表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ARIA  作者: 残念パパいのっち
フェイクビレッジ
19/99

来訪者

僕がスマホを左手で持ち、隣に寛さんが右隣に立っており、画面に向かって頭を下げた。


「はじめまして、高瀬寛と申します」


『えっと……わ、私は西園寺桔梗(さいおんじききょう)です。始めまして』


……桔梗と名乗る新たなARIAは視線を右へ左へ泳がせながら、寛さんに挨拶をした。


アパートのエントランスで大の男が、横並びで、スマホに向かって話しかけている様は異様ではないだろうか。


誰も見ていないし、気にしすぎだろうが少し恥ずかしい。


そんなことより、突如出現した雫以外のARIAとは仲良くしておくに越したことはない。


何しろ、雫の話だけだとわからない事も多い。


「あの、僕は……」


『知ってる。雫をたぶらかした山内でしょ』


「たぶらかしては……いないと思うのですが」


桔梗と名乗るARIAはキッとこちらを睨みつける。僕の仲良くなろうという目論見は秒殺された。


『きょう姉、ちょっとやめてよ……』


いつも自由奔放な雫が困った顔をしていた。桔梗さんは雫の上を行く面倒くさい人なのではないだろうか。


『山内亮……あんた、今なんか失礼なこと考えたでしょ』


「い、いえ、そんな事は……」


妙に鋭い。学習データの中に僕のような表情と考え方を結びつけるデータセットでもあるのだろうか。


「しかし、雫ちゃんにこんな綺麗なお姉さんがいるとは知らなかったな」


寛さんが空気を読まずに会話に割って入ってくる。この微妙な空気を感じ取らず、自分の言いたいことを話すところが凄い。


『えっ……私のこと……ですか? 』


「そうですね」


桔梗さんは目を大きく見開いて真っ赤な顔をしたかと思ったら、俯いてしまった。


寛さんは顔の彫りが深く、低く渋い声をしている。実は女性にもてるのではないだろうか。


『あの、寛さん……初対面で女性を口説くのはちょっと……』


「そんなつもりはない。思ったことを正直に伝えただけだ。誤解を与えたなら申し訳ない」


あまりに直球すぎる言い訳に男の僕ですら、ドキッとした。


当の桔梗さんは眉尻が下がったり、上がったり、赤くなったりとコロコロと表情を変化させていた。


ちなみに桔梗さんは僕と寛さん、雫の三人で話しているときに突然会話に割り込んできたのだ。


そして、僕と寛さんを勘違いして、すごい剣幕で寛さんに食ってかかった……が、途中で人違いと気がついたらしく、現在に至るというわけだ。


なかなか、そそっかしい性格をしている。


「あの、これ。鍵とヘルメットありがとうごさいました」


「ああ。山内、気分転換になったか?」


寛さんはスマホに映る雫をチラリと確認すると、「まあ、聞くまでもなかったか」と笑顔になった。


「はい、おかげさまで。バイクはガゾリン満タンにしておきました。洗車もしてありますので」


「そうか、かえって気を遣わせてしまったな。……あ、俺からも渡したいものがあるんだ」


そう言うと部屋に入り、何か紙包みを持ってきた。


「実家が小田原にあってな、近くに、美味しい干物屋があるから買ってきたんだ」


そう言って手渡してきた。


「えっ、お土産ですか。悪いですよ」


「気にするな。美味いから食ってみてくれ」


寛さんは第一印象は良くなかったが、仲良くなって気がついたが、とても面倒見がとてもいい。


第一印象で損するタイプの人なんだろう。


「ところで、二人はこちらに来ることはないのか? 」


『私達がそっちに行けるわけな……』


『わーっ! いえ、ちょっと実家がゴタついてまして、遠出は難しいんです』


雫は桔梗さんを制して前に出て代弁をした。


「そうか、残念だな。ご実家は岩手県とか言っていたな。顔を出すのも駄目か? 」


「寛さん、僕でもなかなか会えないので難しいですよ」


雫と口裏を合わせておいたので、自然とそれっぽい嘘が言えた。


『ちょっと込み入ってまして……』


「聞いてはいけないことを聞いたようだな。すまなかった」


また、寛さんが頭を下げるのを見て、罪悪感が湧いてきた。事情など言うに言えないが。


雫の後ろに隠れている桔梗がジトッとした目でこちらを見ていた。


……何か言いたそうな目をしていたが堪えてくれたようだ。


「二人がこっちに来ることがあれば、寛さんにもお声がけしますよ」


「ああ、そうだな。頼む。ところで、山内、大学に行かなくていいのか? 1限目があると話していなかったか」


「あっ。そうだ、行ってきます」


「気を付けてな」


バスに間に合うか微妙な時間だったので、走って向かったが、結局、バスには間に合わなかった。


バスに揺られながら今までのことをぼんやりと考えていた。


桔梗さんの態度を見る限り、僕に対して明らかな敵意がある。


彼女の「雫の事をたぶらかした」というセリフは雫が以前話してくれた内容と合致する。


雫の「ARネットワークに閉じ込められている」という話と、桔梗さんの態度から、外部ネットワークに出ることが良いことではないと推察はできる。


だからこそ、違和感がある。雫と桔梗さんの発言に明確な温度差があるように感じる。


実は雫は閉じ込められているのではなく、「極力でるな」、あるいは「許可を取れば出てもよい」程度の緩いものなのではないだろうか。


その気になれば、桔梗さんは高瀬さんに告げ口をして、雫を更迭することだって可能な筈だ。


だが、していない。


せいぜい、僕に対してクレームを入れる程度の対策しかしていないのだ。


雫は嘘をついている。


高瀬さんに会いに行って話を聞けば、確実に何かを知っているのだろう。ただ、高瀬さんに会えば、雫との関係も終わってしまう可能性が高い。


…………。


目を瞑り、耳を塞ぎ、口を閉じて、このまま楽しく雫と暮らす……というのも悪くない。


でも、このままではいけないと……思う。


まずは、桔梗さんと話をしてみよう。


バスは大学に到着した。15分遅れで1限目の授業に参加する。人の目が気になったが、教壇横の出席用ICカードリーダーにタッチする。


席に座ろうと後方を振り返る。


心なしか、皆が僕に注目しているような気がした。


講義途中から参加したから、目立ってしまったのだろう。


後方の席に向かう途中、三人組の女性がこちらをチラリと見られたかと思うと、コソコソと何かを話していた。


「?」


思わず、身体のアチコチを触って確認した。何か、おかしな所でもあるのだろうか。


思い当たる節もないので、諦めて適当に席に座る。


見た感じ、拓人は授業に来ていないようだし、後でトイレで確認しよう。


席についてパソコンを起動すると、パソコンのディスプレイを隠れ蓑にして、雫にメッセージを送った。


「桔梗さんと話がしたい。頼めるかな? 」


『何を聞きたいの? 』


「ARIAのこと」


『それなら私に聞いてよ』


「雫以外の人……ARIAから話を聞きたいんだ」


『無理。喧嘩になるだけだよ』


暫く似たようなやり取りが続いたが、雫は折れてくれなかった。


(らち)が明かない。


次の休み時間にオンライン通話で直接話そうと心に誓った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ