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第四十一話

 二時限目の休み時間。


「本当に来るんでしょうね。嘘だったらぶん殴るから」


 校舎裏の茂みの中で、恵太の隣に身を潜めている玲奈が小声でそんなことを呟いた。


 相変わらず、というかいつも以上に物騒なことを口にしてはいるが、恵太がお願いしたとおり何も言わずについてきてくれるあたり、玲奈の人の良さが滲み出ている。


 しばらくすると、授業の終了を告げる鐘が鳴り響いた。

 さらに少し待つと、予定通りいおりが校舎の陰から姿を現す。


「うそ、ほんとに来た……」


 玲奈は驚きを隠せないというようにそう呟いた。


 玲奈にはこの場所、この時間にいおりと櫻坂達が現れるということしか説明していない。

 玲奈が登校するのが二時限目の休み時間ぎりぎりなので細かい説明をしている時間はなかったというのもあるが、玲奈ならば集まった面子を見ればここで何が行われるのか大体察しはつくだろうと思った。


 そして、いおりが来てからほとんど間をおかずに櫻坂達も姿を現す。

 玲奈が露骨に顔を曇らせるのを横目で見ながら、櫻坂たちがいおりにする行為を撮影するために携帯のカメラを構える。


 前回のループと同じように、玲奈は恵太の腕を強く掴んでいる。

 いおりを見る玲奈の顔は苦しそうに歪んでいた。

 恵太の腕を掴む手から小さく震えも伝わってくる。


 あの時の玲奈は、こんなになるほど悔しい想いを押し殺して恵太を止めていたのだと思うと、暴れてしまったことを少しだけ申し訳なく思った。


 でも、今回は違う。

 櫻坂がいおりに手を差し伸べたところで、恵太は動いた。


「ちょっと、何するつもり」


「櫻坂を止める」


「……それは、駄目」


 いおりは、玲奈が再び櫻坂たちのいじめの標的にされないためにいじめを受け入れている。

 ここで助けに入るということは、その想いを無碍にするということ。

 だから玲奈は止めようとする。

 いおりを思いやるがために、助けたいという自分の気持ちを押し殺して。


 でも、それは間違っている。

 二人の間にあるのはただ相手を思いやろうとする優しさだけなんだから。

 伝えないとわからない。

 そして、それは伝えなければならない。


「悪いな、琴城寺」


「えっ」


 恵太を掴んでいた玲奈の手を逆に掴んで、恵太達は茂みから勢いよく飛び出した。


「だ、誰!?」


 取り巻きの一人が慌てて叫ぶと、他の二人にも動揺が走る。

 しかし、櫻坂だけは驚きもせず、ただ微笑を浮かべているだけだった。


「これはこれは、琴城寺さんじゃありませんか。どうしてあなたがこんなところに?」


 櫻坂の言葉に深いため息を吐くと、玲奈は怠そうに答える。


「お前こそ、こんなとこで何やってんの。まぁ、聞くまでもないけど」


 その視線がいおりを捉えると、玲奈の表情が陰る。

 そんな玲奈の様子を楽しそうに眺めながら、櫻坂は事前に打ち合わせをしていたように、なんの悪びれもなくいおりの手を取った。


「見てのとおり、みんなで楽しくお喋りしていただけですよ。そうでしょう?音守さん」


 櫻坂の言葉にいおりが弱々しく頷く。


「馬鹿言ってんな。誰がどう見たってそんなわけないでしょ」


 だが、それでも櫻坂が余裕を崩すことはない。

 取り巻き三人も最初こそ慌ててはいたものの、櫻坂の堂々とした態度に余裕を取り戻している。


 ここでいくら追及したところで意味はない。

 音守自身が絶対に認めないからだ。

 だからこそ玲奈は出ていこうとしなかった。

 それが意味のないことだとわかっていたから。


 だから、その前に手を打つ。今の恵太にはそれができる。


 玲奈を手で制して、櫻坂と向き合う。

 突然前に出てきた恵太を見て櫻坂は少しだけ目を細めたが、それだけだった。


「明日葉恵太。音守と琴城寺ののクラスメイトだ」


「明日葉さん、ですか」


 他人行儀な笑顔を浮かべながら、思い当たる節はないというように首をかしげる櫻坂。


 当然と言えば当然だ。

 恵太は目立つほうじゃない。

 表と裏だったら裏、光と影だったら影。

 ただの一般生徒だ。

 こんなことが無ければ、きっと一生関わり合いになることもなかった。

 光の当たる道を歩き続けてきた櫻坂にとっては路傍の石くらいの存在でしかないだろう。


 でも、そんな石ころにだって人を転ばせる力はある。

 未来を知っている石ころならば、絶対に転ける場所に転がっておくことだってできるのだ。


 人差し指を一本立てて、櫻坂の視線を集める。

 そして、そのまま上着のポケットを指して何度か叩いた。

 コツコツと固い音が鳴る。

 携帯を叩く音。

 当然、玲奈を含めた他の人間には恵太が何をしているのかはわからない。


 だが、櫻坂だけは違う。


「お前ならわかるだろ、櫻坂」


 意味深な言葉を口にする。


 櫻坂ならば絶対に気付くと恵太は確信していた。

 前回、隠れていたはずの恵太の存在に気付いていた櫻坂ならば、恵太の伝えようとしていることがわからないはずがない。


 少しだけ考えるような仕草をしてから、櫻坂は小さく頷いた。


「そう、ですか」


 それだけを言うと、ほっと息を吐く。

 すると櫻坂の代わりに取り巻きの一人が声を上げた。


「何言ってるのかわかんないけど、あたしたちは……」


「待って」


 それを止めたのは櫻坂だ。

 いおりの手を離して立ち上がると、取り巻きたちに優しく一言だけ口にする。


「行きましょう」


「え?ど、どうして?こいつら放っておいたら何言われるかわかんないよ?先生なんかにチクられでもしたら……」


 その声には答えず、櫻坂はそのまま歩いて行ってしまう。

 後ろ髪をひかれながらも、取り巻きたちは慌ててその後をついていった。

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