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ARIA  作者: 残念パパいのっち
クローズドワールド
42/99

Blooming in the Night⑧

星空に白く大きな数字で残り時間が表示されていた。



「02:59:49」



『あなた達、自分たちが何をしたのか分かっているの!? 』


高瀬さんの声色はかつてないほど、暗く、重いものに聞こえた。深呼吸をして自分を律する。


「わかっと……」


「分かってます。あの声の主は時間稼しているだけです。咲夜(さくや)は情報を引き出すために敢えて徴発したんです」


「ほお」


咲夜(さくや)が感心したような声を出した。だが、高瀬さんは納得のいかない表情をしている。


『どう言うこと? 』


「雫をウィルスに感染させるつもりなら、すぐにできるのに何故やらないのか不思議じゃありませんか? 」


高瀬さんは冷静さを取り戻したのか、目を閉じて深呼吸した後、思案するように眉をひそめた。


『確かに今のところ、金銭を要求されていないし、別の目的がある……? 』


「せや、だから雫を感染させるのは二の次三の次や。大方、クライアントからは時間を稼げ言われとるんやろ」


高瀬さんはその言葉に一瞬考え込み、次第に顔を引き締めた。


「それは江ノ島大橋に向かわなくていい理由にはならないだろう。十分にあった時間が殆ど無くなったんだぞ。それに君らの仮説は根拠に乏しい」


武田さんがその意見に異を唱える。彼の声には焦燥感がにじみ出ていた。


「亮、ここから江ノ島までどのくらいの距離や? 」


「多分、10kmくらいかな。国道134号線の交差点が見えるし」


「なら、走れば1時間半てところか。アバターが走るから疲れへんし」


「まだ、間に合うから私たちのせいではないとでも言いたいのか? 」


武田さんは怒気を含んだ声でこちらに毒づく。


「違います。間に合うように時間調整されているんですよ。あいつは制限時間ゼロにだってできたはずです」


「それは、そうかもしれないが……」


武田さんは言葉に詰まり、しばらく考え込むような間の後に、静かに息を吐いた。


高瀬さんは横たわっている桔梗(ききょう)さんと航くんを見つめ、そっと胸に手を置く。


『あいつは桔梗(ききょう)と航は解除できないと言っていたわね』


「せや、初めからその二人をウィルスに感染させることが目的で雫は(おとり)や」


また、高瀬さんがまた目を瞑る。


『武田さん、私はここに残ってウィルスの感染を遅らせます』


「ですが……」


『武田さん、フォローを』


「……分かりました」


武田さんは観念したのか、ため息を漏らす。高瀬さんが神妙な顔でこちらを見る。


『雫の方を任せる。制限時間ギリギリで奪還がベストなんだけどできる?』


「はい、分かりました。ただ、時間ギリギリというのは? 」


「亮はにぶちんやな」


咲夜(さくや)の言い方にムッとする。


「なら、咲夜(さくや)は意図がわかるの? 」


「末木さん……のためやろ」


『……そう、末木さんが犯人の居場所を特定するまでの時間を稼いでほしい』


咲夜(さくや)の主語が抜けるのは先を見通す力に長けているためだと思う。


たまに何を言っているのか分からない事があるけど、大分時間が経ってから「あれはそういう意味だったのか」と驚かされる事も少なくない。


雫やARIAについてもある程度見当がついているのかもしれない。


その時、バリバリと空気を引き裂くような音と閃光に包まれた。


『敵が侵攻してきた。そろそろ出発するぞ』


イレイサーがシールドで弾丸を弾く。


「……なんで、弾丸を防げるんだ? 」


『シールドの構造を変えた。相手が解析するなら、こちらはシールドの種類を変えればいい』


単純明快だがそんなことがいつまで続けられるのか疑問ではある。


『手数はあちらのほうが多い。あまりシールドに期待はするな』


咲夜(さくや)はブラックステアーをロングバレルに変更していた。中、長距離からの狙撃をするつもりのようだ。


そして、物陰で伏せるように銃を構える。


「援護したるから、国道まで一気に駆け抜けてや」


「分かった。イレイサーは咲夜(さくや)を守って」


『承知した』


「アホか、亮の方が危ないやろ」


「敵兵13体とこの道幅なら要らないよ。屋内と変わりない」


地面を蹴って走り出す。狭い道だが、あまり隠れる場所がないので射線が通りやすい。


敵前衛の三人がアサルトライフルをフルオートで乱射してくる。


銃声が聞こえるか聞こえないかで右側の塀に手をかけ、飛び上がり塀の上に登ると、弾丸がコンクリートの塀に着弾して粒子が飛び散るのが見えた。


塀の上を走りながら、グロックで二人仕留め、宙返りしながら、飛び降りて受け身を取りつつ、ナイフを投擲(とうてき)して敵兵の首を射抜く。


ナイフを引き抜き、敵兵を盾代わりにして弾丸を凌ぎ、自分の間合いに入ったら投げ捨て、首横から串刺しに。身を(ひるがえ)して、心臓を一突き、頸動脈(けいどうみゃく)()ねる。



右、左、下、撃つ、下がる、進む、撃つ、刎ねる、刎ねる、刎ねる、刎ねる、刎ねる、刎ねる……



コントローラーを操作している感覚が薄れて、自分が仮想空間の一部に同化しているような感覚になる。


背景は消え失せ、無音になる。無駄が削ぎ落とされて、相対する敵と己以外何も感じなくなる。



「と……る、……とお…、亮、亮っ!! 」


咲夜(さくや)の声で振り返る。


「……咲夜(さくや)どうかした? 」


『フレンドリーファイアは勘弁願いたいのだが』



気がつくとイレイサーの額にグロックの銃口が向いていた。周りを見渡すと134号線の交差点の真ん中に立っていた。


茅ヶ崎漁港に下る坂道や建物、防砂林(ぼうさりん)などで周囲は囲まれていた。


「あれ……明るい」


「ああ、交差点に入った途端に夕暮れになったんや」


赤焼の空で世界が染まっていた。交差点入口付近を振り返ると、入口を境に真っ暗な空間が広がっていた。


雫と夕方にこの道を走った記憶はない。何故、夕暮れなんだろうか?


「そんなことより、ほんま、世話が焼けるな自分……GoBで敵味方全滅させた時の事を思い出したわ」


苦笑する。その事件を境に僕は鬼軍曹と呼ばれるようになったのだ。


集中が途切れたのか、急に現実に戻った感覚があった。銃口を下げる。


「ありがとう、咲夜。イレイサー、すまなかった」


『味方の弾は当たり判定にならない設定だ。問題はない』


仮想空間に入ってからずっと気になっていたことをイレイサーに聞いてみた。


「イレイサーはARIAなのか? 」


『違う、単なるAIだ』


「イレイサーやARIAはこの空間で死ぬとどうなる? 」


『私に死という概念はない。この空間から消滅するだけだ。ARIAはおそらく死と同義の現象が起きる』


「ARIAはAIとちゃうんか? 」


『その質問は規約の一部に抵触する。回答できない。ただ、私とは根本的に異なる存在だ』


「咲夜、その話は後で話すから」


「……約束やで」


さて、問題はここからだ。片側二車線で視界は良好。


海側に建物は見えるが、江ノ島に近づく程、防砂林と呼ばれる背の高い木に囲まれた開けた場所になっていく。


「とりあえず、あの建物の上からできるだけ敵兵の狙撃をしていくわ」


「僕は防砂林に身を隠しながら、前進していく」






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