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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

dフォン

作者: 西園寺金時


第1章 ユウキ・ワタナベ


渡辺ユウキ38歳。

7浪の後、東京大学に入学。

卒業後、大手人材派遣会社「株式会社P」に入社。

江戸川区の家賃6万円のアパートにて独り暮らし。


会社での飲み会の類いは「今日はAmazonが来るので帰ります。」

と断ることにしている。


完全に時間の無駄だからだ。


ある日のことだった。

1ミリも楽しくない仕事を終え

いつものように彼は帰宅したのだが

玄関の前に中サイズのAmazon箱を発見した。


置き配を頼んだ記憶はなかった。

それどころか、最近はAmazonで注文した記憶もない。

しかし宛名ラベルを見ると、間違いなく自分の名前と住所が印字されている。


何だろう?

不安半分、期待半分でとりあえず彼はその荷物を手に取ると玄関のドアを開けた。


フロアテーブルの上にAmazonを置き

右手にはOLFAのカッター。

彼なりの開封の儀である。


中から出てきたものは一台の黒いスマホと分厚い本だった。


本をパラパラとめくってみた。

どうやら、このスマホのマニュアルのようだ。

今時、紙ベースのマニュアルとは逆に新鮮である。


スマホは緩衝材(プチプチ)にくるまれていて、箱などは無かった。

充電器等の附属品も一切見当たらない。

それどころかメーカーも機種も一切不明で外部端子、ボタン、カメラ、指紋認証センサーなども見当たらない。

画面をタップしてみたが何も起きない。


とりあえずマニュアルに索引が付いていたので、キ行「起動の仕方」を捜して読んでみることにした。


-起動方法-

梱包を解いた後、そのまま2時間お待ちください。


2時間は長いのでとりあえずシャワーを浴び、ゴロリと横になった。


彼はなにもしなかった。

ただ天井を見つめていた。

何もしないことに彼は慣れていた。


そして2時間が経過した。



第2章 dフォン


ピロリン♪ピロリン♪


ちょっと昔のケータイにも似た通知音が突然鳴った。


無反応だったスマホの画面が点灯した。

どうやら起動したようだ。

画面には「新着メッセージ1件」と表示されている。


画面をタップするとドクロマークのアプリアイコンが表示された。


これがメッセージアプリだろうか、とりあえずタップする。


「前略、ユウキ・ワタナベさま

おめでとうございます。

あなたはdフォンの所有者に選ばれました。

あなたが殺害したい人物のフルネームを記載し、このメールアドレスに返信することで殺害は確実に実行されます。

詳細は取扱説明書を確認されたし」


彼は真面目だった。

彼は分厚いマニュアルを1ページ目の「はじめてお使いになる方へ」からページを飛ばすことなく黙々と読み始めた。


23時07分


彼は全てを読み終えた。

このスマホはこの世の理を超越したツールであること。

細かなルール。

そしてスマホを使うことのメリットとデメリット。

全ては頭に入った。


彼はテストをすることにした、取り敢えず彼の所属する営業第3課の彼を除く男女11名全員のフルネームをメールに記載し送信してみた。


送信時刻23時30分




第3章 実証実験


翌朝、彼は出社しなかった。


8時30分


TVで朝のニュースを見た。


「都内で同時刻に謎の死亡事故5件発生」


警視庁の発表によると

大手人材派遣会社「株式会社P」に勤務する男女5名が昨夜遅く、ほぼ同時刻に全く別々の場所で死亡するという不可解な事件が都内で発生した。


同居する家族などからの通報によって警察官が駆けつけたところ、死亡した男女5名全員が頭部が完全に破裂しており即死の状態であったとのこと。


渡辺ユウキは体の中から沸々と喜びが湧いてくるのを感じた。


マニュアルには殺害方法、殺害日時を特に指定しなかった場合は10分後に頭部が破裂して死亡すると書いてあった。

本当にその通りになった。


自分はすごいアイテムを手に入れた。

同僚達はそんなに悪い連中でもなかったから

彼等には少しだけ気の毒なことをした。

11名中6名はおそらく独り暮らしだったのだろう。

だが遺体が腐敗し発見されるのも時間の問題だろう。


いずれ警察がここにも話を聞きに来るだろうか?

第3課、唯一の生存者である自分のところに。

だが、それはまだ先の話だろう。


その後もTVを見続けた。

どの局も今回の事件で大騒ぎだ。

11時45分

テレ東だけが「昼めし旅」を放送していた。



第4章 解決策


渡辺ユウキは考えた。

ものすごく大きな事件が起きれば

マスコミも世間も関心はそちらに向かうはずだ。


テレビ番組表をチェックする。

生放送の番組を捜す。


報道ステーション、これがいい。

今夜はスペシャルゲストとして堀○貴文とひろ○きが登場する予定だ。


2人とも頭が良いのは認めるが常に他人を見下す態度が妙に鼻につく。


この際、無惨に死んでもらおう。

そうだ、それがいい。


ひろ○きはおそらくフランスからの中継になるが国外にいる人間でも問題ない。

確実に殺りたいのでメールを送信するのは番組が始まってからだ。

CM中に殺してしまうようなミスは避けたい。

この番組の開始は21時54分だが、その後すぐにCMに入る。

ゲストが登場するのはもっと後だ。

本格的な討論が始まって1分後ぐらいがベストだろう。

マニュアルによると殺害時刻の指定は1分単位で可能。

スタジオ内のキャスターや自称専門家にも一緒に犠牲になってもらおう。

花火は多ければ多いほど盛り上がる。

死因は全員同時にデフォルトの頭部破裂で良いだろう。

出演者全員の正確なフルネームを予め入力し準備は万全だ。


22時15分 報道ステーション放送中


男性キャスター「さて、ここからは実業家の堀○貴文さん、経済学者の成田○輔さん、フランスからひろ○きさんにご参加いただいて、日本の国の経済格差について3人には多いに語っていただきたいと思います。本日はよろしくお願いします。」


3人「うーい、お願いしまーす。」


22時17分、それは起こった。

堀○貴文、ひろ○き、成田○輔、キャスターと何らかの専門家、計7名の頭部が派手に破裂し脳漿が画面いっぱいに飛び散った。


すぐさま画面は「しばらくお待ちください」に切り替わったが、一度放送された衝撃映像は瞬く間にネット上で拡散した。


それは誰にも止めることはできなかった。


#(ハッシュタグ)「きたねえ花火だ」



第5章 資金調達


全ては渡辺ユウキの思惑通りになった。

世間とマスコミの関心は「報ステの惨劇」一色に染まった。

前日に起きた不可解な事件など、どこかに吹っ飛んでしまった。

しかし、油断はできない。

営業第3課、残り6人の死体が発見されるのは時間の問題だ。

警察はきっと水面下で動いているだろう。

だが彼には次のプランがあった。

そのためにはまず、お金が必要だ。


マニュアルには殺害対象者の殺害前の行動をある程度はコントロールできると書かれていた。

ただし、その対象者の能力を超えるような命令は無効となる。


彼の次のターゲットは自身の勤務する株式会社Pの取締役会長を務める「現代の政商」T中H蔵氏だ。


問題なのは彼がすぐに現金化できる個人資産を幾ら持っているかだ。

3億は欲しいところだが、2億でも充分だ。


「○月○日、17時00分

T中H蔵は現金2億円が入ったボストンバッグを江戸川区○丁目8-9-3ホウレン荘205号室、渡辺ユウキ氏宅玄関前に置き、無言で立ち去り18時00分死亡」

とメールに記載し送信すれば良いのだが、T中H蔵が現金2億円を用意出来なかった場合はただの老人がひとり死ぬだけになる。


まあ政商T中H蔵が死ぬことはこの国にとっては良いことなのだが、それは渡辺ユウキにはどうでも良いことだった。


現金2億円、重さにして約20kg。

老人でも運べない重さではない。

渡辺ユウキはダメ元で上記のメールを送信した。


その日、T中H蔵は本当にやって来た。

玄関前にドスンとボストンバッグを落とし

そのまま無言で消えて行った。


1時間後、永田町に向かうタクシーの車内でT中H蔵が頭部破裂で死亡したとのニュースが流れた。


第6章 東京脱出


渡辺ユウキは高知県高知市土佐山の古民家を土地付き800万円で購入し、1000万円かけて完璧にリフォームした。

さらに500万円かけて敷地内に大型のソーラーパネルを複数設置した。

トヨタのランドクルーザーを新車で購入し、頑丈なガレージも完備した。

移住先に高知県の山奥を敢えて選んだのは地政学的なリスクを考慮してのことである。

また10年分の水と食糧、燃料などを備蓄した。


江戸川区のアパートはあえてそのまま残した。

どうせ消えるからである。

全ての準備は整い、彼は東京を脱出した。



第7章 東京消滅


渡辺ユウキは次のメールを送信した。

「○月○日13時30分

NK指導者、金○恩は日本国東京都新宿区に向けて保有する全ての核弾頭を搭載したICBM(大陸間弾道弾)を全弾発射し、その後死亡する。」


日本海に展開する海自のイージス艦艇、都内に展開する陸自のPAC3部隊は直ちに緊急迎撃体勢に入ったが音速の20倍で再突入する大陸間弾道弾を迎撃することは事実上どこの国でも不可能だった。

38もの戦略級核弾頭が東京に着弾した。


東京は消滅した。

後に残ったのは巨大なるクレーター(ネオ東京湾)だけだった。


米軍はNKに報復核攻撃をすることは遂になかった。

NKが米本土まで届くICBMやSLBMを既に保有していた場合、取り返しのつかない事態になる。

核の傘など最初からなかった。


むしろ在日米軍は放射線被爆と第2波の核攻撃を恐れ、我先にと日本を脱出した。

それは、かつてのサイゴン陥落やアフガン撤退を彷彿とさせる光景だった。


日本中が恐怖と混乱に包まれる中

北海道はロシアに

沖縄と九州は中国に

それぞれ一瞬で占領されてしまった。


現日本国政府は消滅し、円は一時的には紙クズ同然となったが大阪が日本の新たな首都となり戦後復興が始まった。


日本国の領土は本州と四国のみとなった。


偉大なる将軍様亡き後、NKではその妹が女帝となり、その国家体制は維持された。



終章 星の夢の終わりに


世界の核保有国


アメリカ、ロシア、中国、イギリス、フランス、インド、パキスタン、北朝鮮、そしてイスラエル。


東京消滅後、渡辺ユウキは毎日「世界核大戦」勃発のシナリオを綿密に練ることに没頭したが結局は実現しなかった。


各国の核兵器使用プロセスは想像以上に複雑で、指導者(リーダー)の一存で使用できる国家は結局のところ北朝鮮ぐらいしかなかった。


しばらくは世界各国の指導者(リーダー)や超富裕層と呼ばれる人間を次々と殺害して愉しんでいたが、終いにはそれにも厭きてしまった。


渡辺ユウキは最後のメールを送信した。


10分後、彼は安らかに永遠の眠りについた。


-完-






















































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