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ARIA  作者: 残念パパいのっち
クローズドワールド
35/99

Blooming in the Night

「──6時のニュースです。まずは、こちら。スマホの動画や画像が忽然(こつぜん)と消えてしまう新型ウィルスが発見されたようです。実際にデータが消えてしまった方を取材しました……」


いつものニュース番組を眺めながら、ご飯を食べる。


徹夜でゲームをするような不摂生(ふせっせい)な生活を改めたら、心が落ち着いた。


部屋を掃除し、溜まっていた食器を洗う。洗濯物もしっかり畳んでクローゼットにしまう。


汚れていた何かが綺麗(きれい)になっていく様を見ただけでスッキリした気持ちになった。人間は思いの外、単純に出来ているのかもしれない。


ロフトに上り、スマホで雫の様子を確認する。やはり、眠っているようだ。


高瀬さんに相談してから二週間が経過したが、特に進展はない。


雫が起きた時にできるだけ、いつもどおり迎え入れようと思い、規則正しい生活を心がけた。あまり外出もできないので出来ることがそれくらいしかない。


GoBも封印した。咲夜にはSNSでメッセージを送り、GoBはもうやらないと伝えた。


暫くたってから「そっか、しゃーないな」と一言だけ返信が来ていた。それから連絡はない。


ピンポーンとインターフォンの鳴る音が聞こえた。寛さんだ。話があるというので部屋に上がってもらった。


寛さんはキョロキョロとしながら、腰をおろした。


「部屋がもっと荒れているかと思ったが大分綺麗に片付けているようだな」


「少し前は荒れてましたからね」


寛さんは外出できない俺を気遣って、たまに遊びに来てくれていたので、部屋の状態を知っているのだ。


その度に部屋の片付けを手伝ってもらっていたので、頭が上がらない。


「で、用ってなんですか? 」


「雫ちゃんのことだ」


ドキッとした。雫は眠ったまま起きませんと説明もできないので、喧嘩中で連絡がつかない……という事にしている。


ロフトに置きっ放しのスマホが頭をかすめた。まあ、寛さんがロフトに上ることはないだろうし、大丈夫か。


「で、今日はどうしたんですか? 」


「お前の様子がおかしいから桔梗さんに事情を聞いたんだ」


「桔梗さんに? 」


一瞬、頭が真っ白になる。


「なんで、桔梗さんと連絡がとれるんですか? 」


「何でって……桔梗さんが俺に連絡してきたからな」


「いや、そうじゃなくて桔梗さんは誰から寛さんの連絡先を聞いたんですか? 」


「雫ちゃんから聞いたと本人は言っていたな」


雫が桔梗さんに寛さんの連絡先を教えた事自体が信じられなかった。本人が眠っているから確認のしようもないが、性格を考えると連絡先を教えるとは思えない。


「それはいいが、山内なんで正直に話してくれなかったんだ」


何のことだ。主語がないから回答に困る。黙っていると寛さんが勝手に話し始めた。


「桔梗さんから聞いたぞ。雫ちゃんは病気(びょうき)で、昏睡(こんすい)状態だって」


……なるほど、桔梗さんはそういう設定にしたのか。仕方ない話を合わせておくか。


「寛さんが心配するだろうと思って……」


「そうか。何か、俺に出来ることがあるなら言ってくれ。まあ、気分転換に付き合うくらいしか出来ないかもしれないがな」


力なく笑う寛さんに申し訳ない気持ちになる。だが、これは桔梗さんの連絡先を手に入れるチャンスでもある。


「寛さん、桔梗さんの連絡先を教えてもらえませんか? 」


「……構わないが、知らなかったのか? 」


「桔梗さんに嫌われているみたいで……」


「確かにあまり山内の事をよく思っていないのを言葉じりから感じることがあるな。分かった。連絡先は後で送る」


思わぬところから連絡先が手に入った。


寛さんの返事に内心ほっとしつつ、桔梗さんの本当の意図が気になって仕方なかった。


「あの、ところで佐藤先輩のご様子は……? 」


「あまり芳しくないな。そういえば、近い内に木崎が顔を出すと言っていたな」


「木崎さんが? 」


何をしに行くんだろうか。性格的に相手に寄り添って何かしてあげる人間でもないので少し不思議だ。


「どうしても伝えたいことがあるから、と」


「寛さんも一緒に行くんですね」


「ああ、そのつもりだ。木崎は……何と言うか、少し過激なところがあるからな。見張りは必要だろうしな」


苦笑(くしょう)してしまった。話が終わると寛さんはゆっくりと立ち上がった。


「あれ、もう帰るんですか? 」


「そろそろ卒論も終盤に差し掛かっているからな。大学に調べ物をしに行く」


また遊びに来ると言って大学へ出かけていった。


僕も一限目の講義の準備をする。基本、リモートで参加だから急ぐ必要はないが予習するようにしている。


実は黒板に板書するタイプの教授だと、文字が見えないこともある。そのため、予習して見えない文字を頭の中で補完しているのだ。


教科書を読んでいると、再び、インターフォンが鳴った。


「あれ、寛さんかな? 」


ドアをガチャリと開けると手に大きな手さげバッグを抱えた女性が立っていた。大きな瞳に肩まで伸びた栗色の髪、ワンピースの下に半袖のティーシャツ姿。


その姿に懐かしさを覚えた。


「……よっ。久しぶり」


「さっ、咲夜? 」


咲夜は右に左に目線を泳がせながら、小さな声で囁いた。


「ちょっと、遊びにきたわ」


「ちょっと? 」


「二、三日よろしくな」



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