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どちらが悪い子?

お久しぶりです。

もうすぐクリスマスですね(唐突!)。

というわけで、クリスマスエピソードをお届けしたいと思います。

とかいって、宣言しちゃってから、クリスマスまで毎日更新出来なかったらごめんなさい。

皆様の大好きな変態出島さんを、お楽しみください♪

脇役のみなさんにも、頑張っていただく予定です。この脇役にスポットライトを!という熱いメッセージ、お待ちしています☆

 

 自分の欠点なら、自分が一番よく分かっている。


 だから、決めた。


 だから、誰にも言ってないけど、恥ずかしくて誰にも言えないけど、あたしの心の中では決定事項。


 その決断が下されたのは、もう数ヶ月前になるというのに、あたしは未だにそれを実行出来ないでいる。


 それって、あたしだけのせいじゃないと思うの。 それとも、そう思ってしまうあたしは、何かに理由をつけて、のらりくらりとその決定事項から逃げようとしているだけなのかな。 でもそれだって、確かめようがない。


 自分で決めたことなのに、相手がいないと実行出来ないなんて、なんて世の中不便なんだろう。 ああ、違うか。 不便なのは、人生。 もっといっちゃえば、不便なのは、彼だわ。





 「ただい……ひっ!」


 ごくごく普通にただいまを言って、長かった学校からの道のりに疲れたあたしが玄関の扉を開いて、靴を脱いでからお母さんにあったかいお茶でも入れてもらおうなんて、ごくごく普通の想像をしていた。 ただいまも言い切れず、靴脱ぎ場と玄関の段差にだらりと片腕を垂らして転がっているそれは、ホラー映画の一シーンさながらで、あたしは悲鳴を上げた。


 「何してるんですか。出島さん」


 その生気のない顔を見て、あたしは少し落ち着きを取り戻す。 何故って、それは出島さんだったから。


 出島浩平、通称出島さんは、河童である。


 ああ、そこのひと、いきなりお茶を吹き出さないでください! それから、そこのひと、あたしはいたってまともな神経の持ち主です!


 異常に整った顔立ちで、異常にきれいな身体の持ち主で、黙って歩いていればパリコレあたりからもお声がかかりそうな、問答無用に美形な出島さんは、しかして変態である。 それはもう見事に、その容姿端麗さも木っ端微塵に吹っ飛ぶくらいに変態である。 河童である出島さんは、何の因果か、うちの実家である神社に祀られている龍神に用事があり、彼(そう、龍神は男性です)に会おうとした矢先に頭の皿が枯れかけて死にかけたらしい。 そこへ、何も知らずにあたしがやってきて、神社の境内の掃除の最中に、ごみだと間違えて箒で掃いたら、出島さんはどんぶらこっこと丘を転がっていき、着いた先が池だったらしく、出島さんの頭の皿の乾きはめでたく癒されることになった。 だもんで、出島さんの脳みそでは、あたしは命の恩人ということになっていて、ストーカーよろしくあたしに『再会』する機会を虎視眈々と狙い続けていたら、まんまとそのチャンスがやってきて、あたしはあれよあれよというまに、出島さんの魔の手に落ちた。


 気付けば、出島さんはあたしの家に居候していて、気付けば、出島さんはあたしの中で大きな存在になり(といっても、あんな変態、一度遭遇すれば忘れようがないと思うけど)、気付けば、出島さんはあたしの、あたしの、うう、言いたくないけど、あたしの恋人である。


 ああ、あたしの人生ったら、何でこんなことになってしまってるのかな!


 出島さんてば、本気で気持ち悪いし、親父ギャグばっかり言うし、フレンドリーなボディタッチと称するセクハラは非道いし、河童だっていうせいで万年手の平が湿ってるし、あたしに近付いてくると決まって息が痴漢よろしく荒いし、リアクションがいちいち激しくて疲れるし、あたしの部屋に無断に入ってくるばかりか、勝手に寝顔を見てたり写真撮ってたり目を覚ませば隣で添い寝ってたりするし、とにかく、出島さんの言動は何もかもが変態なのだ。


 というわけで、玄関で死体ごっこをしながら他人に構ってもらうのを待ち構えていた出島さんを見て、あたしはいつものことかと、逆に落ち着きを取り戻すことが出来た。


 あたしの問いにも無視を決め込む。面倒臭いなあ、もう。 こちらも無視をすることにして、玄関でローファーを脱いで、ちょっと考えてから出島さんの足の方から家に上がることにした。 だって、顔の近くだと、手で捕らえられそうじゃない?


 「隙ありっ!」


 忍者みたいな台詞と共に、出島さんがゴキブリに酷似した動きで体を回転させ、あっという間に足があった位置に頭を持ってくると、あたしの足首をむんずと掴んだ。


 「うわ、わっ!」


 もちろん、こんな訳分からん行動に出られるとは思っていなかったあたしは、バランスを崩して、膝を床で強打して四つん這いの姿勢になる。 うう、痛い。 でも良かった、壁の角で鼻をぶつけたりしなくて……。


 「きゃー! うららさん! 大丈夫ですか、大丈夫ですか? 今、膝がごぎゅり!と音を立てて床に当たりましたけど、大丈夫ですかっ!」

 「誰のせいだと思ってるんですか!」


 膝がじんじんと痺れるみたいにして痛い。 痛みで、ちょっと涙目になりながら後ろでぎゃーぎゃー騒いでいる出島さんに向かって声を荒げると、なぜか、


 「くわぅっ! な、なんですか、反則ですよ!」


と、更に訳の分からない応答をされる。


 「うららさん! そ、そんな格好で、制服に四つん這いなんて格好で、こちらを恨めしそうに振り返りつつ、その可憐な瞳に涙を浮かべて、唇を悔しそうに噛むなんて、反則です! ぴぴーっ! 即レッドカードものですよ、そんな悩殺ショット!」

 「だからっ! 誰のせいでこんな体勢になってると思ってるんですかっ」

 「くふ、くふ、くふふふふ。 そうですよねえ、そうですよねえ。 僕ですよねえ、僕のせいですよねえ。 だって僕とうららさんは、星が定めた運命の恋人同士、天の川の氾濫さえ僕たちの愛を妨げる事は出来ず、その愛の深さは四次元ポケットをしても測りきれず、この愛で世界は平和になるどころか、嫉妬で燃え尽きてしまうでしょう!」

 「世界を滅ぼしてどうするんですか、それから、星が定めたって、どこの星? 誰が定めたんですか」

 「もちろん、出島星です」

 「それって、変態ばっかりが住んでる、地球の生き物全てが忌み嫌う星のことですか」

 「やーだなあ、違いますよう。 うららさんが大好きな僕が住んでいる、将来はうららさんの所有物になる星のことです」

 「あたしの所有物になったら、そんな星、真っ先に破壊してやります」

 「うららさんたら、独占欲の塊さんなんですからあ」

 「どこをどう曲解したらそうなるんですかっ!」

 「ぐふふ、大丈夫ですよ。 僕には全て分かっています。 うららさんは、照れ屋さんで謙遜さんだから、出島星に遠慮しているのですよね。 でも、ご心配なく! 出島星は、いえ、僕出島浩平は、すでに身も心もうららさんの所有物です」

 「ちっか、よって、こ、ない、で!」


 明らかに不条理な論理展開を押しつけながら、出島さんがじりじりとタコのように口をすぼめてこちらに近寄ってくる。 そのおでこを片手で力一杯押し戻しながら、あたしは膝の調子をみていた。 打った衝撃で痺れていたものの、大分収まったっぽい。 片足に力を込めて立ち上がるのと同時に、出島さんのおでこを横に振り払った。 途端、ぐき、と嫌な音を立てて、出島さんが崩れ落ちる。


 「出島さん?」


 無言。 無反応。 しかも、出島さんは微動だにしない。


 ……嘘! あたしってばついに、首へし折っちゃった? あたし程度の力なら、意外と筋肉ついてる出島さんには、目一杯やっても大丈夫かななんて、楽観的すぎた? 首って、鍛えられないんだよね、あれ、それってアキレス腱だったっけ……。


 ぐるぐると、不安があたしの脳みそを浸食していく。


 「出島さん?」


 二回目、声をかけてみたけど、やっぱり無反応。 心なしかぐったりしている出島さんを見下ろしていたあたしは心配になり、ついつい出島さんの傍らに正座をした。


 「隙ありっ!」


 軽やかな声と共に、出島さんの頭があたしの膝の上に乗っかっている。 呆気に取られて言葉を返せずにいたあたしを、出島さんは見上げると、その整った顔を完璧な笑顔へと変える。

 

 「おかえりなさい、うららさん」


 ああ、もう。 出島さんて、何でこう。


 反則なのは、出島さんの方だわ。


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