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凄腕ハンターと竜殺姫  作者: ヒロナガユイハ
第1章 竜を狩る少女
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第5話 力の正体と少女の事情


「竜殺しの王子という詩を知っていますか?」


 竜殺しの王子、という有名な詩がある。多少の脚色やら違いこそあれ吟遊詩人なら誰もが扱っているといって相違ない。

 詩になど興味がない俺でも、酒場に入り浸れば自然とその内容が頭に入ってしまう程度には日常に浸透している詩だった。

 そんな詩だが細かい部分は個々の吟遊詩人で異なるものの、大筋の流れは共通している。


 かつて人類の脅威になり得るドラゴンによってその存続を脅かされていた。それを勇猛な一人の男が退治するという話だ。

 ドラゴンの特徴としては鋭い爪で敵を裂き、口から強力なブレスを吐き出す。背の翼で大空を自由自在に飛び回り、尾の一振りで如何なる砦さえ粉砕する。

 それ以外にも破る事の出来ない壁を生み出したり、頭の角から雷撃を放ち、咆哮によって意識を失わらせられると……これらは明らかに脚色と思わしき詩人独自の要素も存在する。


 そんな凶悪な存在を男は身一つで討伐する冒険譚ののち、成した子が各地で国を起こした――という最終的に貴族に媚びを売る退屈な物語。というのが俺の印象である。


「あぁ、知っている」

「――そんな詩ですが、一つ大きな誤りがあります」


 唐突にそんな話をし始めたユニファーが、その誤りとやらに切り込みを入れる。


「そのドラゴンを倒した男の人という部分なのですが、そこが違うみたいなんです」

「……続けてくれ」

「実はその男の人ではなくその人の妹が、本当にドラゴンを倒した人だったそうです」

「妹?」

「はい、それ以外は大方誤りではない筈です。 男の人の子供が連なる人が国を興した部分も、ドラゴンの特徴も……です」

「いや、そこが違うなら何もかもが覆っちまうだろ……」


 王族としての権威である共通の先祖であるという実績が、直系ではなく傍系だとすれば天地が引っ繰り返る事実だろう。


「それでですね……、その妹さんがどこへ行ったのかというのは気になりませんか?」

「……確かに、詩そのものが創作ではなく史実なら所在は気になるが……まさか!」

「ふっふっふ! 気付きましたね、師匠! そう、その妹さんはある僻地にて小さな集落を築いて慎ましやかに余生を過ごしたそうです」

「それが……お前の先祖だと」

「その通りです! 私の血に流れるそれは、この力と剣が証拠です」


 先程の凄まじい力、嘘でなければあれの理由を説明するには十分であるといえるだろう。


「……」

「どうですか~?」

「……気になる点が幾つか存在する」

「ぇ? あ、はいっ!」


 誇らしげなユニファーに対し、俺は冷静さを装いつつ質問をする。


「一つ、何故ドラゴンを倒す力があるならそれがこれまで世に出なかった? その集落とやらには他に人間が居るだろう?」

「それはですね……、私が先祖返りと思しき特別な存在だからです。 それ以外の人はこの力はありません」

「……二つ、それなら何故ここまでの道中で力を使わなかった? 俺を騙していたのか?」


 数時間見てきたの身体能力とは明らかに格が違った。


「……実はこの力、ドラゴンの目の前と故郷の集落でしか発揮できません。 ドラゴンの周囲には特別な魔力磁場が発生しているからだとお婆に言われました」

「今はもう使えないのか?」

「まだ使えます。 このドラゴンを倒した余波がこの辺りに残っていますので……。 ですが時間が経てば、息絶えたドラゴンの魔力は消えてしまいますね……」

「集落で使える理由は?」

「さぁ?」

「……」

「――あっ! 確か、特殊な場所だからと聞いた筈です。 そう教えられた気がします」

「……」


 細かい部分が杜撰なユニファーの説明に、ここまでの話も信憑性が薄れてしまう、だが、一旦は話を続けようと思う。


「では最後に……何故この話を俺にする?」

「そ、それは……」


 言いづらそうにしながらもユニファーは話を続けた。


「実は……、私にはある目標がありまして……」

「……続けろ」

「それが……ドラゴンの全討伐なんです」

「確かに、あの力を見せられれば可能かもしらんが……何故だ?」

「ドラゴンを倒すことこそが、人類の未来へと繋がると考えているから……それが私の使命だからです」

「ドラゴンを倒す事がか?」

「……魔物ってあるじゃないですか」

「あぁ、ハンターが倒すべき危険な生物だ」


 ハンターにとって、それ以外の奴より馴染み深い存在でもある。


「その魔物が潰えない理由に、ドラゴンがあるからです」

「は? 説明を頼む」


 ユニファーの言う通り、どれだけ大規模な討伐をが行われても魔物の目撃が途絶えたという話は聞いたことがない。故にハンターという職業の需要も潰えないのだ。


「ドラゴンの発生させる魔力磁場によって、他の世界から現れた異物……それが魔物と呼ばれる存在だからです」

「――何!?」

「そのドラゴンも異世界から何らかの理由で来た存在と言われています。 そしてそれが現れて以降、魔物が出現する様になったと……」


 確かに、魔物はある一定の時期からその存在を確認され、それ以前の歴史には存在しなかったという説が有力だと言われている。


「私が……私だけが成せるドラゴンを全員倒す、それが私の使命です。 その為は私にはまだ実力が足りません」

「……」

「だからこそ、私は早く強くならねばなりません。 そのアドバイスをご教授願いたいと……」

「それで、実力者を探していたのか」


 前のめりに「師匠!」と教えを乞うていたのはそれが理由だったらしい。


「……大体の理由はわかった」

「では、もう少し私に教えを――」

「待て。 その前に追加でもう二つ質問だ」

「は、はいっ……」

「今の話から、お前がドラゴンの前で凄まじい力を発揮できるというのは理解した。 だが、その倒すべきドラゴンの場所はわかるのか?」

「はい……。 私の集落で渡された地図に、ドラゴンの場所が記されています。 それと、私はドラゴンからすれば同族の気配であると感じられるそうなので、近づけば向こうから来てくれる……筈です。 ドラゴンは縄張りを特に気にするそうなので……」


 このドラゴンが現れたのはそれが理由だったらしい。それならそれで俺としては不満があった。


「俺も危険に陥ったんだが?」

「す、すみません! 本来この森からずーっと向こうの渓谷にを根城にしてるので大丈夫かなーと……」

「たまたま近くに来ていたのか、その地図の住処が誤りか、根城を変えたのか……。 はぁ……、どの道この森を訓練に選んだのは俺の判断だから、責めるのは筋違いだったな」


 俺は一人でに納得してから、話を続けた。


「で、だ。 お前は俺に幾つかハンターの心得えを聞いた後、どうするつもりだ?」

「それは勿論、ドラゴン討伐の旅に出ます! 思いがけず一体倒せましたが、まだ他に――」

「待て待て。 ドラゴンってのは人里から離れた地に住んでるだろ? そこまでお前はどう行くつもりだったんだ?」

「それは、ハンターになって危険地帯侵入の許可を取れます、よね?」

「あぁ、相応の実力があると認められればそうだな。 だが、お前はドラゴンの前以外では現状下の中程度の実力しかないだろ?」

「うっ……! それはこれから実力を付けて――」

「何年掛かる。 ハンターってのはそう単純なものではないぞ」


 俺はこう見えて、五ツ星ハンターとして最上位に位置している。だからこそ正直な感想を述べる。


「そのドラゴンの力だけなら、この世の誰もお前に勝てないだろな。 だが、それ以外のお前の実力は何年掛かっても良くて三ツ星だな」

「ううっ……。 そんなに見込みありませんか?」

「あぁ、残念ながらな。 ハンターってのは様々なものが求められるんだよ。 んで、そんな奴がどうやってドラゴンの住む僻地へと行くんだ? 今回みたいに向こうから来てくれるとは限らないだろ」

「うううっ……」


 そも、実力主義であるハンターで四ツ星以上に到達できる人間は限られる。大抵が才能がなくて挫折したり、運悪く負傷や死亡でハンターを止める事を強いられる。残酷で厳しい世界である。


「精々、道中おっ死ぬか。 それだけの実力を付けられずに全盛期を終えるか……だな」

「ううううっっ…… そこまではっきり言わなくても……」


 ビッグフォレストバタフライすら捉えられなかったこいつが、大成する未来が見えないのだがら仕方ない。


「だが、それらを解決させる方法が一つある」

「そ、それは……?」

「仲間を見つけるんだ」

「仲間……」

「そうだ。 ……例えばの話だが、俺がお前をドラゴンの門前へと引っ張っていく。 で、お前がドラゴンを倒す……ってのはどうだ?」

「師匠が……? いいんですか!?」


 これまでの話が嘘でないなら、俺の目的と重なる部分があると感じる。実に打算的な理由による申し出だった。


「あぁ、ドラゴンが居なくなれば魔物をこの世から消し去れるんだろ? なら協力してやる。 それに、わざわざこの地で俺が何かを教えてやるよりも道中教えながら旅をした方が効率的だろ?」

「師匠……! はいっ! 宜しくお願いします!」

「あぁ、ドラゴンを全員倒すまで……だけどな」

「はい!!!」


 こうして、俺とユニファーの旅が始まる事となった。


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