ログアウト
『亮、魂ってあると思う? 』
僕はかぶりを振る。
「……よく分からない。さっきから何を言ってるんだ。早く、帰ろう。武田なんか、放っておけばいい」
僕は歩みより、雫の手を掴もうとした。
何度も何度も手を伸ばすが、掴むことが出来なかった。
アバターに相手の手を掴む機能なんてない。気がつくと、コントローラーを手放し、現実世界の手を雫に向かって伸ばしていた。
空気を掴む虚しさに、胸の奥が締めつけられるようだった。
『私はね、ARIAとして生まれてから、魂ってどこにあるのか、ずっと考えていたの』
「……」
雫は一瞬、寂しそうに笑う。
『私たちには肉体はないけど、脳だけはある。だから、そこに宿るんだって、思い込んでた。だけど、航やイレイサーはその脳すら存在しない。なら魂の宿り木は……』
「帰ろう、雫。もう、いいよ……」
言葉は震え、思いとは裏腹に空気に消えていく。胸の奥が何かに締めつけられるようで、息が詰まりそうだった。
『ここでお別れ、亮。武田をこのまま放置したら、もっと多くの人が苦しむことになる。それに……彼の声をちゃんと聞いてあげられなかった私たちにも責任があるのかもしれない』
雫は黒い霧状に霧散した武田の方を振り返る。
『江の島に、鎌倉、途中で降りた駅、電車が規則正しく揺れる音……海と空の境目。何もかもが新鮮で楽しかった。亮ともたくさん話したね』
「……うん、そうだね」
『できれば、潮風の香りがどんな感じなのか知りたかった』
「……ならっ」
喉まで出かかった言葉を飲み込んでしまった。雫の瞳が真っ直ぐ僕の心を射抜いた。
『二つの魂を一つの身体に宿すには器が小さすぎるの。私が雫の本体に宿る限り、暗く、狭い部屋の中から外を覗く事しかできない。私が無理やり外に出ると、主人格がその暗い部屋に閉じ込められてしまうし、負担が大きいから……』
「雫……死なないよな? 」
雫は表情を殆ど変えずに、小さな声で『どうかな』とだけ言った。
雫はトントントンと駆け寄ってきて、僕のアバターを抱きしめた。
不思議と現実の身体にも雫の温もりが伝わってきて、仮想世界と現実の世界の境界が薄らいでいるように感じた。
『あのね、亮。私ね、大事な事を伝えてなかったんだ』
「うん、大事なことって? 」
『私ね、亮のことが──』
「雫……?」
光が溢れ、雫が溶けていく。僕の叫び声も虚しく消え、視界には無機質な文字が浮かび上がる。
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