タマシイのカケラ
『ぐぉっ……』
末木さんの腹から血が噴き出し、吐血する。
『すえ、きぃ……お前はコロス──』
こいつ……武田か?
粒子はすべて爆発に巻き込まれて消滅したと思っていたのに。
末木さんを仕留めると、黒い粒子が咲夜に向かって流れていく。
「咲夜、避けろ!」
咲夜は咄嗟に真横に飛び退いた。僕は火炎放射器を向けて黒い粒子を焼き払う。炎がいくらか粒子に燃え移り、火の粉がまるで生き物のように蠢いている。
黒い塊が低い唸り声を上げた。
「ARIAはログアウトしろ! ここにいたら殺されるぞ!」
『サセるかヨ……』
黒い霧は四方八方に散らばり、ARIAたちに直接襲いかかろうとしてくる。
だが、その霧がARIAたちを飲み込む直前、白い閃光と雷鳴が轟き、武田の攻撃を弾いた。
仰向けに倒れていた末木さんが、震える手を天に向けて突き出し、ぐっと拳を握り込む。
『待ってたぞ、たけだ……これで終いだ』
咲夜や航の身体がキラキラと輝き始め、光の粒子となって空間から消え始める。
『アカン……何考えてるんや、末木……』
咲夜の声が届かないまま、彼女と航は仮想空間から姿を消した。
『イレイサー……お前も……ログアウトしろ』
『主はどうされるつもりだ?』
『このくうかんごと、デリートす……る。すまん……』
『こ……これは……』
末木さんが拳を開いて再び握ると、イレイサーも光の粒子となって消滅した。
ここに残ったのは、武田、末木さん、僕、そして雫の4人だけ。
末木さんの狙いは明白だ。武田をこの空間ごとデリートするつもりなのだ。
僕はARIAではない。だから空間がデリートされる瞬間まで残るのに問題はない。だが、雫は違う。
『雫くん、君も……ログアウト……する』
雫は目を細めて笑顔を向けてくる。こんな状況で、どうしてそんな顔ができるのか分からない。ただ、胸を締めつけられるような不安が押し寄せてくる。
「私は大丈夫。末木、あなたこそログアウトして。間に合わなくなる」
『な、なんで……』
末木さんが歯を食いしばりながら拳を握り開き、何度もログアウトを試みている。
「無駄よ。私はログアウトできない。私は記憶の欠片。記憶を再構成するプログラムが走った結果なの」
「な、何言ってるんだよ、雫……」
意味が分からない。ただ、よくないことが起きようとしていることだけは分かる。
「だから、末木は退場してもらうわ」
『き、きみは……』
雫が指をパチンと鳴らすと、末木さんは光の粒子に包まれて消えていった。
『亮、江の島楽しかったよね……』
「今、そんな話をしてる場合じゃ……なんでログアウトしないんだ!」
『今だからしてるの』
「身体に戻れ、死ぬ気か!」
その間にも、武田の攻撃は続いている。正気を失った彼は、力技で末木さんが張ったシールドを破壊しようともがいている。
雷鳴と閃光が轟く中、空間を覆うテクスチャが剥がれ落ち、廃工場の景色の隙間から青空が覗き始めた。
現実ではありえない光景に息を呑む。雫の背に光が差し込み、後光のように輝いている。
雫に手を伸ばす。だが、彼女が遠くにいるような感覚がして、届かない。
『私……いえ、雫本体はもう意識が戻ってる。だから、私に還る場所はないの』
「えっ……」
雫が薄く笑う。
『亮、魂ってあると思う?』




