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ARIA  作者: 残念パパいのっち
ゴースト
49/99

徘徊する容疑者

「面倒くさいなぁ……。なんで、こうなるかなぁ」


「それはこっちのセリフです」


末木(すえき)のメンタル構造が羨ましい。警察から追われる身になったのに涼しい顔をしている。


フェイクポルノ事件の首謀者の木下という男が殺された。


その容疑者候補に末木(すえき)と私が上がっているらしい。


内部告発と、木下の遺体があった河原に私や末木(すえき)の所持品も見つかったらしく、それが決定打になったと聞いた。


武田(たけだ)さんから「今、ここに来るのは得策じゃないです。少しの間、身を隠していてください」と助言があった。


末木(すえき)も一緒ならそう伝えてくれと言われて、現在に至る。


スマホのニュースをみる限り、まだ、私たちの名前は公表されていない。


もちろん、人殺しなんて身に覚えがない。画面を見て、ため息をつく。


「君はため息がよく似合うね」


「……喧嘩売ってるんですか?」


末木(すえき)はニシシと笑う。


「だって、不幸そうな顔をしているじゃないか」


「そういう、末木(すえき)さんはいつも幸せそうですよね」


「よく言われるよ。君が毎度楽しませてくれるからね」


やっぱり駄目だ。この男とは合わない。


「さて、移動しようか。建物の陰に隠れながら移動なんてGoB(ごぶ)みたいでワクワクするよね」


「遊びじゃないんですよ。私たち、追われているんですから」


「遊びみたいなものさ。君は物事を深刻に考えすぎるんだ。……これで、よしっと」


末木(すえき)は手に持っていた小型ノートPCのエンターキーをタンッと力一杯に叩く。


「エンターキー壊れますよ……」


「問題ない。この前交換したばかりだからね」


この男には呆れるばかりだ。


「さて、移動しようか」


「どこにですか?」


「内緒」


そう言うと、路地からでて堂々と道を歩き始めた。


末木(すえき)……さん、まずいですよ」


「何が?」


「監視カメラに映るじゃないですか」


「ああ、それは問題ない」


「何がですか?」


「イレイサーに頼んでおいた。僕らは今この瞬間から監視カメラに映らなくなる」


「そんなこと……」


……できる訳が無いと喉元まで出かかったが、この男なら可能かもしれない。


両手の拳をぎゅっと握る。


「さっ、行くよ。こっち」


「はい……」


私は誰かに見られているんじゃないかとびくびくしていたが、末木がポケットに手を突っ込んで、プラプラしている様が堂に入っていて、気にするのが馬鹿らしくなってきた。


末木(すえき)は無言のまま、歩き続けた。


どこまで行くのだろうかと、ぼんやり考えていると、急に末木が止まったので、背中にぶつかった。


「あたっ」


「高瀬くん、おっちょこちょいだよねぇ。そんなんだから、警察から追われることになるんだよ」


「お互い様ですよ」


何故、他人事(ひとごと)なのか。ムッとする。


末木は気にする素振りもなく、こちらを振り返り、小さな美容室を指をさした。


「ここ、入るよ」


ヘアサロン(Hair Salon)泉と看板には書いてあった。町に一軒はありそうな、古めかしいポスターの貼ってある美容室だった。


末木(すえき)は扉を押して入ると、カランカランと内側についているベルの鳴る音が響いた。


白髪の老婆が接客してくれた。小柄だが背筋がしっかりと伸びていて、芯のある真っ直ぐな目をしていた。


末木(すえき)の坊っちゃん、今日は如何様(いかよう)で」


「フルコーディネートで」


「そちらのお嬢さんも? 」


「ああ、頼む」


お嬢さんなんて言われたのは何十年振りだろうか。反応に困る。


老婆は店の外に出たかと思うと、表の看板をクルリとひっくり返して戻ってきた。


「貸し切りにしておきましたよ」


「ああ、助かる」


一体、ここで何をするつもりなんだろうか?


おろおろとしていると、老婆に背中をポンポンと叩かれた。


スタイリングチェアを座るように促された。


「おかけ下さい」


「あ、あの、これ、何を……」


「何って、髪を切って変装するんだよ」


末木(すえき)は事もなげに言う。思わず、椅子から立ち上がる。


「そんなことしてる場合じゃ……」


「急がば回れだよ、高瀬(たかせ)くん。さっきも言ったが君は物事を深刻に捉えすぎるんだ」


「変装って、さっきイレイサーに私たちが監視カメラに映らないようにしてもらったって……」


「イレイサーに生身の人間を完全に欺けると思うかい?」


「…………」


「このゲームは我々の勝ちは確定している。木下殺しの真犯人の目星もついているしな」


「本当ですか? それなら、警察に……」


「だが、証拠がない。証拠を集める必要がある」


また、この男に頼らないといけないのか……。


それと同時に頼るべき相手なのか迷うところもある。


何故なら、()()()()()()()()からだ。



末木(すえき)……さん、真犯人はあなたじゃないんですか?」




末木(すえき)はスタイリングチェアに腰掛けたまま、ゆっくりとこちらを見上げた。

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