第十一話
平和な路地で起きた事故に周囲は当然大騒ぎになった。
事故を目の当たりにした恵太たちはその場で警察から事情を聞かれることになったが、二人とも大きな怪我をしていなかったことと、時間が遅くなってしまうということもあり、後日詳しい話を聞くということで早々に開放してもらえた。
ちなみにトラックの運転手も軽いけがをしただけで済んだらしい。
「入って」
「あ、ああ」
いおりは玄関の扉を開けると、先に入るよう促してくる。
クラスメイトの、ましてや女の子の家に招かれたことなどないので、どこかそわそわした気持ちで玄関をくぐった。
恵太が今いる場所は、いおりの住んでいるマンション。
なぜいおりの家に来ることになったのかといえば、いおりが自ら恵太の傷の手当てをすると申し出たからだ。
警察の人に事故直後の状況を聞かれた後、恵太は病院へ行くことを勧められたが、酷く疲れていたのと、ほとんどが打撲とかすり傷程度で済んだので適当にごまかした。
病院へ行って何時間も帰れないくらいならさっさと家でゆっくりしたい気分だった。
家に帰れば傷薬なんかは一通り揃っているし、なんなら何もしなくても勝手に治る程度の傷でしかない。
いおりに関しても怪我は一切なく、トラックに引かれそうになったショックなども特に見受けられなかったので、とりあえず途中まで送っていこうとしたら家に上がるように言われた、というのがこれまでの経緯。
玄関に足を踏み入れて、靴が一つも置いていないのがまず目についた。
「家族の人は帰ってきてないのか?」
「私一人しか住んでいないから」
「そうなのか」
だとすれば靴がないのも頷けるが、いおりのマンションはどう見ても家族用なので一人というのはどこか不自然にも感じられる。
「救急箱を持ってくるから、好きにしていて」
そう言い残すと、いおりはさっさと右側の部屋へと入っていってしまった。
「好きにしてろって言われてもな……」
許可があるとはいえ、人様の家を好き放題歩き回るのはかなり抵抗がある。
それに、さっきいおりは一人で住んでいると言っていた。
ということは、全ての部屋がいおりの部屋といっても差し支えないのではなかろうか。
少なくともいおりが今入っていった部屋が私室であることは予想できるが、どこの部屋がパンドラの箱であるかなんて恵太にわかるわけもない。
かといってずっと玄関で立ち尽くしているのも居心地が悪いので、とりあえず入っても問題なさそうな正面の扉を開けて中に入る。
恵太が入った部屋はリビングだった。
子供が走り回れそうなほどの広さがあるものの、家具がほとんど置かれていないためかひどく閑散とした印象を受ける。
左側にある備え付けのキッチンはおそらく最初からついているものだろうし、その他にあるものといえば、部屋の真ん中に申し訳程度に置かれている机とソファくらい。
本棚もあるにはあるが、本が一冊も入っていないのでただの置物同然になっている。
まるで引っ越してきたばかりの急ごしらえで適当な家具を配置したようにしか見えない部屋だ。
そのせいか生活感がまるで感じられない。
もしかすると私室しか使っていないのかもしれない。
だとすれば、他にいくつかある部屋もリビングと同じなのだろう。
好きにしていろと言っていた理由がなんだか分かったような気がした。
とりあえずソファに座ってぼうっとしていると、少ししてからいおりが救急箱を持って来た。
恵太の隣に座ると、机の上に救急箱を置いて中から傷薬と手当て用のガーゼを取り出す。
「大した怪我じゃないのに悪いな」
そう言ってガーゼを受け取ろうとするが、いおりは渡そうとしない。
「どこを怪我したの?」
「肩とか腕とか、上半身が主だな。あと膝も擦りむいてると思う」
服を脱いで確認したわけではないが、未だにじんじんと痛みがあるのは大体今言ったあたりだ。
背中は特に痛みはないが、もしかすると打撲くらいはしているかもしれない。
「そう。じゃあ脱いで」
「え?」
「脱いで」
一瞬いおりが何を言ったのか理解できなかったが、さすがに二回も同じことを言われれば聞き違いでは済ませられない。




