表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/6

父の余命宣告

 「持って半年でしょう」

 5年ぶりに目にした医者は、無慈悲に言い放った。


 ***


 「ごめんな……パパは、天国に行くことになったんだ」

 「そんなっ……パパ! 嫌だよ、そんなの! まだ僕たちのそばにいてよ! お別れなんて受け入れられない!」

 「っ……! 何でパパが、病気にならなくちゃいけないんだよぉ……。なんも悪いことしてないのに……」


 あばら屋で、さめざめと泣く父と二人の幼い息子。

 母は現在、働きに出ている。どんな不幸がのしかかっていても、働かなければ生活は立ち行かない。

 それほどまでに、この一家は貧しかった。


 いや、一家だけではない。この国は、貧富の差が激しく、一部の裕福な者は栄華を極めていたが、そうでない人々は爪に火を灯すような、極貧生活を余儀なくされていた。


 父の病気の発見が遅れて、ついに余命半年というところまできてしまったのも、ひとえに医者に診てもらう金がなかったからだ。

 彼は、労働中に血を吐いてぶっ倒れてようやく、残り少ない金で、医者に診断してもらう決心をしたのだった。


 「俺は……死ぬこと自体は、怖くない。こんな世界に未練なんて、これっぽっちもないんだ。気掛かりなのは、俺が死んだ後のお前たちの生活だよ。ママだけじゃ、二人の子供を食わせていけないだろう。そうなった場合——ゲホッ、ゴホッ!」

 「パパ! どうしよう血が……」

 「平気だよ。こんなの。心の痛みに比べたら……二人とも。お父さんはちょっとの間休むから、お外に行っといで」


 父は、まだ咳き込みながら、固いベッドに横たわった。

 子供たちは、言いつけ通り外に出た。

 家の中は相当狭いので、部屋らしい部屋はあそこしかないのだ。

 一人になりたい場合、家族に外出してもらうしかない。

 大した意味を成していない寝床で、病人は憂う。


 斜向かいに住んでたブラウン未亡人は、この前警察に連れて行かれてしまった——盗みをしくじったからだ!

 警察のやつ、奥さんの「ひもじくてたまらないんです。家族が生きていくためには、こうするしかなかったんです」という泣き言に、まったく耳を貸さなかった! 夫を亡くし、まだ小さい子供を抱えた母親の嘆きを、理解できないらしい! あいつらは、腐った金持ち政治家の庇護下にいるからな。哀れな庶民の気持ちなんて、どうでも良いんだ! 自分たちさえ上等な生活が出来てりゃあ! 鬼のような連中だ!


 「ゲホッ、ゴハッ」

 いかん。興奮のせいで、咳がぶり返してきた。


 結局ブラウンさんは、お縄にかかってしまった。幼子と引き離されて、独房にぶち込まれた。もちろん子どもたちは、保護なんてされなかった! 母を奪われて、八方塞がりとなった子どもたちは、当然のように餓死した。


 そういうことなんだ。この国で貧乏人が生きていくには、犯罪に走るしかない。それをしなきゃ、待ち受けるのは死だけ。

 ああ、俺が倒れた後の妻と子どもたちよ。お願いだ、何が何でも生きてくれ。叶うことなら、善良に生きてほしかったが、こうなった以上、もうしょうがない。


 どうかブラウンさんのように、しくじらないでくれ。

 情けない父を許してくれ。ジョー、ウィリー。そして……美しき我が妻アンナ。


 どんなに苦しくとも、家族の絆は大切にしておくれ。そうすれば、いつかきっと幸せになれる。

評価・感想・いいね・ブックマークなどしてくださると、嬉しいです!まめに更新していくので、よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ