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(二)-12
直美の母親の素子も、もともとそう恵まれた幼少期を送ってきたわけではなかった。お店の常連客と恋仲になり、子どももできて幸せ一杯の家庭になるかと思いきや、そういうわけではなかった。直美がお腹にいるときから、夫の威の暴力に耐えながら自分の人生はどこで狂ってしまったんだろうと、たびたび思うこともあった。そうしてようやく子どもを大学にも行かせることができ、自分の人生にも余裕ができてきたとき、キャリアを築いてきたわけでもなく趣味に没頭することもなかった自分の人生が、すでに中年の域に達していると気づいたのであった。
そんな折り、娘が幸せそうに彼氏とお付き合いをするという報告を受けたのだ。素子は心の中に嫉妬心に近い嫌な感情を覚えずにはいられなかった。
(続く)