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第1幕『人馬一体とは云うが此れ如何に』


 大小様々な日焼けが目立つフローリングの、広さは六畳間ほどの空間は誰から見ても掃除が行き届いていた。それでも僅かばかり漂う小さな埃が、天窓から射し込む陽の光に照らされ煌めく。

 一見何もないその部屋に相対する配置で置かれているのは、逆さの花瓶に百合が生けられ支えている妙な脚のデザインをした白のサイドテーブルと、サイドテーブルの上にある物、その洒落たサイドテーブルとは不釣り合いなパイプ椅子が一脚。

一言で表すのならば、異様。


 統一性の欠片もないその場に於いて、パイプ椅子に深く腰掛けるのは若干白髪が見え始めたそれでも顔立ちが良い中年の男。


 男は静かに足を組んだままの体勢で、ただただ飽きることなくサイドテーブルの上に鎮座する『それ』を眺めていた。まんじりと男が見つめる先、空から注がれる陽をたっぷりと浴びながら角の四隅にはこれまた繊細な刺繍のレースをあしらわれたクリアケースへ仰々しく納められ、白百合色の輝きを放つ『それ』。

 小一時間だろうか。一頻り眺め満足したのか、男は徐に立ち上がり部屋の外へと通じる扉へ手を掛ける。しかしやはりどこか未練がましくドアノブへ手を掛けたまま『それ』を見つめ、見つめて、魅入られて──漸く、その場を後にした。男が立ち上がってから実に四十分程であった。


 白のサイドテーブルのクリアケースの前に、先程出ていった男の書いた字であろうか。あの顔立ちの良い雰囲気に似つかわしい武骨な字で綴られた木札があった。



『女神の頚』



 電飾の無い部屋。唯一の明かりである天窓からの暖かな光は、クリアケースへ納められた白百合色の輝きを放つ『それ』──頭蓋骨のみを照らす。




 何も映す筈のない飾られた頭蓋骨の空っぽの瞳から、ころん、小さな真珠が一粒落ちた。




***




〖ケンタウロス〗


ギリシア神話に登場する半人半獣の種族の名前。馬の首から上が人間の上半身に置き換わったような姿をしている。

好色で酒好きの乱暴者と記されすことも多いが、彼等は決して野蛮ではない。

主な武器として槍、棍棒、弓矢といった騎乗兵にとって相性がいいものが多い。特に創作作品において弓矢が根強い人気があるとかなんとか。


普通に走れば馬と遜色ない素晴らしい走りを魅せることが出来るのだが……、身体の構造上、あの個体が何を思ってブリッジをしたのか、そも何故なにゆえ可能だったのか、神のみぞ知る生命の神秘とも言えよう。





                 (諸説あり)





***




 佐伯さえき よしのりと名乗る赤メッシュを入れた黒髪少年、ブレザータイプの制服に意外や意外綺麗に結ばれた学年別で色が分かれる見慣れた校章が刻まれた青のネクタイをするこの後輩を、─ 今回の依頼人である ─ 同じ高校に通っている二年のあたし、海吉みよし なぎは少なからず知っていた。

(関係ない話だが我が校は現在三年が赤、二年が緑、一年が青と色分けされており服装は男子紺色ブレザー制服とネクタイ、女子はワンピースタイプの紺色制服と紐タイである。色はローテーションのため、来年入学してくる新入生は赤色。紐タイは赤の方が可愛いから正直言って羨ましい。)


 知っている、と言っても同じ高校に偶然入学してきた地元のそこそこ有名な家の金持ボンボンち、ということぐらいで実際会うのも喋るのもこれが初めて。



 さてさて。話はいきなり変わるのだが、あたしはあまり人様に大っぴらに言えない怪しいバイトなるものをしていたりする。学校がバイト禁止!ではないから隠す必要はないっちゃあないのだが、かといって俗にいうお巡りさんのお世話になる様なものでもない、が、ぶっちゃけ人に考えもなし容易に話すとそれこそやれ病院だ、やっぱり警察に通報だみたいな方向に成りかねないのも事実。

 バイト先の上司兼社長から依頼人との待ち合わせ場所だと送られた通話アプリの画面に記された場所…、もといここ二年通い慣れきった我が校の裏門。居たのはこちらへガンを垂れる件の依頼人。漫画でよく見る噛ませのヤンキーやん、口にしなかったあたしを誰か誉めてくれ。

 相手の名だけ名乗る簡単な自己紹介だけ済まさせて、詳しい依頼内容は事務所で聞きたいからと事務所のある商店街を指差し案内するために背を向ければ、


「本当にアンタみたいな奴が、解決出来るのかよ」


 後ろから大量の警戒心に棘を含んだ投げやりな疑問。自己紹介の時も思ったが、コイツ先輩に対して礼儀がなっていない。


「出来ないかもね」


 オブラートに包んで返せ等耳がタコになるほど言われるが関係ない。何故なら後にも先にもこの後輩とはこの依頼でしか関わりを持たないのだから、相手があの態度なら取り繕うだけこちらが疲れるだけだ。


「あっ、凪さーん!やぁっと見つけたッスよー」


 何かを言いかけていた佐伯に言葉を被せ現れたのは隣町の偏差値も高い有名進学校の、これまたある意味有名になった理由であろう今時余り見ることのない白い学ランを金髪 ─百目鬼どうめき はじめがブンブン手を振りながら走ってきた。どっからどう見てもタッパの良い金髪ヤンキーが有名進学校の制服を着ている。なんならガッツリ左耳にはピアスだって開けてる。ちらりと見た佐伯の顔が少し青ざめている。なんとなくその気持ちが分からんでもない。しかしこれが進学校の首席なのか。成績が百位以上なら素行はアレだが服装等はとやかく口出されないのだと、そんなことを成績表を渡されあっけらかんと言われた時も信じられなかった。だからって入学してからずっと普通首席キープするもの?

 然もありなん、あたしは一人頷いた。


「もうっ、俺が決めた依頼なのに一人で勝手に依頼人のとこへ行っちゃうんだから、追いかける俺の気持ちを考えて欲しいッス」

「いやだってまさかの学校の後輩だったし、社長─ 霧嶌きりしまさんから授業終わりにすぐ行けって通知きたから」

「そりゃあ俺が凪さんの為に近場の依頼を選んだッスからね」

「前々から思ってたけど、百目鬼のあたしに対するベクトルなんか可笑しくない?」





 そんな会話をしている時だった───ソイツがあたし達の背後に現れたのは。





 この場合詳しくは不明だが、普通に測るならば体高は恐らく百八十以上。焦げ茶色の光沢のある毛並み。引き締まったと表現しても遜色ない筋肉質な肉体をした馬──の身体に上半身裸の男がくっついている。金髪垂れ目碧眼のちょっと可愛い系のイケメンときた。


「…………おっふ」


 もはや唸り声も出ない。するとソイツ─ギリシャ神話でお馴染みのケンタウロスはしゃがむ?様な動作をしようとし、しようと何度かして。諦めたのかなんなのか、何故なのか皆目検討付かないがブリッジをした。

 右手だけ握り締められたブリッジしたケンタウロスは、逆さになった前髪、目が血走り、段々と息が荒くなっていく。


「……………百目鬼、」

「………ウッス、凪さん」


 現状を把握できていないのは佐伯のみ。彼は〖視えない〗人間なのだと理解する。だからあたし達のいる怪しい事務所を頼ってきたのだと。

 名前を呼べばあたしが言いたいことを分かってくれた百目鬼は自分の左手で佐伯の右手を。あたしは自分の右手で佐伯の左手を取り、了承を取る前にスタートダッシュを決める。



「百目鬼!!塩!!!!」








 そこからは、まあ、あれだ。ネタバレというか一話戻って読んでくれ。あたし達はなんやかんやあって、やっとこさコロッケ片手にボロ事務所へとやって来た。


「ただいまー」


 ぎいぎい鳴る扉を潜れば外観に比べ幾分まだマシな室内。事務所の作りにしては変なものだが、この事務所には玄関がありスニーカーを脱いでペッタンコなスリッパへと履き替える。今日は依頼人が一緒なので一応スニーカーは隅へ寄せる。


霧嶌きりしまさーん、ただいまー」

「おー、おかえり。ご苦労さん」


 応接間の三つあるソファの、ローテーブルの向こう側、所謂お誕生席位置の一番座り心地の良い茶色のソファへ座った右目の上から右頬、顎にかけて傷一線の痕がある、二度三度見してもヤーさんにしか見えないこの男が、我々『よろしく屋』の社長─ 霧嶌きりしま 佳兎けいとはテーブルの上にお茶を人数分淹れて待っていた。


「いい感じに淹れたから全員座れ」


 あの見た目で趣味は茶道。あたしの周りは見た目とのギャップが激し過ぎる奴しかいないのか。

なあ、オレの分のコロッケは?そう言われるのが分かっていたのであたしは鞄の中からちょっとしなしなになった衣のコロッケを手渡した。


-続-


好きなように書いてます。

久々過ぎてタグ付け?がよく分からん今日この頃。

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