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温もりがたりない?

私は、ココアでベタベタになった服を脱ぎ捨てた。


下着も着替える。


「なっこ、俺な…」


「なに?」


(なん)もない。サプライズあるから、楽しみにしとけよ。なっこ、明日また会おうや」


別れ際、何かを言おうとした。


サプライズって、何だったの?


今思えば、彼は、死ぬ事を予言していたように感じていた。


「なっこ、その姿で私を誘ってるの?」


下着姿の私を静樹が、見つめる。


()れて欲しいなら、何だってするわよ」


静樹は、私に近づいた。


右手の人差し指で、ゆっくりと背中を(さわ)る。


「静樹、しなくていいよ」


「なっこは、まだ温もりが足りないんじゃない?」


静樹は、ルームウェアをゆっくり脱いだ。


「いいから」


「しっー、黙って」


静樹は、下着姿になって私を引き寄せた。


いつもより、ダイレクトに静樹の温もりが身体中に伝わる。


「なっこ、もう寒くないでしょ?」 


静樹は、私が震えているのがわかっていたんだ。


静樹の香りに包まれて


静樹の暖かさに包まれて


ガクガクと笑っていた膝が、ゆっくりと静まっていくのを感じた。


「静樹」


「なっこ、私ね。あの日、なっこに出会った日から何でもしてあげようと決めたのよ」


涙が、流れ続ける。


静樹の背中を濡らしていく。


「なっこはね。特別だった。恋愛や友情や家族でもない。わかるでしょ?なっこにも」


「うん」


「私は、なっこを失ったら生きていけないのよ。だから、なっこがしたい事をしたい。彼を思って私に抱かれたいって言うなら、私だって協力するわ」


「静樹、そんなのしなくていい」


膝の力が、カクンと抜ける。


静樹は、私の腰を力強く支えてくれた。


「座る?」


「ごめん、重いよね?」


「ううん。ただ、なっこが辛い体勢よね」


「そうだね」


静樹は、洗面所の床にゆっくりと私と一緒に座った。


「不思議ね。こうやって、くっついていても何もならないなんて」


「ハハハ、そりゃそうだよ。静樹は、女性なんだから」


「世界で、なっこだけよ。私を女性扱いする人は…。」


「そんな事ないよ」


私は、静樹の胸に顔を埋める。


「ピアスは、やめたの?」


左胸の胸にだけ、静樹はピアスをつけていた。


「それね。つけてるとね。悲しくなるの」


「彼が、つけたの?」


「私がね、頼んだのよ。昔は、へそピアスも開けてたわ。身体中に痛みが欲しかった。」


「どうして?」


「母親がね。私が、同性愛者って気づいたのは、小学生の頃でね。父に、毎日殴っていたら治ると言われた。毎日、毎日殴られた。いつしか私は、それを愛だと感じ始めた。」


「それで、ピアスをつけたの?」


「それは、痛みが愛じゃないって彼が言うから。だったら、ピアスを開けてって頼んだ。殴らないかわりにピアスを開けてもらった。耳だって、たくさん開いてたのよ」


静樹は、耳たぶの痕を見せる。


「軟骨も、痛そう」


「痛みは、快楽だったわ」


静樹は、私の頭を撫でてくれる。



「でも、ここはずしたら彼を忘れちゃうじゃない?」


静樹は、左胸に私の手を当てさせた。


「忘れちゃった?なっこが、はずしたのよ」


「えっ?そんな事してないよ」


「あらら、記憶にないの?」


「ないよ」


「あら、残念。ここが、ジンジンと赤くなってるのをなっこが見たのよ。引っ越してすぐ。ベロベロだったから、忘れちゃったのね」


静樹は、また髪を優しく撫でる。


「ねぇー。頑張って手繰り寄せてみてよ」


静樹に、背中を撫でられる。


その瞬間、頭の片隅の記憶の引き出しが少しだけ開いた。



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