殺害計画
ジョーの考えは、こうだった。
ママはきっと、パパが死んだ後すぐに、再婚の話を俺たちに持ち出す。そうなったら、二人で必死に抵抗するんだ。嫌だ、再婚なんてやめて、と。
それでもママが聞き入れてくれないようなら、仕方ない。本当の裏切り者として、殺すしかない。
この提案に、ウィリーは素直に頷いた。心は兄と一つだった。
悲しみは涙と共に、流されてしまった。今彼らの胸にあるのは、煮えたぎる怒りと、不届きものを成敗しなければという正義感だけだった。
それから月日は、表面上は何事もなく過ぎていった。
ただ兄弟は、母を前に平静を装うのに、内心必死だったし、アンナの方でも、何か腹に一物抱えているみたいだった。
そうしてついに、父にあの世からのお迎えがきた。
みんなで、冷たくなった彼を囲んで、おいおい泣いた。アンナもだ。
質素な葬儀を済ませてから、一週間。
とうとう兄弟が恐れていたことが、起こった。
「あなたたちに、新しいパパが出来るわよ」
母が、これはもう決定事項だ、というように、そう断言したのだ。
「お葬式に来てくれた人たちの中で、とても親切な男性がいてね。その人と再婚しようと思うの。もちろんパパのことを忘れたわけじゃないわよ? ただ悲しんでばかりいるのも、良くないと思って……」
「嘘だ!」
「え?」
「僕たち知ってるんだよ。ママはお葬式よりずっと前から、その男の人と会ってたでしょ。ちゃんとこの目で見たんだから!」
この発言に、母は眼球がこぼれ落ちそうなほど目を見張った。
「ママは病気のパパを置き去りにして、恋人を作ってたんでしょ。それで、パパが死んだら、恋人と結婚するつもりだった」
ジョーが責めるように言う。
「ねえ、ママ。再婚しないでよ。僕たち、知らない人をパパと呼ぶなんて、耐えられないよ」
「そうだよ! 天国に行ったパパの気持ち考えてよ! ママは自分のことが恥ずかしくないの?」
彼らの悲痛な訴えに、母の唇がブルブルと震えた。震えは唇から肩へ、肩から身体全体へと伝播していく。
自分たちの思いが届いたのか。ママは心を改めたのか。
ジョーとウィリーは、瞬きも忘れて母を見つめた。
しかし、母の口から出た言葉は、彼らが期待していたものとは違った。
「いいえ。再婚はやめないわ」
「嫌だ! そんなら僕は、家出する!」
「俺もだ!」
「ダメ! あなたたちもついてくるのよ! 絶対に!」
そう言って母は立ち上がり、物置にしているスペースへと足を向けた。
「どうしても嫌だと言うなら、縛ってでも連れていくからね!」
彼女は宣言通り、息子たちを縄で縛り付けようというのだ。
その剣幕に二人は恐れ慄き、同時に燻っていた殺意を、着実なものへと変化させていった。
今や母は、兄弟にとって敵でしかない。二人の間に躊躇いはなかった。
自分たちに背を向けて縄を探っている母に、ジョーが飛びついた。
「ウィリー、早く!」
「なっ、何するの! やめなさい!」
母が、ジョーを振り払おうともがく。息子たちが何をしようとしているのか理解できたわけではない。けれど、危険が迫っていることを本能で感じ取った彼女は、拘束から逃れようとした。
ウィリーは、早くしなきゃ! と大急ぎでキッチンへ向かった。
そして、包丁を素早く手に取り、母へ突進した。
確かな手応えがあった。
包丁は、母の腹に深く刺さったのだ。
声にならない声を出して、母は床に倒れ込んだ。
体全体を使って、全力で刺されたのだ。助かる見込みはない。
「やった……! やったな、ウィリー! 偉いぞ!」
ジョーが優秀な弟の頭を撫でる。兄弟は、足元に伏している母には目もくれず、勝利の喜びを分かち合った。
「これから俺たちは、二人で生きていこう。大人なんか頼らないで、兄弟だけで」
「うん!」
そう言って彼らは、家を出ていった。
残されたアンナは、消えゆく命の灯火を刻一刻と感じながら、何でこんなことになってしまったんだろうと悔やんでいた。
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