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凄腕ハンターと竜殺姫  作者: ヒロナガユイハ
第1章 竜を狩る少女
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第1話 ソロハンターと新米ハンター


「やりました師匠! 師匠の教え通りで倒せました!」


 元気そう且つ能天気なユニファーは、ここ数時間と同じ調子でそう俺に声を掛ける。


「あ、あぁ……」

「こんな感じでハンターは、魔物を倒してるんですね!」

「あ、あぁ……」


 彼女の初めての討伐である。嫌々だったとはいえ一日限りの師匠を引き受けたからには、喜ばしいと褒めてやる場面なのだろう。

 俺が師匠となるのは初めてだが、遠い記憶で俺も師匠にそう褒められたものだ。それがハンターにとっての普通なのだろう。


「それで、この魔物はどう運びましょうか?」

「あ、あぁ……」

「こういう時はどうしてるんですか?」

「あ、あぁ……」

「師匠……?」


 そう、彼女の足元――と呼ぶには聊かデカすぎる死体を除けば、であるが……。


「でも、こんなに弱いドラゴンなら、そんなに素材は高くなりませんかね……?」

「あ、あぁ……」

「やっぱりですか……」

「あ、あぁ……」


 どうしてこうなった……?それは数時間前の出来事だった。


 ―


 ――


 ―――


 ――――


「新人の教育だぁ?」

「頼みますよー。 ロホセレインさん、今日、特別予定はなかったですよね?」


 ハンターギルドで受付嬢に呼び出されると唐突にそんな話をされる。


「だからって俺はそういうの受け付けてないって散々話してるだろ?」

「まー、今やジャムリック一のハンターですからねー」

「そんな大層な者じゃないが、な」


 この世界には魔物と呼ばれる凶悪な生物が存在する。特に人間に対してのみ凶暴性を発揮するその生物駆除の為、ハンターと呼ばれる職業が存在した。

 時に依頼を受けて出現した魔物退治しに、時に魔物を倒した素材目当てに郊外へと赴き、身一つで戦う戦士である。

 そんな片田舎の小国ジャムリックでは、辺境に位置する事もあって魔物の脅威に常に晒されている。そんなこの国で、それなりに成果を上げ続けている俺の名はロホセレイン。ハンターギルドに所属している流れのハンターだった。


「つったって、俺にガキの護衛をさせんのか? 柄じゃないんだが……」

「頼みますよー。 元々予定していた方が体調不良で急遽来れなくなったんです」

「知らんな」

「そこを何とか! 辺境の村出身でお偉いさんとコネがあるとかで、穴は開けられないんです」

「別に手が空いてる奴なんて他に居るだろ」

「相応の実力者をご所望なのです。 ロホセレイン程のランクとなれば代わりはそう居ないんですよー」

「……どうだかな」


 自分で認めるのも変な話だが、この辺りじゃ俺より優秀なハンターはそう居ない。それは疑いようのない事実ではあった。


「お願いしますよ!」

「……報酬は?」

「そりゃあもう、突然のお願いですから弾みますよ? ……これぐらいでどうです?」


 上級ハンターのが遠征した際に中々だったという金額を計算機で弾き出して見せられる。


「……お偉いさんと深い奴の面倒を見なけりゃならんのだろ? それなら……これくらいだ」

「それは……。 うーん、拒否できない絶妙な額を提示しますねー」

「嫌ならこの話はなしだ」


 吹っ掛けられるギリギリの額を提示する。多少質素な生活をするなら四人家族が一月は生活出来る程度なので、一日で得られる報酬としては破格だろう。

 だが、魔物退治で面倒を見るというのは見られる側もそうだが、見る側も危険が伴う。それに俺はこうした面倒を見た事がないので、断られたらそれでも構わない。ただし、稼げる時は稼ぐのが俺のポリシーだった。


「……はぁ、それで構いません。 ギルドマスターも渋々納得するでしょう」

「じゃあ、依頼書は頼んだ」

「準備はしてあります。 額は今記入するので暫しお待ちを」

「……で、その新人ってのは何処に居るんだ? 時間からしてもう来てるんだろ?」

「来賓室代わりにギルドマスターの部屋でお待ちになって貰っています。 ギルドマスターは不在中ですしね」

「あぁ、わかった」

「……ちょっと、依頼書は――」

「受理のサインで預かっていてくれ。 受けると答えた以上は役目はこなす」


 俺はそう言って、受付嬢をあしらうとギルドマスターの部屋に勝手に入る。

 扉を開くと、一人の少女が呑気にソファに座っていた。新人に関して聞いてなかったが、まさか女性だったとは……。


「お前が新人ハンターか?」

「誰ですか? 事前に聞いていた人、じゃないですよね?」

「誰かは知らんがそいつは病欠で、代わりに俺が宛がわれた」

「あ、そうなんですか……」


 そう言って立ち上がった少女の恰好をまじまじと見る。

 いかにも動き易そうな半袖のシャツに、ハーフパンツ。その端々から見える肉体は、年若き少女としては相応に鍛えられているらしい。その上から制限にならない程度に革製の防具を付けている。


「……不合格だ」

「えっ……?」

「不合格だと言っている。 誰に言われたのか知らんが、その恰好はハンターを舐めているのか?」

「あれ、動き易い恰好でと言われていたのですが間違っていましたか?」


 不思議そうなその少女に淡々と説明をする。


「そこまで素肌を晒すなんてのは三流のハンターだ。 魔物の中には毒を扱う奴も存在する。 仮に布を挟んでいれば防げた毒で死んだハンターを何人も俺は知っている」

「……」

「慣らすなら最初からしっかり着込め。 それで変な癖が付いたら元も子もないだろ」

「……成程、そうして教えてくれる方は居ませんでした。 ご教授ありがとうございます。 えぇと……」

「ロホセレインだ」

「ロホセレインさん……? それともレインさんとでもお呼びした方が……」

「いや、少なくとも今日一日は師匠と呼べ。 俺も新米の時は先輩ハンターにそう言われた」

「……ハンターの文化というものですか。 わかりました、師匠」

「あぁ。 で、お前は?」

「ユニファー・ドラリースと申します。 ユニファーとお呼びください」

「……家名持ちか」

「あ、そうですね。 外では家名持ちは珍しいんでしたね」


 そういう特有の風習でもあるのだろうか。少なくとも家名持ちはお貴族様か極々一部の人間だろう。


「よく知らんが、公の場を除いて表では家名は名乗るな。 面倒な貴族にでも目を付けられたら敵わん」


 貴族の中には選民思想とでも呼ぶべき考えでもって、家名の有無一つでもキレだす輩も存在する。今日だけの関係だが、そんなくだらない理由で死なれては目覚めが悪い。


「そうしておきます」

「それで、武器は?」

「これです」


 そう言ってユニファーは、腰に差した装飾の激しい剣を取り出す。


「……実用品なのか? ちょっと貸してくれ」

「どうぞ」


 手に取ってみると、豪華な柄と比べ、刃の部分はかなり年季が入っていた。剣は使えるかどうかの判断の知識しか持ち合わせていないが、それなりの業物であると思われる。


「それ、故郷に伝わる剣特別な剣なんです」

「……一目見た時はどうかと思ったが、こいつは合格だな」

「ふぅ、良かったです。 流石に剣も新しくといわれたら困りました」

「武器は高いからな」

「あ、お金は大丈夫なんですが……幼い頃からこの剣で訓練してましたので」


 お金は大丈夫と即答できるのは、是非とも肖りたいものである。


「そうか……。 それなら振れるんだな」

「はい、任せてください!」


 よく見れば、豪華な装飾の割に使い込まれた形跡と、手入れされた痕も存在する。

 一目で侮ったのは誤りで、案外この少女は努力家なのかもしれない。


「……まぁいい。 兎に角、装備を新調するぞ」

「わかりました、師匠!」


 受付で依頼の受理が正式になされたのを確認した後、俺はユニファーを連れて装備を整えられる店へと向かった。


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