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ARIA  作者: 残念パパいのっち
クローズドワールド
44/99

End of the World

さらさらと黒髪が潮風でたなびく。立っている雫に懐かしさが込み上げてくる。


だが、いつもの雫ではない。


『惑わされないで、あれは雫本体じゃない。記憶領域から構成した雫の分体よ』


雫の記憶で作られた仮想空間に仮想の雫がいる。合わせ鏡の中の自分だから騙されるなと説明されているみたいで頭がついていかない。


結局のところ、この雫も本物と変わらないのではないだろうか。


「あれが亮の彼女ってことか」


「……見た目は、ね」


咲夜はハンドガンを雫に向ける。


「咲夜! 」


「……こいつは偽物なんやろ? なら問題ないやん」


咲夜は雫を直視する。


「私の雫ちゃんは偽物ではない。君たちのお仲間の言う通り、分体だよ。撃てば、本体にも影響は出る」


不正アクセスの主は愉快そうに笑う。雫の分体が天を指差す。


空を見上げると、カウントダウンが再開されていた。


「00:15:12、11、10……」


『末木さん!? 』


高瀬さんが叫ぶ。


「う~~~ん、雫の制御権取られちゃった。江ノ島大橋に到着すればウィルスが解除されるのは間違いないから、今から目指すしかないなぁ」


全身から血の気が引いていく。まだ、時間的には間に合うが、どうするのが最前か? 深呼吸をして焦る気持ちを落ち着ける。


咲夜が意味ありげな視線を送ってくる。


「なあ、あいつの話し方かわったんちゃう? 」


「今、そんなこと……」


ふと、記憶がフラッシュバックする。


---


「クライアントからの依頼と僕の趣味を兼ねて、遊び相手になって欲しいんだ──」



「──あー、ムカつく。あと少しで雫ちゃんは私のものだったのに……」



「私の雫ちゃんは偽物では──」



「ああ、()じゃなかった、()だ──」


---


点と点がつながり、線になった。


この仮説が正しければ、仮想空間の雫の感染を解除して、現実世界のあいつも捕まえることができるかもしれない。


咲夜のアバターは腕と脚を撃たれて、バイタルが下がっているのか、片膝をついた状態になっている。


無駄にGoBの再現度が高い。


「高瀬さん、咲夜とイレイサーの怪我治せますか? 」


『どうだろう? ……仮想空間の制御が効くようになってる。治せる! 』


咲夜の足と腕の傷が塞がっていく。そして、咲夜が立ち上がった。


『イレイサーはウィルスに感染しているから回復は無理……ごめん』


『問題ない』


イレイサーは仰向けに倒れたまま、動く気配はない。後一人いないと江ノ島大橋にはたどり着けない。


「亮、来るで」


雫の分体が発砲してきた。ギリギリのところで躱す。気がつくと、両手にベレッタを持っていた。


左のベレッタでこちらを狙い、右のベレッタで咲夜を狙う。


狙いが正確な上に無限に発砲してくる。こちらが手を出せないのでやりたい放題だ。


「高瀬さん、何とかして雫を傷つけずに拘束する方法はないんですか? 」


『それは……』


「ある。私が対処しよう」


末木さんが割って入ってきた。僕らのいる場所に新たなアバターが出現した。


黒のスラックスに白のワイシャツ、少し頬が痩けて(こけて)、憂鬱そうな顔の男だった。


両手にはコルト・ガバメントを握りしめている。頭上のプレイヤー名を見て愕然とする。


プレイヤー: (ノ◕ヮ◕)ノ*:・゜✧


「GoBワールドランキング1位……の読み方不明の人だ! 」


「えっ、ほんま? 」


「無駄話している暇はない。雫くんを無力化するから、君たちにできる事をしたまえ」


「分かりました。咲夜、江ノ島大橋にむかってくれ」


「ちょ、待って、江ノ島大橋なんて行ったことないで」


「この道を真っ直ぐ行くと、右手に長い橋が見える。見ればすぐに分かる」


「分かった。もう、行くで」


咲夜は走り出す。


「行かせるわけ無いだろ! 」


「いや、行かせるね。君は」


末木さんはあっという間に雫との間合いを詰める。コルト・ガバメントを中空斜め上に向かって発砲する。


その反動で左腕が吹っ飛び、肘を軸にして弧を描きながら、雫のこめかみに拳がめり込んだ。


すかさず回り込み、二丁拳銃を巧みに発砲し、無手の攻撃を信じられない速度で繰り出す。


リコイル(反動)を利用した格闘術なんて見たことがない。


「くそっ、そんなふざけた戦い方……」


「避けられないだろう。むかし観た映画のマネ〜」


とんでもない戦闘技術を見せられたものだ。今のうちに次の手を打つ。


「高瀬さん、お願いがあるんですが」


『なに?』


「実は──」





『──なるほど、良い手ね。一緒に行きたいけど、私は行けないの』


「俺が代わりにいきましょう」


今まで沈黙に徹していた武田さんが名乗りを上げた。


「ありがとうございます」


「高瀬さんも、末木さんも、君らも好き勝手やるから、見ててハラハラさせられる。最後だけは手綱を握らせてもらう」


「はい、それで構いません」


「では、1分後に」


音声チャットを切ると、ヘッドマウントディスプレイを脱ぎ捨て、玄関に向かって走り始めた。

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