第98話「諜報」
次の日、俺とティファナは再びナンケイのギルドを訪れていた。
とりあえずダメ元で王様への直訴を狙うためだ。
ちなみにシェリィとルナは何か調べものがあるとかで別行動になった。
あいつら絶対何か企んでいる。
ギルド長に面会を求めると、前と同じように別室に通される。
「国王への拝謁を願いたいんですが、取りなしてもらえませんか?」
突然の頼みにギルド長は少し困惑していたが、やがて口を開いた。
「まあ……献上品の進呈などの理由があれば、拝謁が叶うこともありますが、滅多なことでは一般人は拝謁できませんよ」
「金二つ星冒険者って肩書きで、なんとかなりませんかね」
「うーん……正直、この国ではギルドはそれほど強い力は無いんです。軍事国家ですから、軍部が何より権力を握っています。ちなみに、国王陛下は今も御病気なので、滅多に人前においでになることはありません。ほとんどの実務はタン・ルー大将軍が指揮しているようなものです」
やはり、ダメか……。
「何年か前までは国王様もお元気だったのですが、最近ではすっかり民衆の前にお姿を見せなくなってしまっています。王宮の中のことは、我々にもよく分からないのです」
ひとまず、ギルド長に「金二つ冒険者マモル・ホンジョウがリュウシャン国を訪問しているため、国王に拝謁を求めている」という旨の推薦状を書いてもらうことを約束し、ギルドを後にした。
この推薦状で国王が関心を持ってくれるかどうかは、本当にタン・ルー含む側近の気分次第らしい。
ギルドが大した力を持っていないというのであれば、期待はしない方がよさそうだ。
ギルドから出て、しばし街中を散策する。
中央の商店街を歩く俺たちは、明らかに視線を感じていた。
「つけられてるな」
「え?そうなの?どこから?」
「振り向くなって。気付かれる」
「おっとゴメン。どうすればいい?」
「このまま普通にしてるさ。変なことしないかどうか探ってるんだろ。飯食おうぜ」
今日の昼食に選んだ店はこれもナンケイの名店の一つ、「餃子の玉将」だ。
ネーミングは王様に配慮してひとつ格下にしたらしい。
なぜそんなことが分かるのか。
というのもこの国はよっぽど食に自信があるのか、各名店が記されたガイドブックのような冊子がある。
この街に入った時に、旅人全員に配られるものだ。
先日の「太陽楼」もこれに載っていた店だ。
「おお……餃子ジューシー……」
「この拉麺って料理、たまんないね!」
「うん、鶏ガラのスープだな。王道だけどしっかりコクがあって、かなり上等だわ」
「マモルさん詳しいね。拉麺食べたことあるの?」
「あ……うん、毎日のように食べてたな (……元の世界で)」
その後、俺とティファナは再びリンちゃんの屋敷の近くに来ていた。
ちなみに尾行は鬱陶しいから撒いた。
というよりこれから先の行動は知られたくなかったからだ。
さりげなく路地に入ったところで、浮遊で隣の道まで家を飛び越えてやった。
屋敷の塀の外にある木に登り、中の様子をうかがう。
今度は正面から乗り込むのではなく、物陰からリンちゃんの部屋を観察する。
その姿は傍から見たらまんまストーカーだ。
「ティファナ、ボウガンであそこまでロープつないで狙い打てる?」
「そんなことなら楽勝だけど、どこ狙うの?」
「ほら、あそこ」
俺が指さした先、リンちゃんのいる部屋の上……には、煙突。
昨日入った時に確認したのだが、リンちゃんがいた部屋には、中華風な家屋には似合わない洋風の暖炉があった。
リンちゃんが自室に特別にしつらえたのだろう。
「あの煙突にロープ引っ掛けることができれば、そこから入れるよな」
「でももし暖炉使ってたら燃えちゃうよ?」
「昨日は使ってなかったし、今も煙出てないから、大丈夫じゃないかな。最近そんな寒くないし」
「よし、じゃあ……夜にまた来るのね」
「うし」
夜、宿に戻って。
シェリィとルナが何をしていたのか聞いてみたら、教えてくれなかった。
「まあ、楽しみにしておけ」とシェリィの弁だ。
明らかにこのババアは何か良からぬことを考えている。
ルナがそれに便乗しているからまあ法に触れるようなことはしていない……と信じたい。
俺とティファナが屋敷の偵察をしたこと、今夜侵入を試みようとしていることを話し、意見を求めた。
目的は何かとシェリィに尋ねられたが、リンちゃんの説得くらいしか浮かばなかった。
要するに、ただ単にリンちゃんに会いたいのだ。
シェリィには呆れた顔をされたが、ルナは「マモルさんらしいですね」と笑った。
一旦は撒いた尾行だが、拠点の宿は知られているので、窓の下には明らかに隠密の気配があった。
ヤン家か、ルー家の手の者か。
こいつらに気付かれないように宿を出なければいけない。
またレビテイションを使って、隣の建物の屋根に飛び移って行くことにした。
「ねえ、マモルさん」
部屋から出る直前に、ティファナが声をかける。
「ん?」
「あのさ、マモルさんのそのレビテイションって、どのくらい飛べるの?」
「ああ……本気の全力はまだ試したことないけど、今日の昼間みたいに軽く家くらいは飛び越えられるかな」
「だったらさ、わざわざボウガンでロープ張らなくても飛んで行けんじゃないの?」
「あ……」
ティファナの的確な指摘に、ぽりぽり頭を掻きながら自分の間抜けさを嘆くしかなかった。
昼間の偵察の意味よ。
一人、闇夜を行く。
腰にでんでん丸を提げ、黒一色の衣服。
居合道着の袴の裾をブーツの中に入れ、口元を黒布で覆い、闇夜に紛れる忍者スタイルだ。
リンちゃんのいる屋敷まで、屋根の上を飛びながら最短距離で進む。
辺りを警戒するが、追手はいないようだ。
昼間と同じ木に登り、同じ角度でリンちゃんのいる部屋を眺める。
灯りは、ついている。
周囲を警備する兵士は、敷地の中に数名の影。
気付かれないように侵入し、リンちゃんの元へ……。
こんなゲームあったな、昔。
「天誅」だっけか。
「天誅」ってPSでしたっけ?
【当面の目標100ブクマ】
★評価、ブックマークいただけると感激します★




