霜月の時計を止めたい私
「はぁああ」
放課後、教室の机で私は大きなため息をついた。
「ミキ、そんなに大きなため息を付いたら、幸せが逃げちゃうよ」
前の席に座るサクラから、おばあちゃんの独り言のような台詞を言われた。
「今どきそんなこという女子高生いないから。そういえば、サクラはおばあちゃんっこだったっけ?」
「残念、おじいちゃんっこでした」
「一緒でしょ?」
「違うから!」
「くだらな」
教室の後ろの方の席からぼそっと呟いた声は、ジュンタだった。まるで私に言っているように聞こえた。
「どうせくだらないですよ。サクラ、帰ろう!」
「うん、ジュンタくんバイバイ」
「おう」
私とジュンタは幼馴染だった。サクラはジュンタに一言告げて私の後を追って教室をでた。自転車置き場まで来てから、私は唐突にサクラに聞いた。
「あのさ、サクラはさ、ジュンタのことどう思ってんの?」
「えっ?」
サクラは突然のジュンタの名前がでたことに驚いて声がひっくり返ってしまった。
「突然なに?」
「だって、なんとなく見ていてそう思ったんだもん」
少しだけ責めるような言葉になってしまったように思えたけど、サクラの顔がみるみる赤くなるのを見て、さらにきつい言い方になってしまった。
「あー、うん。ちょっと気になってる」
「あいつのどこがいいんだか」
なんとなく感じてはいたけれど、実際サクラの口から聞いたら心がズキズキしてきた。私、認めたくなかったのかなのかぁ。
「ミキは幼馴染だからいいなぁ」
サクラから羨ましそうな目でみられた。私だってジュンタが羨ましいわ。
「逆じゃない?幼馴染って恋愛感情とか、全くわかないからね?少女漫画じゃあるまいし」
「そうなの?とかいって本当は…みたいな?」
「ありえない」
私とサクラは吹きさらしの自転車置き場で話していた。
「ミキ、手寒そう。ほら、冷たい」
突然、サクラは私の手をにぎってきた。私の心は春のようなあたたかさと同時に苦しさをおぼえた。
「サクラの手、あったかいね」
「手袋、使う?」
「うん、ありがと」
こんなやりとり、女友達同士なら普通のことだと思う。ただ、私はサクラに恋をしていた。サクラのことが好きな自分を隠して、サクラとジュンタとうまくいけば、きっとこの恋も終わらせられるかもしれない。このときの私はまだ本当の恋の苦しみも痛みも知らないでいた。