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エピローグ

 事故……というか、トラックに轢かれそうになってから一週間後。


 色々あって恵太は入院していた。


 精神的なショックと慢性的なストレス、そして最近酷使していた身体が悲鳴をあげてしまったのだ。


 いおりは恵太が入院してから毎日お見舞いに来てくれている。

 その都度大量の本を置いていくものだから、そろそろ簡易的な本屋を開けそうなくらいだった。

 玲奈は一度だけ顔を出してくれたが、悪態をつくだけついて帰っていった。

 相沢も時々来てくれる。

 櫻坂も来たのだが……その時のことはあまり思い出したくない。


 今は午前九時を回ったところ。

 いおりが来るとしても後半日はかかるだろう。

 暇をつぶすため、いおりの持ってきてくれた本の一冊に手を伸ばそうとすると、病室の扉がノックされる。


「入るよ」


 そんな軽い声と共に姿を現したのは、あまねだった。


 三度目の朝以降姿を見かけていなかったので、どこかへ消えてしまったものだとばかり思っていたのだが、どうやらそうではなかったらしい。


あまねは以前と全く変わらない様子で楽し気に笑いながら、我が物顔で恵太の寝ているベッドに腰掛けてくる。


「俺は怪我人なんだ。あんまり騒がないでくれよ」


「騒ぐなんてとんでもない。可愛いあまねさんが頑張ったキミをこうしてわざわざ労いに来てあげたんじゃないか。もっと喜んだらどうだい?」


 そう言いながら恵太の頭に伸ばしてくる手を掴んで払い落とす。


「前はあんなに気持ちよさそうにしていたのに、つれないね」


「弱みに付け込まれただけだ。思い出させるんじゃない」


「そういうことにしておいてあげようか」


 憎らしい笑みを浮かべて、あまねはふふっと笑った。


「それで、お前は何しに来たんだよ。ずっと姿も見せないで」


「それは遠回しに寂しかったということでいいのかな?」


「違う。そんな気持ちはこれっぽっちもない」


「酷いなぁ。まぁいいけどね」


 ふぅと溜息をついて、あまねは言った。


「わざわざ言うまでもないだろうけど、一応結果を報告しにね」


「結果?」 


「あの子はもう大丈夫だよ」


 誰のことを言っているのかは聞くまでもなかった。


「キミのおかげでもう死にたいなんて思わない。もちろん、あの子を取り巻く問題が全て解決したわけじゃないけれど、でも、何とかなる。何とかするといったほうがいいのかな?」


 そう言って、あまねは恵太を意味深な目で見つめた。

 それには気付かないふりをして、恵太はそっぽを向く。


 さて、と言うと、あまねはベッドから降りる。

 帰るつもりだということがわかって、つい口が出てしまった。


「どこに行くんだ?」


 なんだかんだと言いながらも、恵太はあまねと別れるのが少しだけ寂しいと感じていた。

 あまねの正体が何なのかは今もわかっていないが、少なくとも、恵太の中でいなくなられて寂しいと思えるような存在になっていることを否定することはできなかった。


 ところが、そんな恵太の気持ちとは裏腹に、あまねはとんでもないことを口にした。


「キミの家だけど?」


「は?」


「だから、ボクらの愛の巣さ」


「変な言い換えをするな。え、ていうか、なんで?」


 ちっちっち、と鬱陶しく人差し指を恵太の前で振って、そのまま口に持っていく。


「そうだったそうだった。もう一つ、キミに大事なことを言い忘れていたよ」


 嫌な予感が急速に膨らんでいくのがわかる。

 聞きたくない。

 それなのに、まるで金縛りにでもあったかのように耳を塞ぐことができない。


 そんな恵太を笑って見つめながら。


 優しい声で。


 ゆっくりとした口調で。


 一言一言を噛みしめるように。


 あまねは、その言葉を口にするのだった。




「明日死にますけど、どうしますか?」



おわり


最後まで読んでいただきありがとうございました!


『明日死にますけど、どうしますか?』ひとまず完結となります!


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