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第二十二話

 一時限目、二時限目と授業は淡々と進み、そして休み時間がやってくる。


 授業が終わるとすぐに恵太は教室を飛び出し、校舎裏へと向かった。

 前回遅刻した恵太が塀を乗り越えた場所とほぼ同じ箇所の茂みに身を隠す。

 前と同じ流れでいけば、いおりは校舎裏に来るはずだ。


 恵太には一つだけ気がかりなことがあった。

 それは、なぜいおりは人気のない校舎裏なんかにいたのかということ。

 前回なんとはなしに聞いた時はある程度仲良くなっていたにも関わらず教えてくれなかった。

 いおりにとって言いたくない何かがここにあるということなのかもしれない。

 だとすると、いおりの抱える問題の手がかりになる可能性が高い。


 木の陰からいおりが来るであろう方向をじっと伺っていた、その時だった。


 屈んでいた恵太の背中に突如として大きな衝撃が襲いかかる。


「ぐえっ」


「え?」


 たまらず上がった恵太の苦悶の声に困惑した声が重なる。

 その正体を確認しようと思って体を反らそうとすると、顔面を鞄のようなもので思いきり殴りつけられた。


「見んな変態」


 その鋭利な刃物のように冷たい声には聞き覚えがあった。


「その声、琴城寺か?」


 返事は帰ってこなかったが、すぐ後に聞こえた長く沈んだ溜息が当たりだと教えてくれた。


 恵太が今いる校舎裏は、薄暗くて木も生い茂っているため遅刻常習犯にとっては誰にも見つからずに敷地に入ることのできる絶好の穴場となっている。

 おそらく玲奈も塀を飛び越えてきて、そして丁度その真下に運悪く恵太がいたということだろう。


 とりあえず今はそんなことはどうでもいいとして、目先の問題をどうにかしなければならない。


「早くどいてくれ。滅茶苦茶痛いんだよ、背中が」


 だが、恵太の懇願を聞いても玲奈は一向にどいてくれる気配を見せなかった。

 むしろ、ローファーのかかとを背骨の痛い部分にピンポイントでぐりぐりと押し付けてくる。

 完全にわざとだ。

 無理やりどかそうと体を揺さぶってみるが、柔道で技を極められた時のようにまったく動くことができない。


「あの、琴城寺さん?どいてくださいって言ったの聞こえませんでした?」


「聞こえてる」


「じゃあ早くどいてください」


「嫌」


「なんでだよ」


 顔は見えないがどうやら怒っているらしい。

 理由はなんとなく想像がつくが、かなり理不尽だ。

 かといって上に載られている以上玲奈が優勢な事実は変わらない。


「よくわからないけど俺が悪かった。だからどいてくれ。これから大切な用があるんだ」


「あんたの用事なんてあたしには関係ない」


「お前に関係なくても俺にとっては滅茶苦茶大切な用事なんだよ」


 玲奈とそんな不毛なやり取りをしていると、遠くから足音が聞こえてきた。

 この時間にこの場所に来る人物の心当たりは一人しかいない。


「やばっ!」


「ちょっ!?」


 玲奈が足音に気を取られた一瞬の隙をついて体をごろんと一回転させると、足に重心を置いていた玲奈はバランスを崩してその場に倒れこむ。

 起き上がろうとする玲奈を今度は恵太が上から抑え付け、声を出される前に口を手で塞いだ。


 当然のように暴れる玲奈。

 さすがに不良という名は伊達じゃないのかその動きはまるで猛獣のように激しい。

 気を抜けば一瞬で逆転されそうな勢いだった。


 咄嗟にやってしまったこととはいえ激しい後悔の念が恵太に襲いかかる。

 木の陰という薄暗い場所で、女子を上から力づくで抑え付ける男子という危険な構図。

 端から見れば今の恵太は完全に変質者。

 こんなところをいおりに見られでもしたらもう何もかも終わりだ。

 それに、いおりがなぜここに来たのかわからなくなる。

 今は無理やりにでも静かにしていてもらうしかない。


「んーっ!んーっ!」


「頼むから少しの間だけ静かにしててくれ……!」


 そんな感じで玲奈を抑え込むのに必死になっていると、校舎の陰からいおりが姿を現した。

 ゆっくりと恵太と玲奈のいる場所に近づいてきて、大体五メートルほど前で立ち止まる。


 相変わらず唸り続けている玲奈の声が聞こえてしまわないかひやひやしたが、いおりが気付いている様子はなかった。

 それどころか、周りのことなんてまるで気にしていないかのように、どこかぼうっとした表情で前だけを見据えている。

 明らかに体調が悪そうで、今にも倒れてしまいそうだった。


 ふと前回保健室に連れて行ったとき、いおりが倒れたのは疲れが溜まっていたせいでもあると保険の先生が話していたことを思い出す。

 鞄をぶつけてしまった後すぐに保健室へ連れて行ったので気が付かなかったが、今のいおりの様子からして元々体調が悪かったのは間違いない。

 朝はそんな素振りはなかったが、顔に出していないだけだったのだろうか。


 そもそも校舎裏は普通の生徒ならばまず立ち寄るような場所じゃない。

 歩くための道は一応整地されているが、少しでも外れれば雑草が生い茂っていてとても手入れが行き届いているとは言い難い。

 昔は鶏やらウサギやらを飼っていたらしいが、今は小屋だけが残されているのみで、その小屋もあちこちに穴が開いてとても使えるような状態じゃなくなっている。

 少なくとも、いおりが一人で来るような場所ではないことに変わりはない。

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