第96話「強行」
翌日、俺たちはヤン家の館の前に立っていた。
地図で確認した通り、立派な屋敷の前面には大きな門、その鉄柵から覗く先には庭園が広がっている。
昨夜遅くまで対策を話し合ったが、結局出た結論は「正面から説得に行く」という至ってシンプルなものだった。
例えこの国のためであっても、リンちゃんが望まない結婚をしてこの旅を断念するなんて許せなかった。
このまま顔も見ずにお別れなんて、誰も望んでいない。
厳重に閉じられている屋敷の門の前で、声を発する。
「俺は金二つ星冒険者、マモル・ホンジョウだ!ランファ・ヤンと面会したい!開門願う!!」
しばらく叫び続けると、門の向こう側から2名の兵士が走ってきた。
俺たちを睨み、槍を構える。
「マモル・ホンジョウ!旦那様から貴様らが来ても追い返せと厳命を受けている!大人しく退け!」
「……退くわけねえだろ。リンちゃんに会わせろ!」
柄に手をかけ、兵士を睨み返す。
かわいそうに、俺の殺気を受けて兵士たちは脂汗を垂らしている。
「う……しかし開けるわけにはいかんのだ!!」
「ぐぐ……貴様ら、これ以上狼藉を重ねると捕縛対象になるぞ!」
哀れなくらいの遠吠えをされるが、構わず門に近付き、柵を挟んで兵士たちの眼前に立つ。
しかしこの国の兵士はうぐうぐ言うのが好きだな。
「開けないなら、この門、壊すけどいいか?リンちゃんを連れていくまで絶対に退かんぞ」
そう言って鯉口を切ったところで、後ろから一台の馬車が近付いてきた。
馬車は問答する俺たちを気にも留めずに門の前まで進み、門兵に向かって御者が開門を促した。
「大将軍が次男、フー・ルー様の御到着である!開門せよ!!」
その言葉を聞いて、兵士たちは俺たちの相手をしていたことも忘れて慌てて門を開けた。
馬車が門を越えたどさくさで、俺たちも続いて門をくぐった。
「ちょっ……ちょっと待て!貴様らはダメだ!!」
「うっさい」
シェリィがドーンと土の壁を盛り上げ、例のアースプリズンで兵士たちを土檻に閉じ込める。
「きっ……貴様らぁ!こんなことをしてただで済むと……」
「うるさいですよ」
ルナが眉間に怒りマークをつけた上でニッコリと笑いながら兵士たちに言うと、兵士たちは黙ってしまった。
「ルナ、こわ……」
ティファナはその後ろをそそくさと追った。
先を見ると、館の入口まで進んだ馬車から、屈強な護衛に続いて男が降りていた。
背は低く、丸々と太り、身に付けた着物がはちきれんばかりだ。
大将軍の息子ってことは、こいつが、リンちゃんの婚約者……?
あっちの世界の、どこぞの将軍様みたいだ。
そりゃ、逃げるわ。
メイドたちの出迎えを受け、2人の護衛を伴って屋敷に入ろうとするところを、俺たちが止めた。
「俺たちもご一緒させてもらいたんだけど、いいかな?」
俺の言葉に振り返った男は、黒い髪が脂ぎってウェーブし、額に汗を滲ませていた。
「な……何かな?君たちは!僕は大将軍の息子だぞ!無礼は許さんぞ!」
両サイドの護衛が腰の剣に手をかけ、俺たちを睨む。
「リン……ランファの連れだよ。会いに来たんだろ?俺たちも同じだから、一緒に行こうぜ」
「何者だ貴様らぁ!!」
2人の護衛が同時に一足飛びで俺に斬りかかってくる。
俺は斬りかかるのが一瞬速かった左の敵の方を向き、迎え撃つと思わせておいて間髪入れずにその斬撃を避け、同じく俺に刃を振り下ろそうとしていた右の敵の顔面を峰打ちで叩いた。
「ぐあっ!」
そして間をおかず左の敵に向き直り、その首元を叩く。
「うぐっ!」
無外流 五応 両車———。
2人とも、力なく剣を落として膝をついた。
「今のは専守防衛だぞ。先に斬りかかってきたのはそっちな」
刀を鞘に納めながら一応正当防衛であることを言っておく。
何の効果もありゃしないと思うが。
その様子を見て、馬車の御者は慌てて門の外へ逃げていった。
「で、フー君だっけか?いいよな、一緒に行っても」
呆然としているフーの肩をぽんと叩き、俺はメイドに向かって案内するよう目で合図した。
屋敷の中は中華風?と言うべきか、龍の彫り物やいかにも高級そうな絨毯、壁にはあらゆる武具が飾られていた。
俺はフー君と肩を組んでメイドの後を進み、ルナたちはそれに追随する。
「今日は、将軍様は御在宅?」
歩きながらメイドに聞くと、答えはNOだった。
「御館様は、本日は王城に御出仕されております……」
メイドも俺にビビりまくっている。そりゃそうだよな。
やっていることは完全に強盗だ。
やがて2階奥の一室の前で、メイドの足が止まる。
「ランファ様、フー・ルー様がお越しでございます……」
コンコンとドアをノックして声をかけるが、しばらく待っても返事が無い。
メイドが改めて声をかけると、ドア越しに小さい声が聞こえた。
「悪いんだけど、今は誰にも会いたくないんで、帰ってもらえませんか」
……リンちゃんの声だ!
「リンちゃん!!」
思わず叫ぶと、すぐにドアが開いた。
「マモル!?」
ドアの向こうにリンちゃんが見た光景は、フー君と肩を組んでいる俺と、後ろにいるルナたち。
さぞかし異様な光景だったことだろう。
わざとらしいくらいの笑顔で「よう」と手をあげる。
「え……っと、どういう状況?これ」
「会いに来た」
「あ、うん……嬉しい。ありがと。でもなんでそいつと一緒なの……?」
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