父の余命宣告
「持って半年でしょう」
5年ぶりに目にした医者は、無慈悲に言い放った。
***
「ごめんな……パパは、天国に行くことになったんだ」
「そんなっ……パパ! 嫌だよ、そんなの! まだ僕たちのそばにいてよ! お別れなんて受け入れられない!」
「っ……! 何でパパが、病気にならなくちゃいけないんだよぉ……。なんも悪いことしてないのに……」
あばら屋で、さめざめと泣く父と二人の幼い息子。
母は現在、働きに出ている。どんな不幸がのしかかっていても、働かなければ生活は立ち行かない。
それほどまでに、この一家は貧しかった。
いや、一家だけではない。この国は、貧富の差が激しく、一部の裕福な者は栄華を極めていたが、そうでない人々は爪に火を灯すような、極貧生活を余儀なくされていた。
父の病気の発見が遅れて、ついに余命半年というところまできてしまったのも、ひとえに医者に診てもらう金がなかったからだ。
彼は、労働中に血を吐いてぶっ倒れてようやく、残り少ない金で、医者に診断してもらう決心をしたのだった。
「俺は……死ぬこと自体は、怖くない。こんな世界に未練なんて、これっぽっちもないんだ。気掛かりなのは、俺が死んだ後のお前たちの生活だよ。ママだけじゃ、二人の子供を食わせていけないだろう。そうなった場合——ゲホッ、ゴホッ!」
「パパ! どうしよう血が……」
「平気だよ。こんなの。心の痛みに比べたら……二人とも。お父さんはちょっとの間休むから、お外に行っといで」
父は、まだ咳き込みながら、固いベッドに横たわった。
子供たちは、言いつけ通り外に出た。
家の中は相当狭いので、部屋らしい部屋はあそこしかないのだ。
一人になりたい場合、家族に外出してもらうしかない。
大した意味を成していない寝床で、病人は憂う。
斜向かいに住んでたブラウン未亡人は、この前警察に連れて行かれてしまった——盗みをしくじったからだ!
警察のやつ、奥さんの「ひもじくてたまらないんです。家族が生きていくためには、こうするしかなかったんです」という泣き言に、まったく耳を貸さなかった! 夫を亡くし、まだ小さい子供を抱えた母親の嘆きを、理解できないらしい! あいつらは、腐った金持ち政治家の庇護下にいるからな。哀れな庶民の気持ちなんて、どうでも良いんだ! 自分たちさえ上等な生活が出来てりゃあ! 鬼のような連中だ!
「ゲホッ、ゴハッ」
いかん。興奮のせいで、咳がぶり返してきた。
結局ブラウンさんは、お縄にかかってしまった。幼子と引き離されて、独房にぶち込まれた。もちろん子どもたちは、保護なんてされなかった! 母を奪われて、八方塞がりとなった子どもたちは、当然のように餓死した。
そういうことなんだ。この国で貧乏人が生きていくには、犯罪に走るしかない。それをしなきゃ、待ち受けるのは死だけ。
ああ、俺が倒れた後の妻と子どもたちよ。お願いだ、何が何でも生きてくれ。叶うことなら、善良に生きてほしかったが、こうなった以上、もうしょうがない。
どうかブラウンさんのように、しくじらないでくれ。
情けない父を許してくれ。ジョー、ウィリー。そして……美しき我が妻アンナ。
どんなに苦しくとも、家族の絆は大切にしておくれ。そうすれば、いつかきっと幸せになれる。
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