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第十五話

「どうして笑うの?」


「そりゃ笑うだろ。こんな気の使われ方したら普通ドン引きだぞ」


「でも、命を助けてもらったお礼なんてどうすればいいのかわからない」


 そう問われて、恵太は何も言えなくなってしまう。

 自分がいおりの立場だったならと考えてはみるが、すぐにはっきりとした答えを出すことはできなかった。


 考えるまでもなく、いおりなりに精一杯に考えて出した答えがこの目の前に並べられた特上寿司なのだろう。


 だから、恵太も精一杯考えようと思った。

 どうすれば、この気の使い方を間違っている心優しい同級生の気持ちを少しでも和らげることができるのかを。


 そして、一つだけ思いついたことを、恵太は口にした。


「じゃあ、気を使わないでくれよ」


「え?」


「だって友達なんだろ?だったらさ、礼とか恩とか、そういう面倒くさいのはやめてくれ。お前が恩に着たまま俺と友達やるっていうなら、今すぐやめてやる。そんなのは友達でも何でもない、ただの他人なんだから」


「……」


 恵太の提案はいおりにとって何の不利益もない。だから納得出来ない。

 この義理堅い少女は、きっと命を救ってもらったという代償を支払わなければ気が済まないのだろう。

 そんな気がした。


 だからこそ、それがどれだけいおりにとって不利益になるのかを付け足す。


「言っておくけど、俺と友達やるってどれだけ大変なことなのかわかってるのか?」


 案の定わからないという風に首を傾げる。

 恵太は息を大きく吸い込んで、早口で言葉を並びたてた。


「おはようからおやすみまでメールはひっきりなし。行きも帰りも一緒に登下校させられて、昼飯は一緒に食べてもらう。愚痴も聞いてもらう。相談にだって乗ってもらう。アホみたいな話を延々と聞いてもらう。困ったときには助けてもらう。そんな生活を卒業するまで続けさせられるんだ。どうだ。滅茶苦茶大変だろう」


 自分で言っておいて気が遠くなるようだった。

 でも世間一般で言う友達同士というものは今言ったような行為をなんとはなしに、当たり前のようにしているというのだから言葉が出ない。


 もちろん強要するつもりなんてこれっぽっちもなかった。

 なんなら今言ったこと何一つするつもりはないし、してもらうつもりもない。


 基本一人でいることが楽だと思っている恵太にとって、その友達同士の行為というものは何とも耐え難い面倒臭さがあるからだ。

 今の言葉は、いおりを納得させるためだけに言った単なる思い付きに過ぎない。


 そんな恵太の意図にいおりも気づいたようだった。

 その証拠に、何かを諦めるかのように小さく息を吐いてから、ポツリと言う。


「変な人」


「面と向かって変な人とか言うんじゃないよ。傷つくんだぞ」


「私も、自分のことは変だと思ってるけど、あなたは飛び抜けてる」


「そんなのは俺が一番わかってるんだ。わざわざ言葉にするな」


 いおりを見ると、うっすらと微笑んでいた。

 その顔は、事故から助けた時に見せた表情と全く同じでつい見入ってしまう。

 急に気恥ずかしくなって、恵太はいおりから視線を外すと、目の前の寿司を無造作に掴んで口に運んだ。


 生まれて初めて食べた特上寿司の味は、よくわからなかった。

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