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第9話「散策」


「マモルー!起きろーー!」

翌朝、リンちゃんの元気な声でたたき起こされた。

朝に弱い俺としてはこのテンションはきつい。

こいつ昨夜は死んでたのに二日酔いにはならんのか……。

「……いま起きます……」

重い身体をのっそり起こし、顔を洗って目を覚まさせる。

1階の食堂での朝食はパンと、卵焼きのようなものだった。

イガルさんとロズさんは今日から別行動。仕事があるそうだ。

俺はリンちゃんとしばらく2人で動くことになる。

「で、今日は何しようか」

部屋に戻ってお茶をすすりながらリンちゃんに聞いてみる。

デートならこういう時は男からエスコ―トするものなのだろうが、

異世界で初見の街デートなんて、あまりにもアウェー過ぎるから仕方がない。

「やることは決まってるわ。まずギルドに行ってアンタの冒険者登録!そのあとは、買い物!着替えも下着も無い男と一緒に過ごすなんて不潔すぎてイヤだもの。剣の稽古もしたいとこだけど、稽古用の木剣も欲しいわね。さすがに真剣で立ち合いしたらケガするし。時間があったら少し街を見て回りましょ」

「すばらしいプランで御座います」

完全におまかせコースで、ナギの街での一日が始まった。


この街のギルドは昨日入ってきた南側の門の近くにある。

街の外でこなす依頼も多いから、だいたいどこの街でもこういう門の近くの位置にあるらしい。

実際、リンちゃんもナギの街は初めてだそうだ。

ギルドの建物はさすがに大きくて立派だった。石造りのビルといったところか。

入口の大きな扉を開けると、正面に受付カウンターがあった。

左手にはイスとテーブルセットがたくさん並んでおり、何組かの冒険者が依頼とおぼしき紙を眺めたり、仲間と相談したりしている。壁には依頼だろうか、紙がたくさん貼り付けてあった。

リンちゃんに引率されて受付カウンターへ向かう。

受付にいたのは若いお姉さんだった。どこの世界でもフロントは美女っていう決まりでもあるのかな。

「この人の冒険者登録をしたいんですけど」

「では、この登録用紙に……ここと、ここに……」

受付のお姉さんの指示のとおりに、リンちゃんが羽付きのペンを走らせる。

「アンタの名前フルネームなんだっけ?」

「本城護です。」

「ファーストネームがマモルよね。マモル・ホンジョウで登録しておくね」

「なんでもいいですー」

「年は?」

「26さいでーす」

「案外いってんのねアンタ」

「ほっとけ」

「じゃあ王歴〇〇年生まれ、と……」

こんな感じで、聞かれたことを答えるだけでどんどん用紙に書き込まれていく。

しかし、こんな人任せの代筆で全部済ませて良いのだろうか。

もっとも、アルファベットっぽいけれど何か違うこの世界の文字は、何を書いているのかさっぱり読めなかった。

お任せするしかないだろう。そのうち文字も覚えなきゃな。

金貨1枚だという登録料を支払って、あっさり冒険者登録は完了した。

裏に名前の刻まれた、銀一つ星のネックレスを受け取り、さっそく首にかける。

「似合う?」

「ぜんぜん」

リンちゃんて絶対ツンデレだよな。

「それは身分を確かめるネームタグでもあるので、依頼遂行中は基本的に身に着けていてくださいね」

受付のお姉さんがニコっと笑いながら言う。

なるほど、ドッグタグみたいなもんか。死体になっても何処の誰だか分かるって仕組みなんだな。

たくさん貼られている依頼に興味もあったが、それを見るのは明日からにして、今日のところはギルドを後にした。

次は、服を買いに行かねば。


細かい描写は端折るが、年頃の女の子と二人で買い物をするのは素直に楽しかった。

服屋でそれぞれ思い思いの服や下着を買い、試着を見せ合って似合う、似合わないと笑いあって。

気が付けばあっという間に太陽は真上にのぼり、昼時になっていた。

「さっき店員さんに聞いたんだけど、『ボアサンド』ってのがこの街の名物なんだって!」

「食べたいん?」

「もちろんマモルのおごりでね!」

こういう娘に弱いのは俺が経験不足だからなんだろうか。

気が付けば、露店のボアサンドとフルーツドリンクを2人分買っていた。計、銅貨8枚也。

「これすごく美味しい!」

「うん、肉やわいな」

「マモありがとね!」

ついに名前すら省略され始めたよ。

「ところで、このボアって、なんの肉なん?」

「知らないの?ラッシュボアって魔獣よ」

「まじゅう!?魔獣の肉って食えんの!?」

「うーん、アタシもまだ魔法演習行ってないからそんな詳しくないんだけど、魔獣ってのは、普通の動物より魔気を吸って凶暴になった動物って感じなのかな。毒とかあるのじゃなければ普通に食べられるよ」

魔法演習に、魔気……また知らない単語が出てきた。

魔獣サンドを食べながら詳しく聞くと、こういうことらしい。


この世界では、魔法は「魔法演習」という講習を受けなければ使ってはならない。運転免許みたいなもんか。

演習は16歳になったら受けられるらしいが、大きな街にしか演習所は無いからまだリンちゃんも受けてないと。

「魔気」っていうのはこの世界のあらゆるところに溢れ出ている空気みたいなもの。

人はそれを自分に取り込んで放出することで魔法と言われる技を使えるらしい。

獣はそれをコントロールできないから、魔気を吸収しやすい種族が魔獣として進化していく。

つまり、身体は馬などの動物と大差ない。


「……じゃあ、デザートタイガーも食えたのかな」

「どっかで聞いたことあるけど、グルメマニア垂涎のレア食材らしいよ。あれ強いから狩れる人あんまいないし」

・・・・食っときゃよかった。

思いがけずこの世界の勉強タイムを過ごした後は、午後も買い物の続きへ向かった。

武具店で木剣をお互いに購入し、リンちゃんは俺に最低限の防具を見繕ってくれた。

噴水のある中央広場でさらにジュースをたかられたり、甘味の店にリンちゃんが吸い込まれていったり。

出費は激しかったが、実に楽しい一日を過ごすことができた。





この大陸のギルドは全て共通のシステム、ネットワークで連携しています。

ABCのランクはありきたりすぎるので星ランクにしてみました。

ネックレスの星は、とんがっていると痛いので少し丸めです。

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