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第93話「盗難」

【ここまでのあらすじ】


居合道五段である本城護=マモル・ホンジョウは、手に入れた日本刀「でんでん丸」の力で異世界の草原へと飛ばされてしまう。

突如現れた魔獣に襲われて死を覚悟するが、「敵が超スローになる」という特殊能力が発動して難を逃れた。

その後、旅の商人イガル、護衛の女剣士リーリンらと出会い、ナーグル国王都の街へと進む。

リーリンと修練を積み居合道を実戦で使える技に昇華させ、魔法も覚えたマモル。

武術大会優勝を経て美少女剣士ルナ・サザーランドを仲間に加え、「この世界に来た目的を探す」旅に出る。

やがて魔法使い(200歳越えのロリババア)シェリィ・ラバンダと、鍛冶屋の娘ティファナ・ダガーが仲間に加わり、大陸を巡る旅を続ける。

居合道無外流の中興の祖、シリュウ・ナカガワとの出会いと別れを経て、一行は大陸南西の「リュウシャン」の国へ―――。







リュウシャン国境の検問で金星ネックレスを見せ、すんなり通過するはずだったのだが、なぜかそうはいかなかった。

警備の兵はやたら人数が多く、一目見て分かるくらいに殺気立っていた。

「すみませんが、現在厳戒態勢でして、金星冒険者のお仲間であっても全員の方の面通しと、全ての荷物の確認をお願いしております」

兵士が申し訳なさそうに言うので、全員の名を名乗らせた。

ちなみにシェリィは冒険者じゃない上に見た目がガキなので説明に手間取ったが、金二つ星の俺と銀三つ星のリンちゃんの証言によって強引に仲間だと押し通した。

リンちゃんの顔を見て兵士が「……あなた、どこかでお会いしたことが?」とか言っていたのをリンちゃんが慌てて否定していたのが怪しいことこの上無かった。

絶対こいつこの国で何かやらかしている。


さらに、俺の手持ちのでんでん丸と、シリュウ先生の形見の刀を見て兵士がさらにざわつく。

「これは……似ているが、違うか……?」

兵士たちは何やら巻物に書かれた絵と刀を見比べていた。

「違う……な。別物だろう」

絵と刀を随分にらめっこしていたが、結局何でもなかったようで、返される。


「大変失礼いたしました。どうぞ、お通りください」

兵士たちが道を空けてくれたので、俺たちも馬車に乗り込んで出発の準備をする。

乗り際に、厳戒態勢な理由を聞いてみた。

「何があったんですか?」

俺の問いに、兵士は一言で簡潔に答えた。

「初代皇帝の剣が、盗まれたんです」




―――時を遡ること、数週間。

旧帝都カマクラにて。

100年の平和な世で、王宮周辺の夜間警備は非常に手薄なものになっていた。

現皇帝が居住する王宮はともかくとして、敷地内の宝物殿やセントラルタワーに常駐の兵は無く、常時数名組の兵が巡回するのみ。

敷地全体をぐるりと囲む塀の各門には、それぞれ4名の兵が見張りに立つのみだった。

宝物殿に一番近い東門付近、兵たちの間に何やら良い香りが漂う。

この門の見張りは常時2名、詰所に2名が待機している。

詰所の2名はもとより仮眠を許されていたため、その芳しい香りの下、すでに夢の中に落ちていた。

門を挟んで並んだ兵士たちも、大きなあくびをする。

……そして、ずるずると門にもたれ、そのまま崩れた。


その様子を遠巻きに眺めていた黒い影が数名、手信号の合図で素早く門に駆け寄る。

詰所の中から通じている通用口から、いともたやすく王宮の敷地内に侵入した。


門の周りには、壺のようなものが置かれていた。

その壺こそ、眠りを誘う香りの元。

今宵、王宮の周りには、誰にも気付かれないような片隅に無数の壺が置かれ、その全てから同様の香りを発していた。

王宮全体が眠りの香薬に包まれ、心地良い夢を見ている。

敷地内を駆けていく黒い影たちは、芝生に寝転ぶ兵士たちの夢の中にはどのような姿で映っただろうか。


やがて黒い影たちは宝物殿、初代皇帝の剣の前に立った。

彼らは皆、口元を黒い布で覆って香薬を吸わないようにしている。

影の1人がハンマーのようなもので展示ケースのガラスを割る。

ガシャーン!!と大きな音がしたが、駆け付ける兵士は誰もいなかった。

割れたガラスケースの中に手を伸ばし、悠々と皇帝の剣を手にする男。

その男こそ、ウォルフ・ラインハルトだった。


「これが……時を支配した、初代皇帝の剣……!」

野望に満ちた目で太刀を見つめるウォルフ。

「おめでとうございますウォルフ様」

「この剣の魔法を解き明かし、必ずやウォルフ様の天下を……!」

残りの黒い影たちは残らず跪き、ウォルフに頭を下げた。




再び、現在、リュウシャン国境。


「初代皇帝の剣が……盗まれた?」

国境警備がこれほど厳重なのは、そういうことか。

俺の刀をまじまじと見つめていた理由もよく分かった。

あの絵は皇帝の剣の特徴を記したものなんだろう。

同じ日本刀、似ていて当然だ。

あっちが小烏造りじゃなければこの人たちには見分けがつかないはず。

下手すりゃ俺が犯人扱いでとっ捕まるところだ。

とにもかくにも俺たちは無事に関所を抜け、リュウシャン側の国境最寄りの街、ペイソンに入った。


「不穏じゃのう」

「うん、きっとウォルフよね」

「間違いないと思います」

「ウォルフって、誰?」

「ああ、帝都で俺たちを襲ったやつらの親玉。たぶん」

「ちょっと、動向が気になるわね……何する気かしら」

「初代皇帝の剣には、もしかしたらマモルの刀と同じような力があるかもしれんの」

「あのウォルフが時を操ったら……」

「ウォルフ様……」

「だから様つけんのやめなって」



ペイソンの宿に入り、俺たちは今後のことについて話し合った。

ウォルフのことは気になったが、国境の警備が厳しい以上まだ旧帝国内にいることだろう。

とりあえずは、俺たちはこのまま旅を続ける。

後を追ってくるなら、やり合うしかないと覚悟は決めていた。


「まあ、まずは首都ナンケイに向かうのが良いじゃろうな。ここの国は武術が盛んな国じゃ。それに飯が美味い」

「点心?っていうんでしたっけ?聞いたことあります」

「私も、美味しいもの食べたいなー」

「それより、西のシーハイって港町に行って、そこから一気に隣のヤトマに行かない?」

「うーん、首都は見ておきたいなぁ……せっかくだし」

「ナンケイなんてなんも見るとこないよ」

「いやだから美味い飯が」

「シーハイにも似たようなお店いっぱいあるって」

「……おい、リンちゃん」

「え?」

「おまえ何か隠してるだろ。なんで首都に行くのを露骨に嫌がる?」

「え……いや、アハハちょっと、昔の知り合いに会うのが嫌だなーなんて」

「昔の知り合い?本当にそれだけか?」

「や……やだなぁもう!何も無いって!」

「じゃ、次の目的地はナンケイで」

「うう……」


この時、リンちゃんが正直に話してくれていれば、あんなクソ面倒な事態に巻き込まれずに済んだのに……。





リュウシャン国編突入です!これからもよろしくお願いします。



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