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凄腕ハンターと竜殺姫  作者: ヒロナガユイハ
第1章 竜を狩る少女
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第3話 森とビッグフォレストバタフライ


 森の中を暫く進んでいると、次第に人の入った形跡が薄れて足場が悪くなってきた。

 浅い部分であればハンターでなくても何らかの用で踏み入ることがままあるが、此処いらから先は道が狭まってくる。勿論の事、魔物が現れる地点でもあった。


「……あ、師匠! お花畑と大きな蝶が沢山です」

「ビッグフォレストバタフライだな。 近い時期に討伐が行われなかったのか、大量発生しているな」

「これも魔物ですよね?」

「あぁ、特に敵対行動はしてこない相手だがな」

「それなら別に無理して倒す必要はありませんかね?」

「いや、このまま放置し続ければ増えたこの魔物が大地の栄養を根こそぎ奪い去って、辺りは不毛の大地と化すだろうな」

「――!? 倒しましょう!」

「そうするとしよう。 それに、訓練にももってこいだしな。 試しに倒してみろ」

「わかりました! 私の剣、見ていてください!」


 俺の言葉に張り切った様子でユニファーは剣を抜く。そして近くを飛んでいた蝶に切りかかった。


「ていっ! はっ! とおっ! ――逃げるなー!!!」

「……ふっ」

「あーっ! 今、師匠笑いました!? 笑いましたね? 酷いです!」


 怒った様子のユニファーだが、迫力に欠けるのも相まってさらに笑いそうになるが、それには耐える。


「あぁ、すまん。 あまりにも予想通りな結果に思わず、な」

「予想通りって何ですか!」

「……ビッグフォレストバタフライは敵対行動こそしてこないんだが、攻撃を避けるのに長けていている。 重い剣をただ振り回して当てるのは厳しいだろうな」

「ひ、酷いです……。 私……、剣を振るしか出来ませんよ?」


 その年で満足に剣が振れるだけでも十分ではあるが、それ一本でハンターを続けていくのはつらいかもしれない。だが、剣だけでもやれることはある。


「確かに剣で狩るより別の手段を用意するのが定石だ。 だが、別に俺は剣で当てるのを無理とは言ってない」

「なら、どうするんですか?」

「見てろ……」


 俺は剣を抜いてじっと構える。いざ攻撃が飛んできたら回避すればいいと言わんばかりに悠々と目の前を飛ぶビッグフォレストバタフライに、一度剣を右から振ると見せかけて左から剣を振り被った。

 思いもしない方角からの攻撃に、避けられなかった蝶は胴体を縦に切り裂かれる。


「おおっ! 今のは何ですか?」

「唯のフェイントだ。 端っからそのつもりで動けば案外こうした動きは簡単に出来る様になる」


 そう教えながら、俺は真っ二つにした蝶の鮮やかな翅を持ち上げる。


「綺麗、ですね」

「この手の模様は苦手な奴も居るらしいがな。 こんな感じで翅に傷を付けずに倒せれば装飾品の素材として値が付く。 大量発生する事が多く、慣れれば簡単に倒せるから大した額にはならん。だが、新米ハンターの時分には気にしておけ」

「お金には困ってませんが――」

「どこから出た金かどれだけ資金があるのかは知らんし聞きたくもないが、ハンターをやって収支がマイナスになるのだけは避けろ。 どんな富豪だろうと金は無限じゃないだろうし、ハンターってのはどんな時に怪我で続けられなくなるかわからない。 稼げる時には稼いておけ」

「……はい、わかりました。 そうですよね」


 この年齢でさらに女性がハンターを志すというのは、何らかの事情なり目標なりがあるものであると思われる。それらは俺には関係ない話だが、今この場では師匠として教えるべき事は教えておきたかった。


「……取っとけ。 俺は依頼料を別で貰えるからな」

「ありがとうございます」

「よし……それじゃあ、ある程度間引くぞ」

「わかりました、師匠!」


 ユニファーが一匹も倒せず苦戦している間に、俺が次々と倒して進む。そうこうしているうちに、ビッグフォレストバタフライはこの花畑のから姿を消した。


 ……


 花畑を抜けてさらに森の道を進む。既に人の移動に適さない険しい獣道で木の根を踏み付けながら歩いていた。


「師匠、何処まで進むのですか?」

「もう少しすると崖が見えてくる。 その近くは木が生えていない平地になっているからそこで休憩したら引き返す予定だ」

「……戻ったら、師匠ともお別れですね」

「今日一日の依頼だからな。 だがまだ半分だぞ? 感傷に浸るには早いな」

「……そうですね」


 最初に会った時は余所余所しさがあったユニファーだが、気が付けばその距離はかなり縮まっていた。元来人懐っこい性格なのだろう。妙に懐かれたものだ。


「……見えてきたな。 あの崖の前で野営の準備をするぞ」

「……はい」


 半々で持っていた野営の道具を広げていく。あくまで一時休憩のみで一晩過ごすつもりもなかったので荷物量は多くない。


「食料は持ってきているが、森の場合、余裕があるなら現地調達が主だ。 食せる物の知識はあるか?」

「山奥の村出身ですし、食べ物の勉強はしています」

「……そうか。 それなら食料調達を頼む、俺はテントを設営しておくからな。 この後森を抜けて戻るのを忘れるなよ? 腹を一杯にすると動けなくなるから調達は程々にな」

「承知しました、師匠……」


 終わりが見えた事で、途端に元気を失っている。だが、泣いても笑っても俺が面倒を見るのは今日限りである。

 俺を見た先輩連中もこんな気持ちだったのだろうか。柄にもなく俺も昔を思い出しながら野営の準備を続けていた。


「……ん? 雲、か……?」


 そんな折、日の光が遮られて周囲が影に覆われる。


「し、師匠! 上を――」

「な、んだ!? ありゃあ……」


 ユニファーが指を指す上空を見ると、巨大な影が空を覆っていた。

 その影は翼をはためかせ、姿勢をそのままに首だけを俺達に向ける。


「あれは……」

「――ドラゴン!?」


 ハンターの間では出会ったら最後、命はないと伝えられる最強の魔物だった。


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