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ARIA  作者: 残念パパいのっち
ゴースト
59/99

暴走車両の行方

「咲夜、次の角を右!」


「くそ、曲がれぇぇぇぇえ!」


シートベルトを外して後部座席から身を乗り出し、咲夜と一緒にハンドルを回す。


ガードレールに後部のドアがぶつかり、鈍い音を放つ。


『ひっ』


音を聞いた雫が小さな悲鳴を上げたのが聞こえた。


僕は遠心力で助手席側にふっとばされ、後頭部をもろに窓ガラスにぶつけた。


『亮、大丈夫?』


「つうっ………問題ない。それより制御権は?」


『ごめん……なんかうまくいかなくって……』


「そうか。ごめん、続けてくれ」


どうも、自動車が動き出してから雫の様子が変だ。頭の片隅にある遠い記憶のカケラが雫の異変にアラートを鳴らしている。


こんな状況でなければじっくり考えるのだが。


そう言えば、……この方向、近くにうちの大学があるはずだ。


あっ!


そうだ、その手があったか。


「雫、制御権はもういい。三神教授に連絡をとってくれ」


『えっ、でも』


「至急、大学へ………の許可と……の依頼をしてほしい」


『そういう事ね。分かった』


雫との通話が切れた。


「……よく聞こえんかったけど、なんとかなりそうか?」


「なんとかする。でも、そのためには僕の大学に行く必要がある。次の角を左!」


正面に赤信号で停車している自動車が見えた。速度には変化はない。


「咲夜、追い越しして赤信号を左に曲がるぞ」


「無茶苦茶言うなや、コントロール効かへんの分かっとるやろ」


「分かっててもやる。死にたくないだろ」


二人がかりでハンドルを操作し、前方の車を追い越すと反対車線に自動車が見える。


追い越した車と対向車線の車の間をすり抜ける。微かに右のサイドミラーに何かが当たる音がした。


さーっと血の気が引く。チラリと見た咲夜も目を見開いて、口が半開きになっていた。


「咲夜、左!」


「わかっとるわ。いくで、せーの」


ギャリギャリと地面とタイヤの擦れる音が聞こえる。


「ドリフトしてる……気がする」


車体が滑っているのが分かる。頼む、前に進んでくれ。その時、地面とタイヤが噛み合ったのが分かった。


道なりに走り始める。


「このまま道なりにまっすぐだ。青い看板に西条大学が見えたら、右折で目的地だ」


「なあ、どうやって、この車を止めるつもりや?」


「それは目的地に着いたら説明する」


「……今話しても、後で話しても一緒やろ」


「いや、一緒じゃないんだ」


僕の推理が正しければ、今、話すと都合が悪い。


僕は計器類を覗き込んだ。


ガソリンはメーター半分くらいか……。


自動車に自転車、歩行者をギリギリ回避しながら目的地に向かっているので、集中状態が続いている。


途中軽い事故はあったものの、被害者が出ていないのは奇跡に近い。


その時、雫から着信がきた。そろそろ、西条大学についてしまうので、ひやひやしていた。


『亮、許可は取れた。そのまま侵入していいって。裏門から入ってほしいだって』


「分かった。咲夜、あの看板を右!」


「オッケー、せーの!」


ギャリギャリとタイヤが悲鳴を上げる。長い坂道を下ると、大学の裏門が見えてきた。


指をさして咲夜にあそこに侵入すると説明する。


坂を下り、裏門へ入ろうとすると警備員が裏門を開放してくれていた。


力一杯ハンドルをコントロールして、裏門から大学へ車両を滑り込ませた。


「大学でなにするつもりやねん?」


「今までと一緒だよ。ただ、走るだけ」


「何にも解決しとらんやん」


「大分違うよ。一般の自動車も人もいない。事前に人払いと車両の通行許可を貰っておいた」


「亮、まさか……」


『そう、ガソリンが無くなるまで走ればいいってこと』


後ろを振り向くと、裏門を警備員が閉めているのが見えた。


「アホか、そろそろ私の集中力も限界やで。いつまでも、安全運転続けられんわ」


「ああ、だから、安全に危険な運転ができる場所に行く」


『亮、最後の難関が近い』


「そうだな、あそこを左だ。咲夜」


「……本気で言うてるの? あそこに3ナンバーの自動車を突っ込ませる気か?」


左には陸上部用の大きなトラックがある。そこに侵入するには車幅ギリギリの通路を通るしかない。


「咲夜、行くよ!」


「ええい、ままよ。せーの」


ガリガリと車体の削れる音が聞こえたが、奇跡的に、トラックに侵入する事が出来た。


咲夜はハンドルを握ったまま、プルプルと震えていた。僕も身体が強張っていたが、トラックに進入できた事実に安堵していた。


『まだよ。トラックの真ん中に着いたら、ハンドルを目一杯左に切って!』


車両をコントロールする唯一の方法がハンドルであるなら、同じ方向に切り続けてガソリンが無くなるのを待つしかない。


僕に出来る最善手はこれしか思いつかなかったのだ。


『これで時間が稼げる。その間に制御権を奪う!』


「亮……アカン、私、グルグルし過ぎて酔ってきたわ」


「咲夜、もう少しの辛抱だから。ここで吐かないでくれ。もう少しで、自動車が止まる」


『「えっ?」』


自動車をハッキングした目的が武田さんの言うとおり、濡れ衣を着せることなら今の状況は望んでいる結果ではない。


暫くすると、自動車からアクセルが抜け、静かに停車した。車両もロックが解錠できるようになっていた。


『本当に止まった……』


僕は助手席のドアを開けて、ドアの間に自分のバッグを挟んだ。


身体から力が抜けて、椅子にもたれかかってしまった。咲夜もハンドルに突っ伏している。


咲夜はよろよろと上半身を起こすと窓を開けて、最後の力を振り絞ってワイヤレスキーを遠くに放り投げた。


「アカン……もう、限界や。うっぷ……」


そう言うと、ドアを開けてどこかに走っていってしまった。


「……まだ、ドライブレコーダーは生きてるな」


『亮もここから離れたほうが良いよ』


心配そうな顔でこちらを伺う雫の顔は真っ青だった。


「僕は大丈夫。それよりも雫の方が顔色が悪い。どうしたの? 」


『どうしたのって……こんな事になったからでしょ』


「なら、いいんだ」


確かに異常な事態だし、雫の心中も穏やかではないだろう。


それよりも大事な事がある。自動車をハッキングしている本人と思しき人物と話す機会は今しかない。


「ハッキングの犯人は中原美奈、お前だろ」


雫が呆気に取られた顔をしていた。唐突に独り言を呟く、僕に驚いたのかもしれない。


ドライブレコーダーから女の人の声が聞こえてきた。


「……驚いた。よく気がついたね」




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