捜索者と探索者
走りながら藤沢駅に向かう。
できる限り、物陰に隠れながら移動する。普段、周囲を見ていないから気が付かなかったが、監視カメラはそこかしこにある。
自分が意識していないものは目の前にあっても見えないものなんだなと痛感する。
武田さんの情報を精査するなら、高瀬さんに連絡をしてみるべきだろう。
高瀬さんに発信しようとして、手が止まった。
本当にそれでいいのか、もう一度考える。
まず、話の真偽は兎も角、僕が命を狙われていると仮定するなら、真っ先に取るべき行動は命を守ることだ。
仮に僕を狙うならどこに行くか? まず、入院していた病院は行く可能性が高い。後はアパート、大学……。
……アパート? 何か忘れているような。
「あっ、咲夜……! 」
無関係の咲夜を危険な目に合わせるわけにはいかない。
先に咲夜の安全確保だ。
一度立ち止まり、咲夜に発信すると、咲夜はすぐに電話に出た。
「もしもし、咲夜」
「おりょ、亮、退院したん。まだ、病院営業時間前とちゃう?」
「ちょっと理由あって早めにね」
咲夜の話し声の裏で、自動車の走るような音が聞こえる。
「咲夜、外にいるの? 」
「辻堂に向かってるところや」
部屋に居ないことに胸を撫で下ろす。
ただ、なぜ辻堂に向かっているのだろうか? 咲夜にこの辺の土地勘はないし、友達がいるとも思えない。
「咲夜、悪いけど今日はそのまま僕の部屋に戻らず、ホテルに泊まってくれないか」
「無理無理、お金ないからな」
『無理じゃないでしょ。出ていってくれる?』
突然、別の女の子が会話に割り込んできた。
「咲夜、今の誰? 」
「あー……、なんで喋るかな自分。ていうか、通話に割り込めるんかい」
『そんなのチョチョイよ。そんなことより、咲夜は図々しいんだよ。人の彼氏の家を勝手に占拠して』
「雫……雫か! 」
『そうよ。亮は人が居ないのをいい事に浮気ですか? 後でたっぷり話を聞かせてもらいますからね』
「うん、分かった。後でたくさん話そう」
『な、なんで嬉しそうなのよ。説教するのよ』
「そうか、説教か。でも、雫と話せて嬉しいよ」
『え……あ、うん。そう……』
雫だ……本物だ。普通の会話が出来ることが嬉しい。翼が生えたみたいに心と身体が軽くなった気がした。
「亮、私のこと忘れてへん? 」
咲夜の声のトーンが低い。そもそも、なんで二人は一緒に行動してるんだろうか?
雫のアプリが咲夜のスマホに入っていないと成立しない……はず。
「……咲夜、僕のもう一台のスマホをバッグから漁ったでしょ」
「うっ……、亮にしてはなかなか鋭いやん」
「雫のアプリを入れるには僕のスマホで雫と話さないと出来ないからね」
とりあえず、一旦二人と合流してこちらの事情を説明した方が良さそうだ。
辻堂駅なら大きなショッピングモールもあるし、人がたくさんいるから安全だろう。
「雫、咲夜、辻堂駅の改札前で待ち合わせしないか? 」
『分かった。咲夜、ASAPよ! 』
「ASAPって何? 移動するのは私だけやん。自分偉そうに……。まあ、ええわ。改札前な。まあ、都合がええわ」
「都合? 」
「ああ、私らな、木崎とかいう子に頼まれて辻堂駅に向かってんねん」
『佐藤先輩が行方不明なんだって』
「??? 」
疑問符だらけだが、会ってから話そうということで、電話を切った。
***
辻堂駅改札前に着いたが、咲夜の姿は無かった。
どうやら咲夜は僕のアパートから出たばかりだったようで、もう少し時間がかかるとSNSが届いた。
だが、その代わりに意外な人物が改札前には立っていた。
「拓人……? 」




