表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
BLACK PINK   作者: 白鐘 夏
2/3

勘違い

家路に着いて仮眠を済ませ、目覚ましが鳴ったのは夜の10:00だった。


冒険者だけの収入だけは心もとない無いので俺は地元の酒場、それもメンズが接客をする「メンズパブ」でアルバイトをしている。


仮にもお客様は男性のキャスト(キャスト)を楽しみにしてくれてる方もいるので、シャワーに入った後にスーツに着替えヘアーアイロンなどを駆使して髪をセットした。


こんな俺でも髪型と雰囲気で多少はイケメンには見えるらしい。


そんないつも通りのルーティンをこなし、街へ向かった。


10月ということもあり、徒歩10分とは言え体は冷える。


「おはようございます。」


夜職あるあるだが、出勤時は「おはようございます」が暗黙のルールになっている。


掃除をこなしチャーム(お菓子)の補充などを済まし、お客様が来るのを待った。


「ノア君、就活はどう?」


笑顔で話しかけてくるのは店長の(ルーク)さんだ。特に深い仲では無いがバイト先の先輩として尊敬はしている。


面倒な客が付いた時などさりげなく助けに入ってくれたり、一気飲みを強要する痛客の対応もとても上手だ。要は口がうまく要領の良い人だ。そして綺麗な青い長髪が似合うイケメンだ。


「ダメっすね…有名大卒じゃないんで面接すらこぎつけないです。」


「そうかー、じゃあうちに永久就職だな!」


「ははっ…ルークさんみたいに酒強くないんで売上上げれないんで…」


そんな会話や世間話をしつつ開店してから一時間、1:00頃に女性客が二人程来客された。


どうやらドレスっぽい姿からして夜の仕事帰りの方みたいだ。


ボックス席にご案内し、おしぼりを渡しオーダーを聞きそれを運ぶ簡単なお仕事です。ここまでは…


「ノアと申します。ご一緒しても宜しいでしょうか?」


「おっ、イケメン君じゃーん!おいでおいで!」


ピンク色をした巻き髪ロングの綺麗なお姉さんがノリよく宅に付かせてくれた。大体夜のお店って店内暗いから雰囲気イケメンに見えるんすよね…そして、この流れは良客の予感。


「…」


もう一人の女声は金髪ショートの可愛い系女子といった身なりだ。ここ最近の客層で言うとかなりレベルが高い。にしてもちょっと気難しいそうなオーラが漂っている。


注文された焼酎のジャスミン茶割を作りお二人に提供すると、お兄さんも飲んでとドリンクを頂いたのでありがたく頂戴する。


「ノア君、ごめん!ちょっと一人で付いてて!」


ルーク店長はケータイに着信があったみたいで一旦店から出ていった。恐らく非常階段かどっかで営業の電話でもしてるんだろう。


取り敢えず当たり障りの無い会話でそこそこ盛り上がりつつも、自分が昼職で冒険者をしてることを伝えるとここ最近起きてる事件についての話題になった。


「そういや、ここ最近ヤバいクスリ出回ってるらしいね!」


「私知らない。」


「エレナは反応悪いなぁ…ねぇ、ノア君、この子ね『光属性』の持ってんだよ!すごいよね!」


「ちょ、サリー余計なこと…」


ノリの良いお姉さんがサリーさん、んで金髪ショートの子がエレナさんという名前だ。余りバレたくないのも無理はない、光属性は王族など高貴な生まれといった遺伝子要素で決まることが多く、後天的に目覚めるケースは珍しい。


一瞬気が緩んだのかエレナの体から微妙に魔力が漏れるのを感じた。ん?何か感じたことある魔力だな…


「エレナさんの魔力…かなり強そうですね。先日たまたまお会いしたアイリスさんって方と似たy」


そこまで言いかけるとエレナから明らかに威圧的な魔力が放たれる。あ、これ余り詮索しちゃいけないやつだな…


「…」


「まぁ、せっかくですしカラオケでも歌います?」


「あ、サリーあれ歌いたい!玄米法師!」


唐突に会話を反らすのは不自然だが、謝っても余計空気悪くなりそうだったんで話題を変えることにした。


ん?エレベーターの方から魔力の反応が2つ…性別までは分からないがお客様かな


「いらっしゃいませー」


店内に訪れたのはインテリマフィア風な男とチャラそうな若い男だ。


アフターで男女ペアで来るお客様は結構多いが、男性客だけはそこそこ珍しい。


「もしよろしければ背もたれのあるボックス席はいかがですか?」


「おう、気がつくな兄ちゃん、じゃあそこ座らせて貰うわ。」


何となく嫌な予感がしたので、サリー達と少し離れのボックス席へ案内し、いつも通り注文を受ける。


それと同時にルーク店長にお客様ご来店の旨を伝えた。さすがにボックスを二席回せるだけのスキルは俺にはない。


「おー!可愛い姉ちゃんいるじゃねぇか!こっちで飲むかー!?」


インテリが早速絡み始めていた。それにあやかって舎弟っぽい男もニヤニヤした表情で何か喋っている。


「イケメンさんごめんね!うちらもう飲み放題終わるから帰るんだ!また今度!」


サリーは手慣れているのかさらっと爽快に返答する。第三者から聞いても回避方法としてはかなり最適解と言えるだろう。


まぁ、実際飲み放題時間は後一時間近くあるけど…


それに全く反応せず連れのエレナはジャスミン割のお酒をこくこくと飲んでいた。


「あーん、良いじゃねぇか!延長分払うからよー!」


あー、しつこいパターンだなこれ…ちょうど注文されたボトルと割り物をインテリ卓へ運び俺は愛想笑いをしつつお酒を作った。


「ごめんなさーい!明日親と会うんで…」


そこまでサリーが言うと痺れを切らしたのかインテリヤクザの男が段々と不機嫌になる。その証拠に口調が先程より荒々しい。


「ガキじゃねぇんだからそれくらい良いだろーが。いいからこっち来いや」


その言葉を聞いていたエレナは持っていたグラスの中身を飲み干すとテーブルに勢い良く置いた。


「私達楽しく飲んでるんでご遠慮下さい。」


一切光の無い瞳でエレナがインテリに言い返すと、その言葉で火が付いたようだ。


テーブルを蹴り倒しアイスペールやグラスをものの見事に床にぶち撒けてくれやがった。普通にむかつく、俺がモップ掛けすんだぞこれ。


割れた地面のグラスを踏みつつ彼女達のボックスへ行くと彼は口を開く。


「Bランク冒険者のレックス様の酒が飲めねぇのか?」


それを聞いたエレナは壮大に吹き出した。


「たかがBランクでイキってんの?マジウケるんだけど!」


先程までのちょいクールキャラと打って変わって、エレナは腹を抱えて笑っていた。これは俺の目から見ても一目瞭然だが、バトル勃発間違いなしと見た…


「表出ろやクソアマ」


その言葉にさすがのサリーも察したのか顔が少し青ざめているように見えた。まぁ、店内暗いからよく分からんけど


「上等だ、雑魚が」


先程俺を威圧していた勢いとは桁違いの魔力を飛ばすエレナ。そして表情を変えずに口から捻り出された言葉は見た目と似つかず荒々しかった。


しかし、それに動じず先導するインテリもかなりの実力者なのだろう。


連れの男はそれに少しビビっているのか微動だに動かない。


「これは止めるべきなのか…でもあのインテリの連れとサリーちゃん二人にするわけにはいかんしなぁ…とりあえず自警団に電話しよっと」


インテリの連れはどちらかというと何やら焦っている様子だった。怪しいとは思いつつエレナとインテリのドンパチが気になりすぎてそれどころでは無い。


「ごめんごめん!今戻った!ってボックスぐしゃぐしゃじゃねぇか!」


店長のルークさんがそれを見て絶叫するとどうやらターゲットがインテリの連れにいったらしい。


「てめぇがやったのかごらぁ…」


とりあえず店長を宥めて自警団を呼んだ旨を伝えたところでサリーちゃんが俺のシャツの袖を掴んだ。


「ノア君、このままじゃ死んじゃう!!」


エレナを心配してかサリーちゃんは血相を変えて俺に訴えてきた。そりゃ成人したての16歳の乙女がマフィアに絡まれたら心底心配だろう。


「あの男下手したら死ぬよ。あの娘手加減知らないから…」


んん…?どうやら逆に心配してるのはあのインテリの方らしい。手短に理由を聞くと以前にも絡んできた悪質な輩を半殺しにして自警団に拘束された過去があるらしい。それは確かにタダ毎じゃ済まされなさそうだ。


「店長ちょっと自分様子見に行ってきて良いですか?さすがに大事になるのもまずいんで…」


「ん?そうだな…ここは現役の冒険者君に頼むか。」


それを合図に俺は二人の魔力の流れを追って店内を飛び出した。どうやら二人は人気の無い廃ビルの路地裏に移動したみたいだ。


―――――


「小娘のくせにそこそこ強そうじゃねぇか。」


「そんな私みたいな小娘より弱い貴様は将来性0だな。」


ものの3分程度で路地裏に着くと今にも始まりそうな雰囲気だった。


「お客様…どうかここは穏便に」


この場を沈静化させる気の利いた文句も言えず、テンプレ文章で説得するも、ここまでヒートアップした二人は止まる様子は無かった。


「ガキはすっこんでろ!」


「邪魔するなパブ男」


ガキって年でも無いが、確かにしがないパブの従業員の立場上どうも言葉が出てこない。そんな自分が情けないと感じるも束の間、攻撃を仕掛けたのはエレナの方だった。


「ディバインショック」


深夜にも関わらず路地裏が昼間のように照らされたかと思うと光の波動のようなものがインテリに向けられた。レア属性の光魔法を見たのがこれが初めてだったので、こんな状況だが少し感動した。


「インプレグヴォ」


すかさずインテリは恐らく地属性魔法で作られた土壁を地面から出現させ攻撃を食い止める。しかし、攻撃に耐えきれず壁は崩れ去った。


回避する隙も与えずそれを直撃したインテリは壁に吹き飛ばされ、されに追い打ちをかけるように攻撃は続いている。


壁にめり込むように身動きが取れないインテリに容赦なく波動を打ち続けるエレナが一歩一歩と彼に近づく。


彼の目の前に歩み寄った彼女は魔法の発動を辞めると地面に這いつくばったインテリの髪を掴み口を開いた。


「まだやんのか?」


一連の流れに気を取られていたが彼女の魔力量は半端じゃなかった。夜の嬢にしておくのは勿体無い程の逸材だ。


普通に俺なんてたぶん足元にも及ばない強さだろう。


「ま、参った。悪かったな…嬢ちゃん…」


息を切らしながらインテリはそういうと首を少し下げて謝罪した。


「あ、あはは…自分出る幕無かったっすね…」


振り返ると彼女は俺の存在に気付き無表情で肩を叩いた。


「気分悪いし、飲み直しましょう。とりあえず少しスッキリしたけど何かまだ足りないからノア店戻ったらテキーラ一気ね」


「あー、まだ週の始まりなんでちょっとなぁ…」


「文句あるわけ?」


「いえ、ございません。お嬢様」


そんなやり取りをして店に戻ろうとするが、背後から嫌な気配する。反射的に振り返るとインテリが怪しい笑みを浮かびながらパケ袋を取り出していた。


暗くてうまく視認出来ないが黒とピンクの粉のようなものが入っている。


「素直に謝る訳ねぇだろ。クソアマが…」


そう言うと、インテリはその粉を口から摂取する。魔力に敏感な俺はそれが自分がよく知ってる感覚と似ていることに気付く。


「あいつ、闇属性の魔力纏ってるよ」


俺の言葉にエレナも気付いたようで再び光属性の魔力を全身から放出する。さすがにこの至近距離でその魔力量は弱輩ものの自分にはちときついものがある。


「もしかしてあれ、私達さっき話してた例のクスリじゃないの?」


「まさか…そんな偶然あるか?」


そんな事は兎も角、インテリの魔力が増幅すると共に明らかに人とは違う野性的な荒々しさを魔力から感じた。


「これ本気でガードしないとこっち死ぬかも…」


「私が付いてるから安心しなさい。」


まるで正義の魔法少女の主人公のに心強いセリフと共に彼女はその場から消えた。正確には視点を移した先ですでにインテリと殴り合いをしている。


「シャイニングブロー!!」


防御が空いてる隙を突いてインテリのみぞおちに重たそうな拳を打ち込む。それは一発に留まらず目に追えない程のスピードで一秒間に何発も打ち込まれた。


「浮いてる…」


止むことの無い拳を受け続けるインテリは声を上げる隙も無くただ空中に打ち出された。重い一撃が放たれ空中に投げ出されたインテリの背後に瞬時に回り込むと、彼女は最後の一撃を放った。


「アドウェルサ」


よく分からない光の魔法陣が現れたと思うと、そこから放たれる光線にインテリは巻き込まれそのまま地面のアスファルトに打ち付けられた。


魔法は止むことなくアスファルトみるみる内に粉砕されていく。


「ちょ!ストッーーープ!!!」


俺の声が届いたのか空中に浮かんでいるエレナがひょいと身軽にこちらへと着陸する。


「さすがにやりすぎたかしらね。」


「やりすぎもなにも死んだんじゃねぇのこれ…」


時間にしてものの二分くらいだったが、凄まじすぎて一瞬時が止まったかのように呆然としてしまった。


ハッと我に帰った俺は、一応インテリの脈と呼吸を確認したところまだ息はあるようだった。


「良かった…生きてる」


「殺すつもりで打ったんだけどね。一応最後のあれ光属性の上級魔法なんだけど」


上級魔法…魔法学校卒でもせいぜい使える魔法と言ったら中級が普通なのに、高ランクの冒険者のようなこの戦闘能力…やっぱり只者じゃない。てか殺そうとしたらダメだろ。


深く突っ込みたかったがこの流れで詮索してもあの光の拳で殴られそうだから辞めた。


「とりあえず自警団呼んだからもうすぐしたら来るから、状況説明とか頼むね…」


「えぇ!?マジで?絶対面倒臭いことなるじゃん…」


「まぁ、元はあのインテリが悪いけどさ…そうもいかないのよ」


「…分かっ」


そこまで言いかけると一筋の黒い稲光のようなものが彼女の右肩を貫いた。


「ぐっ…」


広範囲に攻撃を受けたわけでは無さそうだが、結構出血している。攻撃元を確認するとインテリが体をゆらゆらさせながらこちらを凝視していた。


「お前しつけぇぞ!とりあえず…これポーションだから飲んで」


冒険家の癖か、何かあった時のために胸ポケットに常備してる回復薬が役に立った。とは言え、素人目から見ても出血の量から見てもインテリと戦うには荷が重いだろう。


そんな事を思っているとインテリの方が低い唸り声が聞こえた。


インテリだったそれはゴキッゴキッと骨が砕かされるような音を立てながら四つん這いになると、人間のものとは程遠い獣の様な何か成り果ててしまった。


「も、モンスターになっちまったぞ!なんだよあれ」


こちらの等、容赦なく獣になったそれの口から火球から繰り出される。


「ちょ、ま…」



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ