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第五十四話

 ふと、思い出したように玲奈が言った。


「今日の昼、焼きそばパン買ってきなさいよ」


「なんだよ藪から棒に。なんで俺がお前のためにそんなパシリみたいなことしなくちゃいけないんだ」


「あんたのせいであたしが昨日どんだけ苦労したか、まさか忘れたなんて言わないわよね」


「……」


 その件について突っ込まれると、恵太は何も言えなくなる。

 自分の圧倒的優位を確信したのか、玲奈はいつもの不機嫌そうな顔を凶悪な笑顔に変えた。


「飲み物はコーラ。三本ね」


「糖尿病になるぞ」


「当然デザートも」


「コンビニの……」


「そういえば、最近駅前にできたみたいじゃない。プリン専門店」


「待て。あそこは確か最低でも千円はするって聞いたぞ」


「じゃあ二千円ね」


「二個も食うのかお前は」


「二個もあたし一人で食べるわけないでしょ」


「じゃあ一個でいいだろ」


「うっさい。いいから黙って買ってこい」


「でも買ってくる時間が」


「昼休みに行けばいいでしょ」


「それだと俺が昼を食べられないんですけど」


「あ?」


「はい。買ってきます」


 ピポ、と音がして、信号が青になったことを教えてくれる。


 玲奈はさっさと歩き出していた。

 その後には、ずっと相棒だと思っていたはずの裏切り者の姿もある。

 やはり色気ということなのだろう。

 色気で勝てるわけもないので、恵太は泣く泣く相棒の座を玲奈に譲ることにした。


 道行く人の流れに乗って、恵太も歩き出す。

 ここからならば、ゆっくり歩いても授業には十分間に合う。


 きっと、今日は色々なことが変わっているはずだ。

 目には見えないし、気づかない人間のほうが多いだろうが、間違いなく変わっている。

 きっと玲奈もそのことは薄々感づいているのだろう。

 だからこそ、どこか弾むような足取りなのだろうから。


 異変に気付いたのは、信号を渡り切った時だった。


 なんとなく振り返ると、横断歩道の丁度真ん中で一人の女の子が視線をさ迷わせながらふらふらと歩いていた。

 信号が変わるにはまだ時間があるが、そんなに猶予があるわけでもない。


 駆け寄ろうとした時、恵太の周りでざわめきが起こった。

 そして、どこからか上がる叫び声。


 人々が視線を投げるその先には、覚束ないハンドルで左右に揺れながら走るトラック。

 ガードレールや標識などを擦りながらこちらに向かってくる。


 嫌な予感がした。


 恵太の周りにいた人たちは、危険を察知して我先にと散り散りになっていく。

 恵太もそれに続こうとして、女の子がまだ取り残されているのに気づいた。


 迷っている暇はなかった。


 駆け出して女の子に近づく。


 何が起きているのかわからず、でも頼れる人もいない中で、泣いてしまっている女の子はトラックが近づいてきていることにも気づいていない。


 話をしている時間も暇もなかった。


 屈んでその小さな体を抱きかかえると、すぐにその場から離れる。

 だが、恵太が思っていたよりもずっと、トラックはすぐ側まで近づいてきていた。


 ざわめきが一層大きくなる。

 悲鳴と泣き声がいたるところからあがっていた。


 ふらついているトラックはどこへ突っ込んでくるかわからない。

 そっちじゃない、こっちじゃないとしきりに誰かが叫んでいる。

 でも、恵太はとにかく真っ直ぐに進むしかなかった。

 だが、無慈悲にも、トラックは恵太達の後を追って、迫ってくる。


 ―――明日死にますけど、どうしますか?


 頭の中にあまねの声が響いた。


 なるほど、こういうことか。


 どうあがいたところで、あのトラックは恵太に突っ込んでくる。


 そんな確信があった。


 恵太はここで死ぬ。


 そう言う運命なんだろう。


 であれば、今の恵太に出来ることは一つしかない。


 恵太の視界に金髪が揺れるのが見えた。

 そこに向かって声を張り上げる。


「琴城寺っ!頼むっ!」


 そう呼ぶと、抱えていた女の子を玲奈に向けて放り投げた。

 恵太の信頼に応えるように女の子を軽々とキャッチする玲奈。

 本当に頼れる奴だと恵太は心の底から感謝した。

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