きっかけ
人生の目標も定まらないまま、Fラン大学を卒業後、新卒カードを切って就職した会社がまさかのブラック企業で二年で退職してましった。
貯金を食いつぶしながら就活に励むが、中々うまくいかず、日銭を稼ぐために俺は冒険者となりギルドに登録した。
周りは魔法学校卒のエリートだらけで、劣等感を感じつつも生きるために必死に働いた。
「こちら報酬の7000YENになります。一週間以内に指定の口座に振込となります。」
ギルドの受付嬢は業務的に仕事をこなすと依頼完了通知書をこちらへと渡す。
これでも最初は雑魚スライムを倒すのでもやっとだったが、はぐれゴブリンくらいは討伐出来るくらいのレベルにはなった。
転生マンガみたくステータスが見れる訳でも無く、突飛したスキルは何も無い。
本当に凡人以下、冒険者でいくと底辺と言われても過言では無い。
仕事も終わりギルドのロビーで一息付く。本来であればそこの自販機でジュースでも買いたいとこだがスーパーと違い割高なので節約のためスルーした。
しかし、人間とは欲深いもので何かとご褒美が欲しくなるのが性と言ったところか…葛藤の末、重い腰を上げて自販機に向かうと俺はコーラを選ぼうとした。
!
ふと隣を見ると金髪の美しい少女が横から自販機を眺めている。
自慢じゃないが自分の魔力探知能力は常人より優れているらしく、元々冒険者をやっていた知人からもそれは褒められていた。
なのに、至近距離で気付かないとなるとかなり手練の冒険者だということが伺えた。
しどろもどろしているとその少女が不思議そうにこちらの顔を覗き込む。
あ、早く選ばなくては
「あ、すいみません。いきなりで驚いてしまいまして」
俺はそういうとコーラを手に取りそそくさとロビーのベンチに腰掛けた。
「にしても綺麗な子だったなぁ…」
そう言いつつキンキンに冷えたコーラを飲み顔をしかめる。
『きくぅーー!』
そんな感じでコーラの爽快感を味わっていると隣に知っている魔力の感触が体に触れた。
先程の少女が隣にちょこんと座っていた。
『え、他にも席空いてるのになんで俺の隣にわざわざ…?可愛いけどこわっ…』
男として可愛くて美しい女性が近くに存在することで嫌悪感を抱くやつなど少ないだろう。しかし、わざわざ隣に座ってくるというシチュエーションに若干警戒心が芽生えた。
「あ、どうも」
無言で居るのも忍びないし社交辞令的に言葉を返した。
「こんにちは」
少女はそう淡白に返答すると自販機で購入したであろうお茶を飲んでいた。
「…」
ここで俺は魔法学校卒のエリートや実績のある冒険者であれば何かしらの話題を振れるのであろうがそれは無理な話だ。
せいぜい低ランクモンスターの討伐と薬草採取で生き抜いている22歳の出遅れ組だからな。
「…あなた不思議な感じがしますね。」
まさか話題を振ってきたのは彼女の方からだった。
「不思議ですか…」
恐らく自分よりも5つくらいは下であろう、美しい少女にミステリアスな質問を投げ掛けられ咄嗟に言葉が出なかった。
就活も難航していたためか、ついつい俺は愚痴を漏らしてしまった、
「俺はね、魔法とかギルドとか無縁の仕事してきたんすよ。今でもFラン冒険者で日銭を稼ぐのがやっとで、お嬢さんが思ってるような特殊な力も何も無いですよ。」
彼女が不思議に思ったのは、恐らくだがこんな平凡以下の俺が冒険者をやっている事に疑問を覚えたのだろう。
その証拠に魔力は抑えているものの、この子から底知れぬ潜在能力を感じる。
それだけの実力者であれば微妙に垂れ流れてる魔力からその人物の素質を見抜くのなんて動作もないことだろう。
「なんででしょうね。正直あなたからそこまで強者の素質は感じないのですが…何か内に秘めたる力を感じるのです。」
直球の意見に少し傷つきもしながら否定できない自分がいた。
別に勇者や剣聖といった特別な力は無いが、俺は世間から邪険にされている闇属性の魔法適性がある。
異国では闇属性ってだけで迫害の対象になる力だ。俺の住んでるここメアンでは魔法大国では無いのでそこまで問題にはならないが、嫌な顔をされてしまうのは目に見えている。
だから敢えて隠しているってのもある。物語の主人公であればこの力で無双も夢じゃないんだろうが、闇属性だからといって超人的な力を発揮出来る訳じゃない。
「ははっ…もしかしたら陰気臭さのせいかもしれまけんね。」
「?そんな感じはしませんけど…いきなり失礼な事を言って申し訳ありません。」
そんな話を彼女と話していると周囲がざわめている事に気付いた。
魔力の変化から言って「嫉妬」や「好奇心」といったものが大半だ。
ここまで美しい女性で尚且、実力者っぽいとこから見てメアンのギルドでも有名な方でいらっしゃるのでしょう。
余り注目も浴びたくないしそろそろ帰宅しようかと考えていると、彼女の元に軽装の鎧を纏った一人の女冒険者っぽい方が数人彼女の元へ駆け付けた。
「アイリスリーダー…」
何やら耳打ちで部下っぽい冒険者が何かを伝えている。どうやらこのアイリスさんという方はギルドでリーダーのポストに付いてる凄い人みたいだ。
「それでは私は失礼します。お話に付き合い頂きありがとうございました。」
大した話もしてないのに律儀な女性だなぁと思いいつつこちらも一礼を返す。
『かなり強そうだなぁ…恐らくAランク冒険者くらいの魔力持ってそう』
そんな事を思いつつ凡人の俺もベンチを立ち家路に着いた。