決戦
『少しハンデをあげよう。私はこれから三分間、銃を撃たない』
「……信用できないな」
『信じる、信じないは君の自由だよ。でも、私は撃たない。さあ、よーいどん』
パン、と手を叩く音が響いた。
『いーち、にー……』
咲夜の命がかかっているんだ。手を抜いてくれるなら願ったり叶ったり。末木さんがこちらの想定と異なる行動をとってきたが、対策はしてある。きっと、大丈夫。
「余裕ですね。僕は茶番に付き合うつもりはないです」
『にじゅう、……釣れないなぁ』
ロケットランチャーをインベントリから取り出し、すぐに構えて発射する。煙をあげながら、弾が一直線に飛んでいく。
弾速が遅い……が、いくら末木さんと言えど爆発からは逃れられないだろう。
次の瞬間、カッとまばゆい閃光が視界を焼き、爆風で自分も吹き飛ばされた。おかしい、まだ着弾してないはずなのに。
『肝を冷やしたよ。山内くん、えげつない事をするね』
まさか、迎撃したのか?
「結局、銃を使ったんですね」
『いや、使っていないよ。ただ、投石しただけ』
「はっ?」
『こんなふうに』
ガツッと何かが頭部に直撃し、視界が揺れる。足下に石が落ち、ゴロゴロと転がる。
「!?」
『これで信じてもらえたかな?油断していると投石で咲夜くんが死ぬよ』
確かにGoBには投石というスキルが存在するが、ネタスキルと揶揄されるものだ。投石を使いこなしているプレイヤーなんて見たことがない。
手が震え、緊張で喉が渇いていく。レベルが違いすぎる。末木さんに完全に遊ばれている。
だが、まだこちらの優勢に変わりはない。大丈夫、次の手を打つだけだと自分に言い聞かせた。
吹き飛ばされた密林の一部は開けて、視界が広くなり、彼の姿を視認できた。丸裸の状態なら仕留められる。
アサルトライフルに持ち替え、フルオートで連射する。末木さんは右へ左へと妙なリズムで、こちらへと歩みを進めてくる。
当たらない。弾がまるでかすりもしない。
なんで、弾が当たらないんだ?
コントローラを握る手に力が入り、ギチギチと悲鳴をあげる。あり得ない。
でも、末木さんがチート行為をしているとはどうにも思えなかった。
手汗でコントローラーが滑り、はっとして、握り直す。ハッタリでもいい、何か時間を稼がないと。
「……インチキするんですね。流石に射線に入っているのに無傷はあり得ない」
精一杯の虚勢のつもりだったが、声は震えていた。このままでは切り札を切る前に決着がついてしまう。
『……この仮想空間はGoBのプログラムを完全にトレースしているからね。特定の歩法をすることで当たり判定を無効化できるバグがあるんだよ』
動画配信サイトで見たことはある。だが、そのバグはその時の時分秒に合わせて歩き方のリズムを変える必要があり、狙って出せるバグではなかった……はず。
いくらバグとはいえ、独特な歩法をノーミスで再現し続けるのは不可能……なはずだ。いずれ当たる。無心でアサルトライフルを撃ち続けた。
末木は弾丸の嵐の中を、街の散策でもするような足取りで距離を縮めてくる。
くそ、当たれ、当たれ。
目に汗が入り、片目をつぶる。片手をコントローラから離し、汗を拭おうとするがヘッドマウントディスプレイが邪魔で拭えない。
まずい、まずい、このままじゃ……
「……うち、や、まうち、山内さんっ」
桔梗さんの声で、銃撃音の中に混じって屋外を自動車が走り去る音や換気扇の環境音が耳に入ってきた。
仮想空間以外の音が聞こえて、自分の視野が狭くなっていたことに気づく。
敢えて目を閉じて、深呼吸をする。
目を開けると末木さんとの距離が思ったよりも離れていることが分かった。
少し、冷静になって客観的に状況をみることができた。
「すみません、熱くなってました」
「声をかけても反応がないから肝を冷やしましたよ。そのまま聞いてください」
僕は無言を返す。
「まず、咲夜さんは囚われていますが、奪還を始めているのでそこは私たちに任せてください」
「はい」
「次に末木さんの使っているバグは銃撃には有効ですが、ナイフや投石、火炎放射には通じません。武器を変えるか別の対策を」
「分かりました」
末木が火炎放射器の射程に入ったら武器を変えよう。
「それと、二枚目の切り札を投下しました。何か質問は?」
「寛さんは?」
「到着予想は15分後です。それまで持ち堪えてもらうか……」
「はい?」
ふふっと桔梗さんが笑った。
「その前に末木さんをサクッと仕留めてください」
プッと吹き出してしまった。無茶を言う。
「桔梗さんって、冗談言うんですね」
「半分本気です。大丈夫、やれます」
「おかげで落ち着きました。やってみます」
末木さんばかりに視野が偏り、周りが見えていなかった。密林の木々一本一本の配置や形、位置関係がクリアに見えてきた。
再びロケットランチャーに持ち替え、末木さんではなく木を狙い、発射する。
爆音が轟き、着弾した木々が周囲を巻き込み吹き飛んでいく。
末木さんは着弾地点を予測し、大きく外側の木々の後ろへ進路を変えた。
「ひゃくはちじゅう……時間切れだ。山内くんの狙いは悪くなかったけど、爆風に巻き込まないと意味がない。では、反撃させてもらう」
いや、こちらの狙い通りだ。
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