表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
38/56

第三十八話

 いつ、どうやって帰ったのかは覚えていない。


 ただ、気がついたときには自分の部屋のベッドの上で電気のついたままの天井をぼうっと眺めていた。

 時計を確認してみると、いつの間にか夜は明けており、登校しなければならない時間となっていた。


 とても学校へ行くような気分ではなかったが、日頃の習慣のせいか、ほぼ無意識のうちに着替えを済ませていた。

 朝食も満足に取らないまま、玄関の扉を開け、学校へと向かう。


 意識がはっきりしていなかった。

 

 うだるような熱さがあるわけでもないのに、真夏の炎天下に立たされているようにぼうっとした気分になる。

 視界がぼやけ、体も思うように動かない。

 道行く人が恵太の様子を心配して声をかけてくれたような気もしたが、自分がどう答えたのかわからなかった。


 通い慣れた通学路が果てしなく長く感じる。

 ともすれば永遠に着かないんじゃないかとさえ思えた。


 立ち止まり空を見上げる。


 止まっていると考えてしまう。


 あっという間に思考がそれ一色に染められていく。

 

 何百、何千と自分自身に問いかけた言葉――。


 いおりは、救われたのだろうか。


 本当にこの世界には自分の生きる意味は何もないと、そう思っていたのだろうか。


 少しの楽しさも、喜びも、悲しみも、怒りも、何も感じることはなかったんだろうか。


 いおりの瞳に映っていた世界には、本当に何もなかったのだろうか。


 考えたところでわかるわけもないのに、そんな疑問が次から次へと頭に浮かんでは消えていく。


 もうどうにもできないことのはずなのに、いおりが離れていく瞬間のあの涙が目に焼きついて離れてくれない。


 救われるといって、どうしてあの時、あの瞬間だけ、あんなに悲しそうな顔をしていたんだろう。

 

 それはいおりも意識していないほどの心の奥底で、ほんの少しでも生きていたいという想いがあったからじゃないのか。


 この世界に、自分がいてもいいんだって思えるような何かがあったからなんじゃないのか――。


 どこからか悲鳴のようなものがあがった。


 周りにいた人々が一斉に駆け出す中、反応の遅れた恵太だけがその場に取り残される。


 横断歩道の丁度真ん中。信号は青だった。


 瞬きをする度に急速に大きくなっていく車の影。

 でも、恵太の体は何かに縛りつけられたように一歩も動きはしなかった。

 まるでそれが運命だとでもいうように。


 そうして恵太は理解する。


 いおりは救われてなんかいなかったのだと。


 一瞬の衝撃と共に、恵太の意識は暗い闇の中へと落ちて行った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ