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第二十話

「さぁ、そろそろ学校へ行く時間だ。準備しないと」


 聞きたいことは山ほどあった。


 恵太が死ぬ理由、いおりが死ぬ理由、いおりを救うことで恵太が助かる理由、どうして一日前に戻れるのか……考えればいくらでも出てくる。

 ありすぎて頭の中が整理できなくなるほどに。


 でも、あまねはきっと答えてくれないのだろう。


 だけど、どうしても聞かなきゃいけないことがあった。


 どうしても、知りたいことがあった。


「教えてくれ。どうして音守は死んだんだ。なんで死を……選ばなきゃならなかったんだ」


 いおりの持っていたナイフは、間違いなくいおり自身の胸に突き刺さっていた。

 それが意味することは、たった一つ。

 いおりは自分で自分の命を絶ったということ。


 それが、恵太には信じられなかった。

 信じたくなかったと言ったほうが正しいかもしれない。

 短い間とはいえ、いおりが恵太に見せてくれたあの笑顔も、言葉も、感情も、すべて嘘だったと言われたような気がしたから。

 また明日と言って手を振っていたいおりの姿を嘘だと思いたくなかった。


「さっきも言っただろう?ボクはキミの質問に答えられない」


「どうして!」


 思わず口調が強くなってしまう。

 だが、あまねはまるで癇癪を起こした子供を相手にするように、微動だにもせず淡々と答える。


「教えてしまったら、キミは音守いおりを救うことができなくなる。そうなれば、キミを助けられない。それはボクが最も恐れていることだから」


「なんで、そこまで……」


 あまねのことを恵太は何一つ知らない。

 小さい頃に会った記憶もなければ、知り合いにそんな名前の女の子はいない。

 だから、味方になってくれるだとか、助けたいだなんて言われても、どうしてそんなことをしてくれるのかわからない。


 思っていたことが顔に出ていたのか、あまねは息を一つ吐くと、何かを思い出すように天井を見上げる。


「ボクは、キミに助けてもらったことがあるんだよ。一生をかけても返せないほどのでっかい恩を、キミからもらったんだ。だから、キミを死なせたくない」


 知らない誰かの話をされているんじゃないかと思うほど身に覚えのない話。

 だが、あまねは本気で言っている。

 本気で恵太を助けようとしている。

 それは間違いなかった。


「キミはどうしたい?」


「え?」


「死を経験するっていうのは、生半可な事じゃない。例え時間が巻き戻ったとしても、キミの心に大きな傷を残す。それを何度も繰り返したら、キミはキミでなくなってしまうかもしれない」


 あまねの言葉に恵太の心臓のあたりが痛いほど強く疼いた。

 思い出したように身体が小刻みに震え出す。

 さっきよりも落ち着いてはいるが、眩暈も動悸も完全には収まっていない。

 はっきりいってもう二度と経験したくなかった。

 あれをもう一度経験するくらいなら、今すぐに死んだほうがマシだとすら思える。

 それほどまでの恐怖を、たった一度の死の経験は恵太の脳に深く刻み込んでいた。


 そんな恵太に、あまねは優しく諭すように言葉を紡ぐ。


「でもそれはボクの望むところじゃない。だから、キミがどうしても無理だって言うなら、ここで諦めてもいいよ」


 諦めるということは、死を受け入れるということだろう。

 あんな経験をするくらいなら、いっそのことそっちのほうが楽なのかもしれない。


 でも……。


「そうしたら……俺がそれを受け入れたら、音守はどうなる?」


「キミが見てきたとおりさ」


 恵太が何もしなければ、いおりは帰り道で事故に遭う。

 それがなかったとしても、その日の夜に死を選んでしまう。

 それが、恵太が見てきた事実。現実だった。


「さぁ、どうする?」


「俺は……」


 いおりを救うことが、なぜ恵太が助かることに繋がるのかはわからない。

 でも、それしか助かる方法がないというのならやらないなんて選択肢はない。

 迷う必要は何もない。


「俺はまだ人生の中で何もしてない。彼女だってほしいし、夢……と呼べるようなものはまだないけど、でも、きっと楽しいことが待ってる。こんなところで死んでなんていられない」


 恵太の精一杯の強がりを聞いたあまねは、どこか優しげな表情で笑っていた。


「なんだよ。何かおかしいこと言ったか?」


「いや、そんなことはないよ。でも、本音を隠して言い訳をあれこれ考えてるのが実にキミらしいと思ってね」


「言い訳とか言うな」


 自分でもわかっている。

 ただ恵太はいおりを死なせたくないだけだ。

 それがわかっているから、あまねは笑ったのだろう。


 ベッドから起き上がり、あまねの持っていた制服を受け取る。

 やると決めた以上、一秒たりとも無駄にはできない。


 そんな恵太を微笑を浮かべながら見ていたあまねは、恵太が瞬きをした瞬間、目の前からいなくなっていた。

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