ひまわりの迷路
「若!若!」
「な、なんだ弁慶!?どうしたのだ!?」
「ささ、こちらでございます!」
「え?おい…」
弁慶は、若の背を押し、裏庭へと連れ出した。
「去年若がいけなくて残念だったとおっしゃっていたので、今年は裏庭に種を蒔いて、ひまわり迷路を作ってみました!!」
「え?迷路?」
「ささ、若!是非お楽しみください!」
目の前には、高さ2mはあろうかという大きなひまわりの畑が広がっていた。
そのひまわり畑には、扉が一つ設置され、その扉の横には、弁慶の字で、『入口』と書かれた札が掛けられていた。
弁慶は、扉を開き、その前に若を立たせる。
「はい!いってらっしゃい!」
弁慶に背中を押されて、ひまわり迷路に放り込まれる若。
「べ、弁慶!?」
「出口でお待ちしております!お楽しみ下さ〜い!」
楽しそうな弁慶の声が遠ざかっていく。
振り返ると入り口の扉に鍵がかけられてとじ閉められていた。
…出口を探すしか方法はないのだな…
「よし!すぐに出てやるぞー!」
気合いを入れる若だった。
ぴよぴよ ぴよぴよ ぴよぴよぴよ
一時間経過・・・
「まだ出てこないなあ、若。このままじゃ景品のジュースがあたたまってしまう。冷蔵庫に入れてこよう。」
出口で若が出て来るのを待っていた弁慶は、台所へと向かった。
「それにしても暑いなあ。」
汗を拭きながら、景品にと用意したジュースを冷蔵庫に入れていく。
台所は、ひんやりして涼しい。
「ああ、涼しいなあ。ちょっとだけ。」
冷蔵庫から麦茶を出すと、コップに注ぎ、椅子に座る。
「ああ、夏の麦茶は最高だなあ。」
麦茶を一気に飲み干すと、時計を見た。
「夕飯の支度でもしておこうかな。迷路を出てきたらすぐに夕飯が食べられるように。」
トントントントン
鼻歌を歌いながら食材を切っていく。
「若、ずいぶんと楽しんでおられるな。ひまわり迷路、作って正解だったな。」
弁慶は、とても嬉しそう。
日が暮れてきた。
台所の窓が、オレンジ色に染められていく。
「まだ出てこないなあ。どの辺で遊んでおられるのだろう?もしかして、もうすでに出口に辿り着き、拙者がいないからお部屋に戻られたとか?」
若の部屋に向かう。
「若?」
何度呼びかけても返事がない。
「若、開けますよ。」
一応断りを入れてから扉を開けた。
「いない。」
とりあえず、洗濯物を取り込むため、2階に上がる。
そのついで、2階の納戸から屋根裏に上がると、裏庭を見た。
ひまわり畑がとても綺麗だ。
「うんうん。」
我ながらよくできたものだ。と、自分に関心しつつ眺めていると、
「ん?んんん!?んんんんんーーーー!!??若ー!!!」
弁慶は、慌てて駆け出した!!
「ま、まずい!!全ての道が出口につながってなかったー!!」
バタバタ バタバタ
「きちんと設計図を描いたのに!!若!ただいま参ります!!!!」
若は裏庭で遭難していた!?
真夏の昼の悪夢!?
若!大丈夫か!?
出口が見つからなくて、暑い中、ひまわりを薙ぎ倒してでも出てくるということはしない!!
若!優しすぎます!!
そう!それが「我らがアイドル、若!」
そして、
そう!それが「うかつぼう弁慶」
若、どうかご無事で……