信号待ち
三題噺もどき―よんひゃくにじゅうよん。
鉄の塊が連続して風を切る。
制限速度など知らないとでもいう様に、ものすごいスピードで車が目の前を通り過ぎていく。それなりに人通りはあるが、車通りも多いこの通り。
車の運転が荒いこと荒いこと……もう少し丁寧にとは言わないがなぁ。
つい数日前もサイレンが聞こえたりしたが、果たしてどこからだったか。
サイレンなんて毎日のようにどこかから聞こえるからな。
「……」
昨日の雨がまだ残っている灰色の空。
降りこそしないものの、湿気が居座っている。
明日はこのまま晴れに向かうと言っていたけれど、果たして……。
「……」
少し離れた所には、スーパーの入り口がある。
開いては閉じ、開きかけては閉じ、閉じかけては開き、せわしない。
いつも私が通っているスーパーだ。この辺に住んでいる人は大抵ここにきているんじゃないだろうか。
と、そう思う程に、毎日人が多い。
「……」
今はそのスーパーにちょっとした買い物に来た帰りだ。
なくなりかけていた調味料と、カット野菜。トマトとかも買った。
あとは、なんとなく目に入ったフルーツゼリーを二個。フルーツミックスというのと、メロン味のモノ。ホントは蜜柑がよかったんだけど……あいにく売り切れていた。丁度売り出しになっていたらしい。タイミングが悪かった。
「……」
だとしても、ああもゼリーが無くなることが、果たしてあるのかと疑問は残るが。
ま、その辺は私の知る由もない。
……大量に残っていたこの、メロン味も少し安くしてくれればいいのに。
「……」
しっかし、今日は買いすぎた。
先のものにプラスで、レトルトやインスタント食品を買ったり、飲み物も買ったりしたので。
袋がそれなりに重い。液体の重さを思い知っている。そんなに買うつもりはなかったのだけど……。
まぁ、これで少しは持つだろう。そんなに引きこもる予定はないが、晴れた後にまた天気が荒れそうだったし。
「……」
そんな重い荷物をもったまま、信号機が変わるのを待っている。
ここは信号の切り替わりがやけに遅い。
車通りが多いと言うのがあるんだろうけど、それにしても待ち時間が長い長い。
「……」
その上、この辺の車は黄信号でも赤信号でも走ってくるので。
左折してきた車がものすごい勢いで突っ込んでくること多々だ。
信号機なぞ見えていないんだろうな……としか思わないが、絶対にどうにかした方がいい。
運転のルールに老いも若きもない。
「……」
あー早く変わんないかな。
荷物も重いし、寒さで指先が冷えてきた。
足元なんてとうの昔に冷え切ってしまっているし、車が走るたび、風が吹きつけるので冷えが増す。マスクをしているから、多少はマシになってるだろうけど。
「……」
さっさと帰って落ち着きたい。
外出できるようにはなっているが、少し外すと落ちかける。
……信号機が変わるのを待っている間に、周囲に人が集まりだしてきた。ざわざわと人の声が響きだして、袋の擦れる音も重なりだして。
「……」
少し離れたところに避難したいんだけど。
いつもなら、そうするんだけど。
今日に限って、逃げ道がふさがれてしまった。
……ぼうっとして、横断歩道のかなり手前で待ってしまっていた。おかげで、横にもひとがいるし、後ろには自転車に乗っている人が居る。
「……」
音が脳内で響きだす。
イヤホンでもしてくれば多少はマシになったのに。
愛用しているブルートゥースイヤホンの充電が切れていたのだ。
それで、今は家で充電中だ……。
「……」
それも、これも。
自分のせいだが。
「……」
あ。
「……」
横断歩道の信号機が青に変わる。
と、同時にそれを知らせる音が鳴り響き、人々が動き出す。
「……」
ほとんど気圧されるように、私も歩き出し、そそくさと人の塊から抜け出す。
後ろから、ものすごい勢いで自転車に追い越されたが。
荷物の重さも、指先の冷たさも気にならないほどに、足早に逃げる。
「……」
「……」
「……」
「……」
「……っふぅ」
住宅街に入り込んだところで、息が漏れる。
信号待ちひとつでこれでは、身が持たない。
今に始まったことじゃないが、どうにかしたいものではある。
「……」
とは言え、そう簡単にどうにかできるものでもない。
どうにかできるなら、とうの昔にどうにかしている。
上手くいかないものは、うまくいかない。
「……」
毎日毎日。
上手くいかないことだらけ。
それでもまぁ、今まで何とかなっているのだから。
これからも、なんとかなるんだろう。
「……」
気にするべきではない。
気にしなくたっていい。
そうして。
少し、楽観視してもいい。
お題:信号機・メロン・指先