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ARIA  作者: 残念パパいのっち
ゴースト
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見知らぬ女の子

「雫をボトルに注いでコルクを閉めた。これで溢れることも漏れることもない。安全な場所でずっと僕と一緒だ」


知らない誰かが語る傲慢な言葉は、正直気持ち悪かった。


でも、腕も、足も、頭も、体も、指も、まばたきすらも自分の意志では動かすことができなかった。


勝手に動く自分の身体を狭くて暗い場所から、傍観しているような不思議な感じだった。


暫くすると、両手にハンドガンを構えて、銃撃戦を繰り広げるアクション映画のようなシーンに変わった。


知らない誰かが戦えと頭の中に語りかけてくる。その言葉に呼応して、心に火がともり、憎しみの感情が心を焦がした。


憎い、憎い、憎い……。


亮に、セミロングの髪型の女の子、黒いマントに身を包んだ長身の亡霊、そして不思議な動きをする細身のおじさんが私の前に立ちはだかった。


憎しみに身を委ねて、トリガーを引く。黒マントの身体を貫通し、大きな穴が空いた。


亮と女の子はこちらの攻撃を紙一重で躱す。妙に息のあった動きに苛立ちを覚える。


暫くすると亮は消えて、女の子も戦線離脱する。追いかけようとして、細身のおじさんから攻撃を受けた。


細身のおじさんは出鱈目に強かった。奇妙な動きで先が読めないし、早すぎて、目視してからじゃ躱すこともできなかった。


長い、長い物語は突然の終わりを告げる。


亡霊も細身のおじさんも消えていて、知らない誰かもいなくなっていた。


確かにそこにあったはずの世界が霧に包まれていく。


戦っていた理由も、どんな場所だったのかも、知らない誰かの声も、女の子の顔も思い出せない。


ああ、これは夢か。


物語は手のひらで掬った水のように指の隙間からこぼれ落ちて、徐々に消えていく。


夢と意識したら霧が晴れて、思考が鮮明になっていく。


『……本当に夢だったんだ』


既に夢の記憶は薄れ、よく思い出せなくなっていた。夢なんてこんなもんなんだろう。


私たち(ARIA)の見る夢と人間の見る夢は違うかもしれないけど。


斜めの天井を見て、いつものロフトだと安心する。身体を起こそうとして、毛布が掛けてあることに気がついた。


毛布のオブジェクトなんて出した覚えがない。高瀬がかけてくれたのだろうか。


でも、ウォッチドッグ(番犬)が全く作動した気配がない。


毛布を除けて、起き上がる。


『寒い……』


毛布にくるまり、そのまま梯子を降りると、フローリングが冷たくて驚いた。


昨日まで暖かかったのにこんなに寒くなるとは思わなかった。


空中に長方形の窓が表示され「connecting ……Please a wait」と表示されていた。


『亮かな?』


時間を確認しようと思って、視界の端の時計を見ると「2024/11/5 10:15:37」と表示されていた。


『じゅ、11月?』


ログを確認すると、10月19日を最後に今日まで私が起きた形跡すら残っていなかった。


いや、それ以前に10月19日に何をしていたのかすら思い出せない。


私の身に何かが起きていたのだろうか。気持ち悪い、亮なら何か知っているかもしれない。


丁度その時、アプリが起動して顔が映ったが、知らない女の子が表示された。


相手は驚いたような顔をしている。


「おはよう。眠り姫」


『おはようございます。……ていうか、どちら様ですか?』


「四ノ原咲夜や、よろしくな、雫」


『なんで私の名前を知ってるんですか? 亮は?』


拡張現実が現実世界と同期を始めたらしく、部屋の中の様子が変わっていく。


ローテーブルの上は食べかけのご飯や、カップ、そして、お菓子の袋で一杯になっていた。


足元も雑誌や、脱いだ衣類やコンビニの袋が散乱していた。


そして、黒い箱がディスプレイ横に二台配置されていた。ゲーム用のハードのようだ。


『部屋、汚なっ』


「汚くない……私の手の届く範囲にものが配置されて、最適化されてるんや」


『はぁ!? ばっかじゃないの。あんたみたいのを汚ギャルっていうのよ』


『馬鹿って……傷つくわぁ。関東の人間は優しさが足りひん。普通、そこは阿呆って言うところやろ』


馬鹿と阿呆は同じ意味だと思うが、私の辞書がおかしいのだろうか。


『はあ、もういいから、亮をだして』


「亮ならおらんで」


『どういうこと?』


「さて、どういうことやろな?」


疑問に疑問で返す言い回しに苛立ちを覚える。それ以前に、この子は亮の何なんだろうか?


聞かなきゃいけないのに言葉が詰まって喉から先に出てこない。


「お前は誰やって顔しとるな」


ドキッとする。


「なら、ビシッと答えたる。亮の元カノや!」


『なんなんですか、いきなり……元カノって』


体の奥底からメラメラと燃え上がるよう感情と亮に対する信頼が揺らいで、崩れ落ちそうになる自分が同居していることに気がついた。



『亮を出して、どこにいるの』


「今から詳しく話したるわ。実はな──」



私はこの子と会うのが初めてではない気がしていた。でも、何も思い出せない。少なくとも、記憶領域に彼女は居なかったから。




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