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凄腕ハンターと竜殺姫  作者: ヒロナガユイハ
第1章 竜を狩る少女
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第6話 亡骸の処理と新たな力


 当面の方針こそ決まったことで、改めて現状に対して向き合う余裕が生まれた。


「それで、このドラゴンはどうするか……」

「高く売れませんか?」

「売れる、だろうな。 それこそ金の心配を今後しなくて済む程度にはな……」


 間違いなく売れるだろう。それも超高額で……。


「でも師匠は、さっきは高くならないと言っていました」

「……先程は放心してて適当に返しただけだ。 だが、これを市場に降ろすには問題が多すぎるな……」


 以前竜の血という商品がべらぼうな額で取引されたという話を聞いたことがある。人から聞いた話に過ぎず、それが本物であった証拠もないのだが、単なる血ですらそんな騒ぎになる代物だ。そんなドラゴン丸々一体なんてのは俺の手に余る。


「仮に都合のいい商人と巡り会えたとしても、俺はこれを表に出すべきじゃないと考えている」

「何故ですか? 稼げるときに稼ぐのがハンター、ですよね?」

「それはそうだが……お前、これをどうやって入手したか聞かれたらどうする?」

「それは勿論、私が倒しましたと正直に言います」

「どうやってと質問されたら?」

「私の力を師匠の時と同じく説明します」


 俺は額を抑えて溜息を付く。


「……不合格だ。 お前の能力が世でどう扱われるか考えた事はあるか?」

「それは、勿論です! 英雄の再来、勇者の誕生とでも称賛されて吟遊詩人さんに唄ってもらえます!」

「んな訳がないだろう! それでお前はその能力を見せてみろと言われてどうするんだ!」

「そこはしっかり説明してですね――」

「信用される訳がないだろう!」

「ですが現にドラゴンの亡骸を持てば……駄目ですかね?」

「あぁ、法螺吹きとして相手にされない。 ドラゴンも本物を見た人間が居ないだろうに、誰が証明するんだ?」

「うっ……」

「そもそもだが、ドラゴンであると証明できる本物の目利きに会えたとしても、俺がその目利きなら何らかのいちゃもんを付けて取り上げる。 そして、二束三文がお前の手元に残って終わりだな」

「そ、そんな~」


 がっくり項垂れるユニファーに、更なる残酷な真実を告げる。


「その上、お前の話が全て真実で……信用されたとしてだ。 その後に起こる事態が二つ考えられる」

「……その事態とは?」

「一つは政治利用だな。 お前がドラゴンの前でしか強くないならいくらでもやりようがある。 適当に身柄を拘束されて、考えられる中で酷いのは……お前は子供を産む道具扱いとかか?」

「ぇ……」

「そりゃそうだろ。 お前の血を継いだ人間がその力を受け継げる可能性があるなら、それを利用するだろうな」

「――ひえっ!!!」


 俺の想定を聞いたユニファーは、血の気の引いた表情になって俺から数歩引く。


「……何逃げてるんだ?」

「ち、近づかないでください! けだものぉ!」

「俺がお前に手を出すなら、そう丁寧に説明する訳ないだろ……。 平然を装って騙している」

「そうですか?」

「あぁ」

「……本当に?」

「――諄い」

「うぇっ……す、すみません! 少しでも師匠を疑いました!」

「……」


 ユニファーは、綺麗な角度で俺に対して腰を下げる。


「……続けていいか?」

「ど、どうぞ!」

「はぁ……。 もう一つだが……、追放もしくは処刑だな」

「とても物騒ですね」

「当たり前だろう。 お伽話だと思われているのが真実で、それが偽りであると……王族の権威を貶める発言をするお前を、お偉いさんが放置する訳がない」

「……そうでしょうか? 実はジャムリックの王様はこの話を知っていまして……それで私にお金をくれました!」


 そう話すユニファーの言葉で俺は合点がいった。ギルドで聞いた話やこいつに金銭的余裕がある理由がそれで判明したからだ。


「それなら猶更だろ。 それはお前を援助する代わりに、内密にしろという意味が含まれているものと思われる」

「そんな話はされませんでしたよ?」

「お偉いさんってのは、直接言わずに意味を伝えるもんなんだ」

「そうなんですか? 言った方がわかり易いですのに……何でですかね?」

「……」


 説明するのも面倒なので、俺は無言を貫いた。


「……話が脱線したが、そんな訳でこのドラゴンは表に出せない。 それと、大々的に俺達の活動を出来ないってのは理解したか?」

「はい、師匠!」

「ならいい……」


 そう言って、俺は目の前のドラゴンの亡骸へと目をやる。


「こいつはどうするか。 森のそれ程深い場所でもないからな……」

「それならいい方法があります! 見ててください!」


 そう言ってユニファーは、先程ブレスを防いだ時と同じく剣を横に構えると、左手を刃に添える。


「……」

「何をして――うぉっ!」

「竜の胃袋!」


 剣が輝くと、竜の亡骸が光の粒子となってユニファーへと吸い込まれていく。

 見る見るうちに地面に滲み込み始めていた血一滴すら残さずに亡骸は消滅した。


「……これは?」

「けぷぅ――っと失礼。 これは私の能力で、力を取り込みました。 これで、新しい力が使えます! 他の能力と同じでドラゴンの前限定ですか……」

「お前が強くなれる、という事か?」

「そんな感じです」

「――そんなものがあるなら、はなっから使い道はこれでよかっただろ?」

「そう……なんですか?」

「お前なぁ……!」


 万が一、ユニファーが負けることがあれば俺は運命を共にする事になる。それならユニファーを強くするのは最優先事項だった。


「あーもういい! ……で、新しい力って言ってたな。 それは何だ?」

「むぅっ……。 あ、わかりました! 多分これです。 ――竜の尻尾!」


 ユニファーがそう叫ぶと何かが裂ける音と同時に、彼女の後ろ側から少女に似つかわしくない大きな尾が出現する。


「これを自在に出せる様になりました。 でも地味ですね、どう使えば……」

「……自在に動かせるのか」

「はい。 こんな感じです」


 彼女は大きな尾を左右に振る。地面に叩き付けられる度に土煙が舞う。


「――尾の一振りで如何なる砦さえ粉砕する――か。 例えば跳躍する際に反動を付けて高く飛んだり、空中の制御で重心を操れるか……? そも自在に操れるなら腕か足が一本増えたと考えられるから、活用法は多岐に渡るな……」

「す、凄いです師匠! 一瞬でそこまで考え着くなんて……。 私なら考える時間を一ヵ月はほしいです!」

「……まぁ、その辺りは追々だな」

「……?」


 どれだけ優秀な力を持っていても、ユニファーのこの調子ではどうしようもないだろう。時間を掛けて少しでも頭を良くする他なかった。


「……今日は疲れたな。 腹も減った」

「私はなんだか竜の胃袋を使ったからか満腹感があります!」

「そうか。 だが昼食を取れなかった俺は空腹だ」

「あ、すみません……」

「戻るぞ。 それともお前は残ってこの場でその尾を試してから戻るか?」

「いぇ、もう戻りましょう。 私、方向音痴なので師匠なしでは帰れる自信がありません。 それにもうドラゴンの力は使えなくなりますし――」


 その瞬間、彼女の尻尾が消え去る。どうやら丁度時間だったらしい。


「ほら、消えちゃいました! 見てください、もうないですよ!」

「そうだな――っ!」

「どうかしましたか師匠? いきなり顔を背け、て――ぅわっ!!?」


 竜の尾があったと思われる部分の布が大きく裂け、そこからぱっくりと素肌が露出していた。

 ユニファーは俺に向けていた背を後ろに隠して両手で覆った。思いがけない出来事に顔を真っ赤にしている。俺も顔が熱くなっている。


「……み、見ました?」

「見た、というか……、お前が見せつけてきたな……」

「……お目汚しさせて、すみません……」

「い、いや……。 ――じ、獣人族みたいに、尾を出せる部分が必要そうだな」

「……で、ですね……。 そう、ですね……」

「あ、あぁ……」


 女っ気がないとよく言われるし、そう興味がないのも事実だ。だが、俺も性欲が皆無という訳ではないらしい。


「……マント、貸すぞ?」

「ありがとうございます……」


 微妙な空気で歩き出した俺達だったが、双方この出来事に対して尾を引くつもりはなかった。忘れたかったともいえる。

 そんなこんなで何事もなく町に戻る頃には、それ以前と同じ調子で話せる様に雰囲気は回復していた。


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