第十三話
両腕が終わり、膝の手当てに移る。
ずっと黙ったまま手当てを受け続けるのもなんだ気まずかったので、何とはなしに話題を振ってみることにした。
「そういえば、二時間目の休み時間、なんであんなところにいたんだ?」
その言葉に一瞬だけいおりの手が止まった。
だがすぐに何事もなかったように再開される。
二時間目の休み時間。
誰も立ち寄らない校舎裏にいおりは一人でいた。
まるで何かを待っていたかのように。
それがなんとなく引っかかっていた。
隠そうとするのなら無理に聞き出そうとは思っていなかった。
今のいおりの反応からして、それがあまり人に聞かれたくない話であることはなんとなくわかる。
いおりから返事はなかなか返ってこなかった。
黙々と目の前の作業をこなしている。
気分を悪くさせてしまったかもしれないと思って謝ろうとすると、ぽつりといおりの口から言葉が零れた。
「あなたには関係ないことだから」
踏み込んでくるなという意思がその小さな声に込められていた。
なんとなくそんな返しがくるような気はしていたので、そこまで驚きはしない。
でも、こうして話してみて少しだけでも仲良くなれたんじゃないかと思っていたからか、なんだか寂しい気持ちになるのを抑えることはできなかった。
「そうだよな。変なこと聞いてごめん」
「別にいい」
首を振ってから、いおりは言葉を続けた。
「私も聞きたいことがある」
「なんだ?」
「どうして助けてくれたの?」
何かを推し量るような目でいおりは恵太を見つめる。
どうしてかこの目で見られると心の内を読まれているような気がして妙にそわそわした気分になる。
だが、夢で見たことが気になって追いかけた結果、事故に遭遇したなんてことを説明したところで理解してくれるとは思えない。
あれが予知夢だったとしても、それを信じて行動に移している時点で相当おかしい奴であることは間違いないのだ。
わざわざそんな人間だと思われる必要もないし、思われたくもない。
だから曖昧な言葉で濁した。
「人を助けるのに理由なんていらないだろ」
「そう」
いおりは何を言うこともなく視線を外して手当てを再開しようとするが、手は動かない。
「どうした?」
「本当に、それだけ?」
そう問われて心臓が一際大きく跳ねた。
嘘を言っているのがばれたのかと思ったから。
でも恵太の言葉に嘘だとわかるような言葉はなかったはずだ。
誰でも思いつくような、極々普通の理由。別におかしなところなんて何もない。
だからこそ、いおりがなんでその言葉に疑いを持ったのか分からなかった。
元々何を考えているのかわからない表情をしているのでなおさらに。
どう答えるべきか迷っていると、いおりの方が先に口を開く。
が、中々言葉が出てこない。
何かを言おうとして、すぐに閉じてしまう。
どう言葉にしていいか迷っているようにも見えた。
でもそれも少しのことで、か細い声が聞こえてくる。
「やっぱり、なんでもない」
いおりのその言葉を期に、二人の間に沈黙が流れた。
なんだかはぐらかされたような気もするが、不思議と嫌な感じはしなかった。
―――――
腕と足だけだったのでそんなに時間はかからずに手当ては終了した。
「ありがとう」
「元々は私のせいだから」
「あんまり気にするなよ。明日になれば治ってるくらいの傷なんだから」
そうは言うものの、気にするなというのも無理な相談だろう。
きっとこれ以上ここにいても気に病ませてしまうだけだ。
時計の太い針も七を指し示しており、帰るには丁度いい時間だった。
「それじゃあこれで」
「待って」
立ち上がろうとした恵太をいおりが呼び止めた。
「もう少し待っていてほしい」
「あ、ああ」
すると、いおりはぱたぱたと自分の部屋へ向かっていった。
恵太が再びソファーに腰を下ろしてから数分後、戻ってきたいおりはさっきと同じように恵太の隣に腰を下ろす。
そして、机の上に広げていた救急箱の中身を綺麗に整頓し始めた。




