが懲りないやつだな。神族は利用できるやつ以外は皆殺しにして社会を浄化する」
俺は高速で子供の手を取り後方へダッシュした。
「あっ、逃げるだと? 待て!」
俺は声を聞かず高速でダッシュ。
しかしエグイゼルは脅してきた。
「父親がどうなっても良いのか」
俺は諦め止まった。
「やっぱり逃げられないか」
「腰抜けめ」
ロミイは言った。
「こんな時まで戦いを避け弱者を逃がす事を最優先にしているスカーズさんやっぱり勇気がある」
「そうかな?」
「お母様も喜んでますよきっと」
「母さんの教えを曲げたくなかった。悪人を前にしても。それに母さんの考えが否定されるのもやだった」
俺は改めて向き直った。
「今度は負けんぞ」
「今は仕方なさそうだ、母さん、」
「スカーズさん、無理しないで……」
「そいつゼッツリオン位強いかも」
ロミイもティルも辛そうだった。
俺は前に出た。
「その子は殺させないぞ」
俺はゼッツリオンに全く歯が立たなかった事を思い出した。
そして両親が殺された時に何も出来なかった。
こいつも同じくらいの強さなのかも
ロミイの前で見せない様にしたけどとても悔しく辛かった。
だからロミイが反対するのを承知した上でティルにトレーニングを頼んだんだ。
戦いは嫌いだ。
ロミイが言う様に戦いを避けられたらどんなにいいか。
彼女にも心配かけないで済むし。
でもそう言ってられない。
ロミイは気にしてるけど。
俺を戦わせたくない彼女の表情がずっと辛かった。
ゼッツリオンには歯が立たないだけでなく謝ろうかと思う程恐怖を感じてしまった。
そう言う事を克服したい。
後それだけじゃない。
俺は学校にも行ってなかった。
神だとばれるのが怖くて辞めたんだ。
あんまり怒らない事とかで「神っぽい人」と言われた。
将来の事を考えても答えが出なかった。
出きる仕事があるのかとか親元にいちゃだめだとか。
生前も勉強もスポーツもあまり出来なかった。
テーマパークを作る夢と動物の飼育位だった。
下手でもバスケ楽しかったけどね。
だからせめてこの使命が俺の生きる理由。
ティルが言った。
「私が先制するわ」
しかし俺は制した。
「いや、俺が出る」
ティルは戸惑った。
「そんな、貴方は修行を始めたばかりじゃない」
「やりたいんだ」
ティルは何か言いたそうだったが俺の意を汲み引いてくれた。
俺はお礼を言った。
「ありがとう」
ロミイは不安そうだ。
エグイゼルは言った。
「お前はこれまで何度も逃げ出したそうだな。逃げ足だけが取り柄か?」
「……」
俺は何も言い返さなかった。
さらにエグイゼルは言った。
「こいつは言い返す事も出来んらしい。おい、さっさと殺してやれ」
「何だって神を敵視するんだ」
そう言った俺にティルとロミイも続いた。
「でも貴方も半分は神なんでしょ?」
「あなたたちはバチが当たる」
エグイゼルは開き直った。
「神にバチを当てるのは我々エクスド軍だ。もちろん人間どもにもだ。それに我々は無神論者ではないエクスド教のみが正しい神なんだ。貴様らの様な偽の神は殺す。薄汚く人間を騙す神どもめ」
ロミイは叫んだ。
「何て偉そうな!」
「偽物じゃないし騙してもいない!」
俺に手下兵達が身構えた。
「ガキをさらったら親は殺す。地上で子を作りやがって地上がさらに汚れた」
「そんなことさせない。神だって人間と同じように必死で生きてるんだ。子を産み愛しているんだ」
ロミイは叫んだ。
「その子に何の罪があるの」
「地上で子を産んだ親が悪いんだ。尤も神であるだけで悪だが」
兵たちもいう。
「なにが神だ地上に降りて来て人間を騙そうとしおって」
「紛い物の神は我々が滅ぼす」
「そうだそうだ」
俺はエグイゼルとにらみ合う。
「よし!」
俺は体に思い切り力を入れた。
俺の額の左右に空と大地のマークがそれぞれ現れ、耳の後ろ上方と右手の甲に羽根が出来た。
「なっ!」
兵は言った。
「あの羽根や紋章が出た時稲妻を降らせたと言う報告があります! 警戒した方が!」
「構わん、やれ!」
十人の手下に向け俺は指を前に出した。
「特訓の成果を見せる! エア・カッターの強化連射版を出す!」
渾身の力を込める。
ティルは止めた。
「ぶっつけ本番じゃない!」
「分かってる。失敗したら非常に不利になる。でもやるしかないんだ」
ティルはきゅんとしたような顔をした。
何だろう。
失敗したら力がなくなり兵に袋叩きにされる。
勝つとしたらこの技だけ。
だから全てを賭けてやる!
まぐれでも良いから成功してくれ!
空気を集めるんだ、集めるんだ。
気流がどんどん集中と共に集まる。
「大連射エアカッター・シャワー!」
正直全てをこれにかけた。
自分の命がなくなっても。
精神集中と共にロミイと初めて特訓した時とは比べ物にならない数の直径七センチ程の無数の刃が手から生み出され発射され兵達を襲った。
雹の様な刃の雨だ。
四十発はあるだろう。
現世で言うシャワーみたいにつまり出口を小さく無数にするような原理なんだ。
一つ一つの刃は単発式より小さいけど。
小さな刃が光を反射し光る。
「出来た!」
自分でも出来たのがびっくりする。
まぐれかもしれない。
兵達は騒いだ。
「何だありゃ、ぐわっ!」
無数の刃はあられのように兵の皮膚を切り裂いた。
鎧を切るのは無理なので皮膚を狙う。
まだ狙い撃ちは無理なので数で勝負する。
一発一発が凄く強いわけではないけど。
ティルが言った混血神は成長が四倍と言うのを初めて実感した。
ティルも驚いた。
「凄い。特訓はしたけど予想をはるかに上回る力だわ」
ただし刃がどんどん小さくなっていく。
そこまでの神力はなかったんだ。
兵達は毒の雨が降って来た様にわめいた。
ティルが特訓を遥かに上回っていると言ったけど、この力は厳密に言うと数日の彼女との訓練の成果ではない。
それは能力の伸びだけでなく覚えるスピードも四倍と言う事だ。
実感できた。
でもすごいエネルギーを使うんだ。
単純計算で十倍。
だから一発の刃を小さくして抑えてる。
倒れるかも。長時間発射は無理だ。
シャワーみたいな勢いで体の力が抜ける。
死ぬかも。
駄目だ、これ以上はもう撃てない、飛ばし過ぎだ。
ゼッツリオンに大敗した事とか、ここ数日の苦しみ悩みを全て攻撃にぶつけているんだ。
だから大量のエネルギーを消費してるのに苦しみが緩和された。
今度はあの子を守る。
そして同様に迫害されている神族を理想郷に連れて行く。
ティルは喜んだ。
「やったじゃない!」
しかし俺はもう疲労困憊だった。
撃ち終わり疲れがどっと出た。
「切られただけだ!」
勢いを落としながらも進撃する兵士達。
「ならこれだ!」
俺は強風起こしを使った。
「ぐ、ぐおう! ひるむなただの風だ!」
「駄目だ風だけじゃ抑えきれない。ならば稲妻を呼ぶ限定スキルしか残ってない。よしならば神力と奇跡力を五十ずつ注げば雷程ではなくても強い技が使える、特訓した竜巻をここで使う!」
俺は奇跡力を五十パーセント注ぐ祈りをした。
雷を呼ぶのと違うのは雷の場合は体力一:奇跡力九十九とかだから。
「ちょうど雷の半分位の威力の技を半分の奇跡力で出すんだ」
力を溜めながら祈ると手に風の力が集まる。
「何だあいつ、手に小型竜巻みたいなのが」
「食らえ! 放射型竜巻!」
俺は手から放射状竜巻を兵達に向かって発射した。
直径約八十センチの直線の竜巻。
集約型で風力を内包。
ごうごうと嵐の様な音が起きる。
兵達はこれに飲み込まれる
「ぐああ」
強風の力に巻き込まれ動きを止められた兵達は竜巻と共に浮き上がる。
そして竜巻が斜め上に軌道を変えると兵達は一緒に上空に浮き上がる。
「うわ!」
さらに竜巻が斜め上空から地面に向かい激しく急降下
した。
「ああああ!」
中の兵士達はそのまま投げ飛ばされる様に地面に叩きつけられた。
立ち上がれなそうだった。
ロミイは喜んだ。
「新技が成功したわ!」
しかし俺はティルに言った。
「だがもうエネルギーがなくなった。立ってるのもぼろぼろだ。君のエネルギーを分けてくれ」
「おのれ風の神め、見たことのない妙な技を!」