後出しの協力者
「なら、俺が車を出そうか、山内くん」
武田さんは左腕で額の汗を拭い、肩で息をしている。
僕は立ち上がり身構える。横目に見た咲夜も、心なしか表情が強張っているように見えた。
拓人が頬を指の先で掻きながら、不安そうな顔をする。
「えっと、どちら様でしょう? 」
武田さんと僕を交互に見る。
「はじめまして、私は武田という。そこの山内くんと四ノ原さんと雫さんの知り合いだ」
『……誰? 私はあなたの事しらないんだけど』
武田さんは苦笑する。
「そうか、それは失礼した。高瀬さんの同僚と言えば通じるかな」
『ああ、そっち関係の人か。どうも』
雫は釣れない返事をする。まだ、武田さんの情報を精査していないのに、先回りされてしまった。
武田さんは両手を無防備に上げる。
「さっきは俺が悪かった。説明が足りなかった。弁解させてくれないか」
「話は聞きます。でも、こちらの質問にも答えて貰います」
武田さんは首肯する。
「なんでも聞いてくれ」
「僕の居場所はどうやって突き止めたんですか? 」
「監視カメラとエージェントからの報告だ。話は聞いていると思うが、君らには監視がついているからな」
分かってはいたが、身を隠しながら移動しても無駄だったということか。
「拓人や咲夜にも監視はついているんですか? 」
「これ以上は……機密事項なんだが」
武田さんが鋭い目と声で凄む。隆々とした筋肉が服の上からでも分かるし、身長もあるので、圧に負けそうになる。
こんな人と正面から喧嘩したら勝てる気がしない。だからこそ、冷静に考えないといけない。
「もう、結構です。咲夜は監視対象で、拓人は対象外ということで理解しました」
「山内くん、なかなか嫌らしい性格してるね」
『嫌らしいのは武田さんでしょ。なんでも聞いてくれと言ったのはそっちじゃない』
武田さんが両手を下げ、威圧感もすうっと消えて、笑顔を浮かべている。
「どうしたら、僕の事を信じてもらえるかな? 」
「部外者の私から見ても、おっちゃん信用ないで。胡散臭いわ」
拓人が不安そうな顔をキョロキョロと様子を伺っている。
「あの……みんな何の話をしてるんだ。俺、ついていけないんだけど」
拓人に席を外してもらったのが裏目に出たようだ。
「武田さん、拓人は帰らせます。いいですか? 」
「……いいに決まってるだろ。君は僕を誤解しているよ」
拓人の方を振り返らずに言葉だけ伝える。
「拓人、悪いけど、そのまま帰ってくれ」
「でも、佐藤先輩が……」
「その件は僕と雫に任せてくれないか? 」
「亮、さり気なく、私を外さんといてくれる。私も探す」
ため息をつく。咲夜は既に監視対象だし、確かに一緒の方がいいのかもしれない。
「なんだか、分かんないけど、分かった。いつか、必ず説明してくれよな! 」
「すまない。ありがとう」
そう言うと拓人は立ち上がり、駅の方向に向かって歩きだした。僕は去り際の拓人を確認してから、呼び止め、小走りで近づいた。
「忘れ物だ」
「あっ……! すっかり忘れてた。サンキュ」
拓人が去るのを確認して席に戻る。
「さて、これで腹を割って話せるかな、山内くん? 」
「それは質問の回答しだいです。僕の命を狙っているのはだれですか? 」
武田さんは観念したのか、深呼吸をすると話し始めた。
「……中島コーポレーションの人間だ。巨大な企業だからね。そもそも、プロジェクトARIAに賛同している者も、反対している者もいる」
「つまり、反対している勢力から狙われていると? 」
「逆だ。賛同している勢力の一部に狙われている」
『賛同してるなら、こちらに味方してくれそうじゃない』
雫の疑問はもっともだ。
「賛同しているのはARIAの利権に絡みたい連中でね。関係した人間を失脚させて、このプロジェクト自体を乗っ取ろうとしているんだ」
「なるほどな。それで末木さんと高瀬さんを排除しようとしてるっちゅうことか」
「そうだ。連中は秘密を知りすぎている山内くんが目障りみたいでね」
高瀬という言葉に反応したのか、雫の口から高瀬さんを心配する言葉が溢れた。
『……ねえ、高瀬はまだ見つかってないの? 』
「残念ながら」
武田さんは雫の映っているスマホから目を逸らした。
「ここまで話したんだ。君たちを匿うためにも暫くホテル暮らしをしてくれないか? 」
「おっちゃん、ホテルはまだ行かんで。佐藤先輩を探さなアカンからな」
『そうね。人命がかかってるかもしれないし』
「佐藤先輩の捜索に協力してくれたら、武田さんを信じて、ホテルに行きます。それでどうですか? 」
武田さんは両手を組んで、思案した顔をしたかと思ったらすぐに返事をしてくれた。
「だから、初めから言っているだろ。車を出そうかって」
「恩にきります」
「なら、すぐ出発で決まりやな」
咲夜はテーブルの上を手早く片付け始める。咲夜がトレイに空の紙コップを集める。
そして、僕の両手にトレイを乗っけてくる。
「片付けよろしくな! 」
「……僕に渡す前提だったんだね」
「これも頼むわ」
そう言うと、紙のナプキンもトレイの上に投げ込まれた。
「おい、新品もあるじゃないか」
「取りすぎてもうてな」
渋々、トレイを片付ける。真新しい、紙ナプキンが勿体ない気がして、バッグに入れようとしてメッセージが書いてあることに気がついた。
「武田は嘘をついている」
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