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ARIA  作者: 残念パパいのっち
ゴースト
70/99

ロストワールド

木崎(きざき)さんと拓人(たくと)が、警察と救急隊員を引き連れて駆けつけた。


足音が廃工場内に響き渡り、緊張した空気を一気に解きほぐすように、隊員たちが散らばって各々の負傷者に駆け寄る。


「ここです! 早く!」


木崎(きざき)さんが叫び、隊員たちが(ひろし)さんや三神(みかみ)教授、末木(すえき)さんに駆け寄り、怪我の状態を確認して、手際よくストレッチャーへと乗せていく。


咲夜(さくや)高瀬(たかせ)さん付き添いのもと、真っ先に搬送されていった。


僕は祈るような気持ちで咲夜(さくや)を見送った。一緒についていきたい所だが、今、この場でまともに事情聴取を受けられそうなのは僕か佐藤(さとう)先輩しかいなかった。


……いや、本当は僕は咲夜(さくや)が死んでしまうのが怖くて、その場から動けなかったのだ。


武田(たけだ)を倒せたのは怒りでその場の恐怖や不安を塗りつぶせていたからだ。


拓人(たくと)も走り寄ってきたが、すぐに何かを察し、僕の隣に座り込んで肩を掴んだ。


「大丈夫か? 」


拓人(たくと)……咲夜(さくや)が……」


僕はその場に座り込み、ポロポロと零れ落ちる涙を止めることができなくなっていた。


心に穴が空いたかのような喪失感、悲しみ、恐怖、無力な自分への怒りで、いっぱいだった。


僕は必死で涙を拭い、顔を覆い隠した。横をストレッチャーが通りかかるとピタリと止まった。


振り向くと末木(すえき)さんが横顔をこちらに向けていた。わざわざ、救急隊員の方に声をかけて、僕の隣に止めてもらったらしい。


「やあ、密室のさつ……不謹慎か。山内(やまうち)くん。助かった。君のおかげで武田(たけだ)の暴走を止められた。感謝する」


僕はその感謝の言葉を素直に受け取れる状態ではなかった。


きっと励ますつもりで声をかけてくれたのだろう。


「僕は……」


目を逸らし俯いた。その言葉が僕にはとてもつらいもののように思えたからだ。


そのとき、倒れていた武田(たけだ)が突然目を覚ました。警察官がすぐに駆け寄り、武田(たけだ)を拘束しようとしたが、武田(たけだ)は不敵に笑いながらハンドガンを構え、警察官に向かって発砲した。


幸い、警察官には当たることはなかったが、現場の緊迫感が一気に高まった。


警察官も応戦するために拳銃を構える。


「武器を捨てて投降しろ」


「俺は嵌められたんだ。犯人はそこでうずくまっている女だ。そいつはなぁ、木下(きのした)も殺したんだ。証拠もある」


武田(たけだ)佐藤(さとう)先輩を指差し、唾を飛ばしながらまくし立てた。何もしらない第三者が聞いたら意味不明な内容だが、嫌な予感はした。


武田(たけだ)は銃を構えたまま、視線を警官から離さないように腰を落とし、自分のスマホを片手で手繰り寄せる。


「このスマホにそこの女が木下(きのした)を殺した映像が入っている」


そう言うと、スマホの動画を再生し始めた。だが、そこに映っていたのは佐藤(さとう)先輩ではなく、武田(たけだ)だった。


武田(たけだ)が金槌を振り上げ、木下(きのした)を滅多打ちにしている映像で、言い逃れしようのない証拠が映っていた。


周りの人間の妙な空気に武田(たけだ)は自分のスマホの映像を確認し始めた。


「な……なんだ、これは。これは俺じゃない。俺じゃない。嵌められたんだ」


「往生際が悪いですね。武田(たけだ)


「お、おまえ、なんで、ここに……」


僕は思わず息を飲んでしまった。彼女の顔を見た瞬間、ここが仮想空間なのではないかと一瞬勘違いをしてしまった。


入院患者のような作務衣に上着を羽織り、長い黒髪、切れ長の瞳に泣きぼくろと、どこからどう見ても「桔梗(ききょう)さん……? 」と思わず、口から独り言が漏れた。


僕を一瞥すると、少しだけ眉根を寄せ、困ったような顔をしていた。


彼女は手に持ったスマホの映像を再生し、皆に聞こえるような大きな声で高らかと話し始めた。


「あなたがここで行っていた悪逆非道の数々を記録してあります。法で裁かれなさい」


「……そういうことかぁぁ、お前だな。俺のスマホのデータを改ざんしたのわぁぁぁ」


桔梗(ききょう)さんは目を細め、武田(たけだ)を小馬鹿にしたような表情で「頭がおかしくなってしまったのね。可哀想に。それにそれは警察の専門家が判断することです。観念なさい」と綺麗に武田(たけだ)の暴言を迎撃する。


武田(たけだ)からすうっと生気が失われ、真っ青な顔でボソボソと独り言が漏れ聞こえて来た。


「……もういい、俺の役割は完了している。今、一番の問題は、俺が生きたまま捕まることだ……嫌だ、嫌だ、嫌だ、死にたくない。俺わぁぁぁぁ」


武田(たけだ)はカタカタと震える左手でハンドガンを握り直し、その銃口を自分のこめかみに当てた。


ダンッ


一瞬の出来事だった。弾丸は武田(たけだ)の脳天を貫通し、血飛沫をあげ、何か肉片のような物が飛び散った。


巨体は崩れ落ちるように倒れた。


誰もがこの状況を受け止めきれなかったのか、武田(たけだ)が倒れた後、暫く固まって動かなかった。


正気にかえった警察官の一人が武田(たけだ)に駆け寄り、すぐに死亡が確認された。


誰も救われないままに、一連の事件が呆気なく幕切れになった。





……かのように思えた。でも、武田(たけだ)は言ったのだ。



──もう、必要なデータはクライアントに渡したし、目的は既に達成されている。


■□■□■□■□■□■

次から最終章です。

ここからは隔日更新となります。

■□■□■□■□■□■

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