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彼との思い出

私の名前は、若宮夏子(わかみやなつこ)


私は、あの日、交わした約束に今でも、ずっと縛られている。


それは、今もこの胸に色鮮やかに色づいている。


「なっこちゃん」


「元気だった?」


「元気、元気」


「彼は、見つかった?」


「ううん。行方不明のままだって」


私は、あの日からずっと彼を待ち続けている。


彼女は、最近結婚したとこちゃん事、楠木東子(くすのきとうこ)だ。


「なっこ、俺がお前を幸せにしたるからな。約束や!30なったら迎えに行くから」


成人式の飲み会の帰り道に、彼は私にこう言ったのだ。


「もう、恋なんてしないって誰かの歌のフレーズみたいな台詞を口ずさんだ私に、彼はそう言った。」


「めそめそすんなや!なっこには、笑顔が似合うで」


10歳で、彼は関西に引っ越した。


「二十歳になったら、会おう」


10年後の約束も、さらりと叶えて見せた。


「なっこー。元気やったか」


「あー。元気だったよ」


「めっちゃ、会いたかったわ」


高校から付き合っていた(しゅう)ちゃんに振られて、私はボロボロだった。


「もう、恋なんてしない」


「なーんや、どっかで聞いた事あるフレーズみたいやな。」


「だって、全部。全部。(しゅう)ちゃんだったんだよ。私の初めては、全部」


「なんや、そいつに全部あげてしもたんやな」


「何で、悲しそうな顔するの?」


「俺には、何も初めては残ってないんやな」


「だって、5年付き合ってたし」


「俺は、初めて残してたんやけどな。」


その言葉に、私は彼を抱き締めた。


「なあ?なっこ。行きずりやったら誰でもええんか」


一つに重なりあった後、彼は煙草に火をつけて、反対の手で私の頭を撫でながら言った。


「そんなわけないよ。君だからいいんだよ」


「そうか」


その目は、私の話しなどを信じていなかった。


深い悲しみ色をした目だった。


「なっこ、付き合うもなしに、またこうやってするんよな?」


栗色の瞳は、切なげに私を見つめた。


「君は、付き合いたいの?」


「いや、ええわ」


灰皿に煙草を押し当てて、彼は起き上がった。


彼が、何を考え望んでいたか私にはわからなかった。


「ねぇー。」


「また、寂しなったら。連絡してこいよ」


別れ際、手にメモを握らせた。


「うん」


その日から、幾度となく寂しい夜を重ねたある日


「あの、彼をご存じですか?」


「誰ですか?」


職場に、見た事のない男の人が私に彼の写真を見せた。


「探してるのですが、連絡していただけませんか?」


「はい」


私は、電話をかけた。


「おかけになった電話は…」


電源が入っていなかった。


それを告げると、「わかりました。」と去っていった。


それから、二度と彼と連絡はつかなかった。


最後に話した会話を今でも覚えている。


あの時折見せる深い悲しみの目が今もまだ忘れられなかった。


「なっこ、こんなんいつまでも続けとってええんか?」


「嫌なら、やめようか」


「やめたら、どっか行くんやろ?また、行きずり探して」


「それは、どうかな?」


「空しくないか?」


「君は、空しいの?」


「別に」


深い悲しみ色の目をまた浮かべた。


「その感情は、恋愛としての好きがあるから生まれるわけでしょ?私は、まだ君にないよ」


「俺も同じや」


今ならわかる。


あの目が、空っぽに染まっていた事


「だったら、私達は利害が一致してるじゃない?」


「そやな」


煙草に、彼が火をつけた。


ほのかに、バニラが薫るような煙草。


「ねぇー。もっかいしよ?」


「かまへんよ。」


この日、私は彼を何度も求めた。


彼も、それに応じた。


朝型、ようやく疲れて眠りについた。


昼過ぎに、目覚めた私を彼はそっと抱き寄せた。


「なっこ、30なったら会おうな」


それはまるで、永遠のお別れのようだった。


「キスしてくれる?」


「ええよ」


私の体は、この一年間で彼を求める肉体に変わっていた。


のに…


「Happy Birthday、なつこ」


次の日の誕生日のケーキの蝋燭を一人で吹き消していた。




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