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凄腕ハンターと竜殺姫  作者: ヒロナガユイハ
第1章 竜を狩る少女
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第7話 旅支度と出発


「無事戻って来られたみたいですね、ユニファーさん」

「はい、師匠のお陰です」

「思ったより戻るのが遅くて心配していました」

「色々教わっていたので……。 その分有意義な日でした」

「そうでしたか。 それは結構な事ですね」

「……」


 ハンターギルドに戻った俺達は、受付に今回の依頼による報告をしていた。予め口裏は合わせてドラゴンに関する話題を避ける様にしている。

 そしてギルドの受付嬢が単なる新米ハンターへの対応とは思えない態度でユニファーに接しているのは王族からの圧力によるものなのだろう。当の本人に権力など皆無なのだが、それをわざわざ言う必要もないので黙っていた。


「明日には本来予定していた方が復帰できそうですので、その方に引き継いで明日以降は――」

「その件だが、ちょっといいか?」

「はい? どうかしましたかー?」

「確かハンターの制度に、四ツ星以上のハンターによる推薦があれば新米を通り越して一ツ星に昇格出来るよな?」

「ありますね。 ――ってまさか……!?」

「ユニファーを俺の推薦で昇格させてほしい。 頼めるか?」

「可能、ですが……。 貴方がそれをするとは……」


 新米ハンターが活動するにはギルドの監視下で誰かしらを付けられる。それなら適当にこの制度によって昇格させた方が自由に活動出来る。


「それと、パーティ申請も頼む。 俺とユニファーで登録してくれ。」

「承知しました、パーティ申請――えぇ!?」

「そんなに驚く事か?」

「驚きますよー! パーティどころか人を寄せ付けないという態度だった方が……今日一日で何があったんですか?」


 俺にそんな噂がされているのは知っていたが、そこまで驚かれるのは心外である。


「詮索はよしてくれ。 それとも、これらの申請にその情報が必要なのか?」

「そんな事はありませんが……。 わかりました、ではパーティ名を教えてください」

「パーティ名か……考えてなかったな」

「あ、パーティを組むならこれにしたいっていうのがあります、師匠!」


 俺の手続きをのぼーっと眺めていたユニファーが元気よく挙手する。


「……言ってみろ」

「ドラゴンバスタで――もごっ!」

「――パーティ名は少し考える。 それ以外の手続きを進めておいてくれ」

「しょ、承知しました……」

「もごご!」


 俺はユニファーの口を塞いでギルド内の談話スペースへと引きずって行く。


「……お前は馬鹿か?」

「もごっ――だって……」

「だって、じゃない…… お前の力は隠す必要があるってのは忘れてるのか、この頭は……」

「名は体を表すと言いますし、それなら願掛けも込めたいという次第で……」

「……なら、もう少し凝ったものにしろ。 例えばそうだな……レリックガーディアンズ、とかか?」

「その意味は?」

「お前の話によれば過去の出来事の遺物みたいなものだ。 そしてそれを目的地まで守護する必要があるだろ?」

「レリックガーディアンズ……。 どこかにドラゴンとも入れたいです……」

「それならレディックガーディアンズとかか? レリックにドラゴンの意味を含めたDを含めるとか……? 丁度その遺物であるお前もドラゴンの力を使うしな」

「それいいですね! それにしましょう!」

「……まぁ、名なんて活動に支障がないなら何でもいいからな」


 ハンターのパーティ名を名付けるだけでもここまで楽しそうにするユニファーと、冷めた俺との温度差で風邪になりそうである。


「でも何で守護者が複数形なんですか?」

「パーティってのは複数で組むものだから人を指す部分は複数にするっていう慣例だ」

「そうなんですね。 てっきり師匠以外の人も増えるものかと……」

「そのつもりはないな。 面倒が多すぎる」

「そうですか……」


 そんなやり取りを経て、ギルドへの報告と諸手続きを済ませた。


 ……


 その後、後ろがスースーすると言うユニファーの装備を馴染みの服屋に修理及び改良の依頼をした。

 そうして、気を取り直して今後の段取りについて俺とユニファーの二人で話し合った。


「――地図によれば、ドラゴンは五体。 内一体は倒したので、残りは四体です」

「……位置関係からして、恐らくこのドラゴンだな」

「ですよね……?」


 ユニファーの話に誤りはなく、ここから数日掛けなければたどり着けない遠路にある荒野を指し示していた。これなら今日の森にまで来ないと判断してもおかしくはない。

 判断し易くする為に、地図に討伐したという印を施す。


「……お前が間違っていなかったのは納得するが、その代わりにこの地図の信憑性を疑う事になるな」

「あくまで故郷を出た時点のものですし、そこまで正確にはなりませんよね」

「……そういえば、この地図はどうしたんだ? かなり精密に地形を表しているが……?」

「さぁ? 精密じゃない地図ってあるんですか?」

「あぁ……地図ってのは機密文書だからな。 これ、表で広げるなよ?」

「……? はい師匠」


 下手に品質の高い地図などトラブルになりかねない。その事実に気づいていないこいつが一人で旅に出なくて本当に良かったと今では思っている。

 それと、どうやってこの地図にドラゴンの場所を記したのかは不思議でならないが、ユニファーの集落の人間というだけで何らかの能力を有していてもおかしくないと納得するしかないだろう。


「まぁいい。 それより、次の目標だが――距離で言うならこれだな。 また厄介な……」

「厄介なんですか? たしかこのドラゴンはとても下の方だと言われましたね」

「……やはりか。 まぁ、現地に行ってみるしかないな」

「そうですね!」

「どの道ジャムリックの国境内に他のドラゴンの反応はない。 国境を越える必要があるな」

「別の国……、楽しみです! 私、この国から出た事がありません。 そもそも故郷から出たのも初めてでしたが……」

「因みに、お前の故郷は何処なんだ?」

「……この辺りの筈です!」


 ユニファーは、地図の端の方にある人の寄り付かない深い森の奥を指す。


「……お前の故郷も気にならんとは言わないが、たどり着くのは骨が折れそうだな」

「……私は戻れませんので、行くのは止めにしましょう」

「ん……?」


 寧ろ、故郷に戻りたそうにしている節があるユニファーはわかり易く気持ちを落ち込ませる。

 隠れ里という位置づけなので、部外者の俺が入れないとかなら納得も出来るが、ユニファーが戻れないというのはどういう意味なのだろうか……。

 どちらにせよ長い時間を要して戻る意味も薄いと判断した俺は、それ以上の追及はしなかった。


 ……


「本当に出て行ってしまわれるのですか?」

「あぁ、もう決めた事だからな」

「お前が居なくなると寂しくなるぜ」

「……エルムレスとしては、俺よりユニファーを惜しいと思っているだろ?」

「へへっ、バレたか」


 数日掛けて保存食といった長旅の準備を終わらせた俺達は、この町の門前で小さな送迎を受けていた。

 来て殆ど日を跨いでいないユニファーは兎も角、俺は三年はこの町に滞在していた。社交的ではない俺でも知り合いの一人や二人は居たのである。そんな訳で鍛冶屋のエルムレスやハンターギルドの受付嬢、それ以外にも酒場で知り合った奴なんかに見送られている。


「ユニファーちゃん、夜中に突然襲われるって事は彼の性格からしてないとは思うけど、道中気を付けてね?」

「……? はい! 自分の身は自分で守ります!」

「そうよ? これだって相手以外に触れられない様に、ね?」

「……? はい!」

「……」


 絶対意味もわからずに返事をしている馬鹿と、今後は四六時中共に行動しなければならないという事実に俺は溜息を付きたい。

 この数日でユニファーはハンターギルド受付嬢と仲を深め、俺は役得だ何だと散々弄られた。俺からすれば厄介この上ないユニファーをチェンジが可能ならとっくにしている。

 因みに、受付嬢が警報を鳴らしているのは俺がユニファーを性的行為を無理やりするという意味だ。だが、人をけだもの呼ばわりする割には、遠回しな言い回し故に伝わっていないらしい。


「ま、生きてたらまた会おうぜ」

「……こんな時代だ。 俺は再会の約束はしない質だからな。 悪いが――」

「そうか……。 だが、お前の活躍が吟遊詩人に詩われるぐれー活躍してくれよな」

「……あぁ、できたらそうする」


 こうして涙の別れなんてドラマチックなものではないが、俺は長く過ごしていた町を後にした。その間、俺は一度も振り返ることなく歩いた。


「……師匠」

「……何だ?」

「そう言えば師匠って何歳なんですか?」

「……二十一だ」

「二十一ですか……。 もっと年上かと……」

「老け顔で悪かったな」

「そ、そんな事言ってませんよ! すみませんー!」

「……はぁ……」

「そんな怒らないでください、師匠ー!」


 そんな俺も、気になっていた質問を返す。


「……俺も質問いいか?」

「ぇ? ……どうぞ!」

「もうパーティを組んでるんだから師匠じゃないだろ? 何でまだ師匠呼びなんだ?」

「師匠は師匠だからです!」

「……俺の名前言ってみろ」

「……」

「……」

「ロ、ロボセルインさん……?」

「……ロホセレインだ」

「あっ。 えぇと……その……。 私、人の名前を覚えるのが苦手と言いますか……」

「……はぁ……」


 これから先が思いやられる俺とユニファーの旅が始まった。


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