温もりと誕生日
「なっこ、寝ようか?」
暫く目を瞑っていた私の耳元で、静樹が声をかけた。
「うん」
「歯磨きしていくから、横になってて」
「うん」
私は、涙を拭って寝室に向かった。
ルームウェアを脱いで、パジャマに着替えた。
カチャ…
着替え終わると静樹が、現れた。
「私も着替えていい?」
「いいよ」
私は、静樹を見ないようにベッドに入る。
パジャマに着替えて、静樹はベッドにやってきた。
「なっこ」
「何?」
「もう、私達、4年も一緒にいるわ」
「うん」
「そろそろ、私。なっこがしたいなら、手伝うつもりよ」
「いらない」
私は、首を横にふる。
「なっこ、本当は彼に触れられた記憶を手繰り寄せたいんじゃないの?出会った時からずっと」
静樹は、私の事を引き寄せて顔を向ける。
「この闇を照らせるなら、私はどんな事でも、なっこにしてあげたいの」
友情や愛情なんて言葉で、私達を縛りつける人がいるのなら、ぶん殴ってやりたい。
「私も静樹の闇を拭ってあげたいよ」
出会った日から、私達はお互いの闇に触れていた。
「なーに、あんたさ。そんな真っ暗な目をしてどうしたの?」
「そっちも言えないし」
「あんた、大事な人亡くしてるわね」
「はあ?マスター、珈琲」
「はいはい」
「あんた、そんな砂糖いれたら死ぬわよ」
「うっせーな。甘味なんてないんだよ。苦いんだよ。ずっと」
「私が、あんたを助けるから」
「ほっといてよ」
「ほっとけるわけないじゃない」
静樹に抱き締められた瞬間。
涙が、止まらなかった。
生きている人間の暖かさに触れたのは、どれくらいぶりだっただろうか?
自分以外の人間の暖かさに触れたのは、どれくらいぶりだっただろうか?
水道管が破裂したみたいに、泣いた。
「ぁーぁぁあああああぁあぁぁ」
私は、狂ったように泣いた。
静樹は、私を抱き締めてくれていた。
「静樹、充分だよ」
「キスぐらい出来るかもよ」
私は、首を横にふる。
「明日で、41歳になるの」
「もう、今日よ。知ってるわ」
「目が覚めてからよ。あのね、静樹、明日の夜中に私にキスして」
「いいの?」
「それで、丸20年になるの。静樹は、まだ先だけど…。」
「私、女の子は好きになれない。でも、なっこなら頑張ってみたい」
静樹は、私の手に頬を当てる。
「無理は、しないで」
「無理したいの」
静樹は、私の涙を拭ってくれる。
あの日、折れた翼を見つけた。
私と静樹は、磁石のようにピッタリとくっついた。
恋や愛じゃない。
ただ、傍にいてあげたいと強く惹かれ合った。
その想いは、一度も変わることなく、今日までやってきた。
これから先だって、変わることなんてない。
「珍しく誕生日が、日曜日じゃない?」
「本当だ。」
「ケーキ買いに行きましょう?欲しいものも買ってあげる」
「本当に?」
「本当よ」
静樹は、私をギュッと抱き締めてくれた。
私は、その体温に包まれて眠った。
チュンチュンと言う、鳥の鳴き声で目が覚めた。
私は、ルームウェアを洗濯機に持っていく。
「ふぁー。」
「おはよう、なっこ」
何時に寝ても、静樹は七時に目が覚める。
「あれ、サンデーLOVE見てないの?」
静樹は、決まって日曜日の七時から始まる、サンデーLOVEを見ていた。
最新コスメや最新グッズがやっていて、NEWSはいっさいやらないのだ。
「なんかね、同じNEWSなのよ」
卵をかき混ぜなから、静樹が言った。
「なんか、大事件なのかな?」
私は、TVをつける。