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ARIA  作者: 残念パパいのっち
クローズドワールド
36/99

Blooming in the Night②

夕暮れの134号線、左は防砂林(ぼうさりん)、右手に建物と海が見えた。


……どう見ても、茅ヶ崎の漁港近くの道だ。


僕は双眼鏡(そうがんきょう)で敵を確認し、ボイスチャットで状況を伝える。


「咲夜、12時の方向、200m先に17体」


「確認」


咲夜は海側にある建物の上から、ゴーストたちを狙撃する。


パスン、パスンと音が聞こえた。


「あかん、防砂林に逃げられたわ。後始末頼むで」


「何やってんだよ! 」


「アホか、GoB(ゴブ)の敵兵と違って動き速いし、数多いねん。あっ、イレイサー、シールド」


その瞬間、バチバチと放電するような音が聞こえ、咲夜のいる建物あたりが発光するのが見えた。


「ここはもうアカン。イレイサー、場所変えるで」


『承知した』


「どこに移動するつもり? 」


「見通し良すぎて、防砂林に身を隠すくらいしかないわ」


「住宅街まで後退する? 」


「アカン、まだ江ノ島(えのしま)まで大分距離があるんやろ。制圧したエリアまで後退してもジリ貧(じりひん)や」


「了解。僕が突っ込むから、咲夜は背後から援護。イレイサーは僕をシールドで守って」


『承知した』


その瞬間、ボロボロの黒いローブで身を包んだ背の高いアバター……いや、本体が僕の隣に現れた。


宙に浮いていることもあって、GoB(ゴブ)の敵兵よりもイレイサーの方が亡霊(ぼうれい)感がある。見た目も普通に怖い。


「高瀬さん、桔梗さんと(わたる)くんは大丈夫ですか? 」


「ウィルスの侵食は止めたけど、ここで処置するのは無理。私はログアウトして、ウィルス駆除に専念する。ごめん」


「……分かりました。高瀬さんは大丈夫なんですか? 」


「大丈夫。私はARIA(アリア)じゃないからね」


そうは思えない。僕が最後に見た高瀬さんは真っ青な顔をしていた。そう、アバターなのに。


どうして、こうなった?


始まりは咲夜が我が家に今朝やってきたところまで話は遡る──



***



咲夜はこちらの返事を待たずに、勝手に部屋に上がりこんで、マグカップでコンソメスープを嗜んでいた。


咲夜が冷ややかな目でこちらを見る。


「この家はお茶も出されへんのか? 」


「お茶がないから、代わりにコンソメスープを出したじゃないか」


「亮はそういうところずれてんねん。無意味にほっとするわぁ~。でも、ちゃうねん、これやない」


ブツブツと文句を言う割には美味しそうに飲んでいるじゃないかとツッコミを入れようかと思ったがやめた。


こういう会話は咲夜の大好物だ。用件を聞いてさっさと帰ってもらおう。


「この部屋、ロフトついとるやん。登ってええ? 」


「ちょ、ちょ、ちょ、駄目駄目駄目! 」


「別にええやん。減るもんじゃないし。……あっ、なんか、どエロイもん隠してるんやろ? 」


「ち、違うわい。兎に角、俺が先に登って、いろいろ準備できたら呼ぶから待ってて」


「準備ってなんやねん。亮と私の仲やないか」


その言葉に僕はムッとした。


「なんだよ、僕と咲夜の仲って……」


「えっ……あ、そうやな。ごめん」


咲夜がしゅんとした顔を見たら、胸がチクっとした。いや、僕は悪くない。


そう思いながら、ロフト上のスマホを回収してポケットに突っ込んだ。咲夜に(しずく)を見られると都合が悪い。


すぐにロフトを降りて、咲夜の方を振り返る。


「もういいよ」


「もう、ええの? 」


もうすこし、片付けたふりをした方がよかったか? まあ、いまさら手遅れなので諦める。


そういうと、咲夜は3段くらい上がったところで、こちらを振り返る。


「スカートの中、見たらアカンで」


「見ないよ」


咲夜は少しはにかんだ顔でこちらを見つめる。


「パンツ穿()いてヘンねん。だから……」


「えっ!? 」


咲夜はにぃっと笑う。


「嘘に決まっとるやろ」


「くっそ~、腹立つ」


「亮はちょろいなー」


一瞬、本当に覗いてやろうかと思った。何となく、咲夜のペースに引きずり込まれている気がしたので、深呼吸する。


梯子を上る咲夜を確認すると、僕は回収したスマホを自分のリュックの外ポケットに隠した。


これで咲夜に見られる心配はない。ふぅ、と一息ついた瞬間、もう一台のスマホが鳴り始めた。


画面を見ると、高瀬さんからの着信だ。おそらく、雫に関係することだろう。


ここで話を聞かれるとまずいので、僕は咲夜に断りを入れる。


「ちょっと外で電話してくる」


「あいよ、早よ戻ってきぃや」


ロフト上の咲夜にビシッと指さす。


「……勝手に部屋の物漁るなよ」


「分かってるって」


ニヤニヤしている顔が見えた。はぁと、ため息が漏れた。


諦めて、外に出て通話をタップする。


「もしもし、山内です」


「高瀬です。雫のことで相談があって電話しました」


電話口の高瀬さんの声は小さく、かすれていた。体調が悪いのだろうか?


「はい、相談ですか? 」


「うん、ちょっと困った事になってて、例のゲーム機の電源を入れてくれないかな」


「今からですか? 」


「いえ、遅い時間なんだけど午後10時くらい。手伝って貰いたいことがあってね」


「はあ……あの何をするんですか? 」


「口頭で説明するのが難しいから、詳しくはその時説明しますね。後、ゲームは得意? 」


「まあ、人並みには……」


「そうだよね。男の子だもんね」


ゲームの得意、不得意に男も女もない気がする。でも、この発言から年齢差を改めて実感した。


見た目が若いから少し年上のお姉さんくらいに思っていたが、自分の母親も似たような事を言っていた気がする。


「ごめんね。本来なら雫はもう目を覚ましている筈だったんだけど……」


「いえ、待っている間に気持ちの整理もついたんで、丁度良かったです」


「じゃ、よろしくお願いします」


「分かりました。僕に出来ることであれば」


そう言って電話を切った。


しかし、なんとも要領を得ない話だ。ゲーム機を使って何をするんだろうか。


歩きながら通話をしていたら、最寄りのコンビニについてしまった。



「……お茶とお菓子でも買っていくか」


咲夜を早く帰って貰わないと都合が悪い。ここは一つ思いっきり接待して、さっさと退散して貰う作戦にする。


咲夜は甘やかされるのが苦手なので、この作戦に効果があることは経験則上分かっている。


コンビニで買い物をして部屋に戻ると、咲夜が勝手に僕のゲーム機をセッティングしていた。


「亮、おかえりー」


こちらを振り返った咲夜はヘッドマウントディスプレイをかぶっていた。武装した兵士みたいだ。


「おい、何やってんだよ! 」


「何って、GoBを始める準備や。ええやろ? 」


「いや、悪くはないんだけど……」


「なら、ええやん。ほい、亮の分」


そう言うと、咲夜にヘッドマウントディスプレイとコントローラを手渡された。


GoBは2人でプレイするなら本体が2台ないと出来ない。つまり、わざわざ、ゲーム機も大阪から持ってきたのだろう。


「ほな、はじめるで」



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