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ARIA  作者: 残念パパいのっち
フィロソファーズ・ストーン
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真相

『これで全てだ。正直、武田が何を考えていたのか分からない。金が欲しいだけなら、どうにでもなっただろうしな』


末木さんはまるで力尽きたように、両手両足を大の字に広げ、点を仰ぎ見るように遠い目をしていた。


そして、暫くすると顔だけをゴロンとこちらに向ける。


『咲夜くんは何故記憶があるんだ? 雫くんに至っては何が起きているんだ……。冥土の土産に聞かせてくれ』


末木さんには還るべき体がない。既にここが彼にとっての冥土なのかもしれない。


想像して、ゾッとする。


『たいした話やあらへんで。ARIAになったときには現実の記憶があってん。それにARIAの能力なんか知らんけど、めっちゃ頭の回転が速なって状況を一瞬で理解できたんや』


『……なるほど、な。それは計算外だった。それで私を騙すために初めから演技をしてたのか』


『せやで。それで、末木のおっちゃんがおらんとき狙って、高瀬さんと亮に声かけたんや』


『本体には還らないのか?』


『還られへん。多分、まだ身体が治りきってへんのやろな』


『そうか、……すまない』


末木さんは神妙な顔で咲夜に謝罪する。


『ホンマええ迷惑やわ。やることなくて、ゲーム三昧にご飯食べ放題や。味覚エンジンの精度、もうちょいどうにかならんの? 塩味が足りへんねん』


咲夜は軽やかに末木さんの言葉をいなす。思わず、皆、吹き出してしまった。


『なるほど、私では……敵わないわけだ』


末木さんはどこか寂しそうな顔をしていた。この人はおそらくここで死ぬつもりだったのではないだろうか。


「末木、あんた死ぬつもりだったでしょ」


僕が口に出さなかった言葉を雫がぶつける。


『……死ぬつもりも何も実際、現実世界の身体は死んでいる。私は亡霊みたいなものだ』



雫はかぶりを振った。





「ううん、生きてるわ」



『そんなわけ……』





「私はあなたに接続されていた入出力端子を使ってこの空間に侵入してるのよ。死体を横目に仮想空間にダイブするなんて、まともな神経じゃないわよ」


『なら私の身体は』


「高瀬が心臓マッサージと人工呼吸で蘇生させたの」


末木さんが上半身を起こし、目を大きく見開いた。


『何故、高瀬くんがそこにいる。今日は丸一日、サーバールームでメンテナンスを指示してある』


その時、桔梗さんの声が聞こえてきた。


「サボりました、と高瀬さんが言ってます」


それを聞いて、末木さんはまたバタリと大の字に寝転がってしまった。



「私の完敗だ……」



末木さんはまた天を仰ぎ見たが、今度はどこか清々しい顔をしていた。


僕は雫の方に向き直る。


今回、一番の想定外は雫だ。


中原美奈を保護したことで、雫の居場所は判明した。中原美奈は捕らえられていた施設で管に繋がれて、眠っていたそうだ。


雫は中原美奈が脱出する前に仕掛けたプログラムで目を覚まし、施設から脱出していた。


僕らは雫がいっとき行方不明になって、肝を冷やした。


雫は施設から脱出した後、夜どうし歩き続け、混濁した記憶の中、メゾン モン・トレゾール近くの道で寛さんに保護されたのだ。


真冬の深夜に信じられないほどの薄着で発見されたので、一歩間違えれば死んでいたかもしれない。


正直、運が良かったとしか言いようがない。


『雫くんは……武田に身体ごと連れ去られてしまってね。私も場所を特定できなかった。正直、今、ホッとしている』


「……武田に資金や施設の提供をしていたスポンサーは末木さんなんですよね? 」


また、末木さんが目を丸くする。


『……そうだ。私が黒幕だよ。だが、最後の最後で武田がこちらの思惑を裏切る行動に出た……』


「それが雫の拉致監禁というわけですね」


『ああ、本当の想定外は武田が木下や中原美奈を仲間に引きずり込み犯罪行為に手を染めていったことだ。いつの間にか犯罪組織を作り上げ、制御が利かなくなっていた。おそらく、調べればもっと関係者が出てくるだろう』


「警察に被害届けを出してあるので、その辺も時間の問題で明るみになると思います。高瀬さんの推理がズバリ的中しましたね」


『本当は高瀬くんを巻き込みたくなかったんだがな……』



雫は腰に手を当て、倒れ込んでいる末木さんの顔を覗き込む。


「末木、還るわよ。あんたにケーブルを接続し直したから。精密検査が必要……って、高瀬が言ってるし」



ふと、雫のその言葉に違和感を感じた。僕の視線を感じたのか、雫は僕の方に顔を向ける。


何かを躊躇う素振りを見せながら、雫は口を開きかけた。



その時、部屋の埃がいっせいに舞い上がった。



視界を遮るほどの埃が宙で一つの意思を持っているように集まり、鋭い刃のように形を成した。


理解する間もなく、その刃は末木さんの腹を貫通した。



『ぐぉっ……』



末木さんの腹から血が吹き出し、吐血する。



『すエ、きぃ、お前はコロス──』




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