第十二話
「いやいやいや、何言ってんだお前」
「服を脱がないと手当てができない」
「例えそうだとしても自分でやるからいいよ。お前には抵抗とか恥じらいとかそういうものはないのか」
恵太の言葉に何を言ってるんだこいつと言いた気な訝し気な顔をされる。
あまりにも堂々としたその態度に、自分が間違っているんじゃないかという変な錯覚に陥りそうになった。
だが、恵太が知っている怪我の手当てといえば膝を出してガーゼでポンポン叩くくらいのもので、裸になって全身くまなく手当てされるようなものではない。
なんというか、色々と大味すぎる。
少なくとも知り合ったばかりの女の子にやってもらうことではないのだけは確かだ。
「例えばだ。お前が怪我をしているとして、俺が手当てするために脱げって言われたら素直に脱ぐか?」
「脱ぐ」
「だろ?俺もそれと同……ちょっと待って今なんて言ったの?」
「脱ぐ」
「う、嘘だろ……?」
開いた口が塞がらないとはこのことを言うのだと、恵太は実感した。
「脱がないと手当てができないのなら脱ぐしかない」
きっぱりと言い切るいおり。
その目には一片の曇りもない。
どうやら本気で言っているらしい。
この少女には恥じらいというものが欠落している。
もしくは最初から持っていないのか。
男である恵太を一人住まいの家に躊躇なくあがらせてしまっているし、このまま放っておくととんでもない犯罪に巻き込まれる気がしてならない。
ため息を一つ吐いて、恵太はいおりを見据えた。
「いいか音守。普通よく知りもしない人に脱げって言われて脱ぐ奴はいないんだ。多分世界広しといえどお前くらいのものだろうよ。それにお前は女の子なんだ。男は狼、何をされるかわかったもんじゃない。気を付けないと駄目だ」
「あなたは私に何かする気なの?」
「いや、そんな気はないけど……」
「じゃあ問題ない」
「問題ないわけないじゃない?話聞いてた?」
よくわからないと言いたげに首を傾げられる。
首を傾げたいのはこっちなのに。
おかしい。正しいことを言っているはずなのに、これほどまでに堂々とされると自分が本当に正しいのか不安で仕方なくなってくる。
この目の前の少女は恵太とは違う世界の理の中を生きているとでもいうのだろうか。
考えすぎると恵太の中での常識が崩れてしまいそうなので、「とにかく」と言って話を戻した。
「俺は脱がないぞ。それが普通なんだ」
「でも」
それでもいおりは食い下がろうとする。
そうまでして恵太の裸体が見たいのかと少し身の危険を感じてしまったが、当然そんな理由ではなかった。
「助けてもらったから。何かさせてほしい」
そう言ったいおりは、何かに気付いたように恵太を見た。そして、
「ごめんなさい」
と謝ってきた。
「どうした、突然」
「あなたの気持ちがわかったような気がしたから」
何か罪滅ぼしをしたいのに、相手からは何も要求されない。
それどころか何もしなくていいと言われる。
そんなもどかしい気持ちを今、いおりは感じている。
少し違うのかもしれないが、それは今日、恵太がいおりにけがをさせてしまった事に対して贖罪しようとした時と同じ気持ちなのだと思う。
だから謝ったのだろう。
であれば、ここで何もしなくていいと言うのは間違っている。
「じゃあ、今日俺が音守に怪我をさせたのとおあいこってことで」
恵太にとってはとてもいい案のように思えた。
恵太の中ではまだいおりに対する罪悪感が消えていないし、これでお互い様になれるのなら安いものだ。
だが、いおりは納得してくれなかった。
いおりは恵太が思った以上に義理堅い性格をしているらしい。
手当てさせなければこのまま何時間でも過ぎていってしまいそうだ。
「わかった。じゃあ腕とか足とか、できるところだけでいいから手当てしてくれないか。当然脱ぐのは無しで」
恵太のそんな言葉に、いおりはどこかほっとしたように頷いて、救急箱に手を伸ばした。
つたない手つきでガーゼに傷薬をつけると、差し出された恵太の腕の傷に恐る恐る近づける。
たどたどしい手つきなので、おそらく人の傷の手当などしたことがないのだろう。
でも、時折恵太の様子を見ながら慎重に手を動かしているので、かなり気を使ってくれているのは伝わってくる。
そんな一生懸命な姿がなんだか微笑ましくて、恵太は傷が沁みても平気なふりをしていた。




